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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第二章 教会編

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第五話 妹よ、俺は今教会に来ています。

 

『まったくあの男、何の役にも立ちませんな』


「まあ、そう言ってやるな。知らないものは仕方がないじゃないか」


 冒険者ギルドを出て次の目的地に向かう最中、コタローの怒りは収まらない。かく言う俺もがっかりしている。

 ギルド長が持っていた「忍者」スキルなのだが、本人もいつどうやって習得したのかわからないらしい。俺と同じでギルド長も「鑑定」と「隠密」を持っていたため「忍者」スキルを成長させる必要も感じずレベルは1のまま、恥ずかしいのでステータス欄から消したいなどと信じられないことを言っていた。


『かくなる上はトキオ様がお作りになった宝書を広く世界に普及すべきではありませんか?』


「何でそんなことしなくちゃいけないんだよ」


『忍者の素晴らしさを知ってもらうためです』


「オタクの布教活動みたいなこと言ってんじゃないよ」


『オタクとはなんですか?どことなく忍者の様な陰に生きる奥ゆかしさを感じさせる呼称ですが』


 何言ってんのこいつ。たしかに陰に生きるって部分は間違っちゃいないが・・・

 そもそもなんで前世の、しかも何百年も前の特殊部隊である「忍者」なんてスキルがこの世界にあるんだ。もしかして過去に忍者が転生してきたことがあるのかも。だとしたら超面白そう。


「もう着くから、大人しくしていろよ」


『オタクなる者のことを教えてはいただけないのですか?』


「そんなもの知らなくていい!」


 まったく、変なことばかりに食いつきやがって。サンセラにしてもそうだが、なんか俺が前世で想像していたドラゴンや聖獣と全然違うんですけど。



 ♢ ♢ ♢



「ここだよなぁ・・・」


 訪れたのは教会。トロンに来たら寄るようカミリッカさんに言われていたのだが、俺が想像していた教会のイメージと違っておもむきがある・・・と言うかみすぼらしい。


「すみませーん。入ってもいいですか」


 恐る恐る扉を開けると修道服を着た若い女性が駆け寄ってくる、あの人シスターだよな。よかった、教会だ。


「お祈りですか?」


「はい、よろしいでしょうか」


「勿論です。こちらへどうぞ」


 知識としてはあるが前世でも教会に行ったことがないので作法がわからない。とりあえず膝をついて胸の前で手を組んでおけばいいか。


「こちらが、当教会が信仰する女神・・」


「と、知世!」


「トモヨ?」


「い、いえ、なんでもありません。続けてください」


 まんま知世じゃん。知世が女神のコスプレをしている。


「改めまして。こちらが、当教会が信仰する慈悲の女神チセセラ様です」


「チセセラ様ですか・・・」


「はい、慈悲の女神チセセラ様です」


 世良知世が知世世良になってチセセラ?・・・あれ、そういえばカミリッカさんの前世は立花夏未だったよな。立花夏未が夏未立花になって・・・カミリッカ!

 なに、この法則。なんで俺だけそのままなの?世良登希雄だから登希雄世良になって・・・トキオセラ・・・なんか納得。


「あの・・・大丈夫ですか?」


「あっ、はい。それではお祈りさせていただきます」


「どうぞ」


 膝をついて胸の前で手を組んだのだが、妹に祈りを捧げるってなんだか変な気分だ。とりあえず『兄ちゃんは元気にやっていますよ』っと。


「・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・』


 何か来た。今俺の体に変化が起こった。


「ありがとうございました。教会に寄付をしたいのですが」


「ありがとうございます」


 カミリッカさんに渡された前世で俺が所持していた財産、金貨3600枚の内あらかじめ分けておいた半分の金貨1800枚をマジックボックスから出す。この金は両親が俺達兄妹に残してくれたもの、ここへ来る前から財産分与すると決めていた。


「では、こちらを」


「えっ、こんなに」


「はい。教会のために使ってください」


「しょ、少々お待ちください」


 慌ててシスターが奥に走っていく。額が多すぎて上の人に受け取っていいのか確認を取りに行ったのだろう。今のうちに・・・


「コタロー、俺に何が起きた?」


『慈悲の女神チセセラ様の加護を授かりました』


「マジか?」


『マジです』


 すぐにステータスを確認する。



 名前 トキオ セラ(22)

 レベル 53

 種族 人間

 性別 男


 基本ステータス

 体力 143895/143895

 魔力 195570/195570

 筋力 126405

 耐久 135150

 俊敏 147870

 器用 215445

 知能 204315

 幸運   7155


 魔法

 火  B

 水  B

 風  A

 土  A

 光  A

 闇  E

 空間 A

 時間 A


 スキル

 自動翻訳10 鑑定10 隠密10 不動心9 創造8 双剣8 瞑想7 体術7 剣術7 交渉5 料理5 槍術5 弓術5 発掘4 手加減3


 加護

 創造神の加護 慈悲の女神チセセラの加護



 本当だ、加護が増えている。



「慈悲の女神チセセラの加護」

 光属性付与

 レベルアップ時の基本ステータス上昇5倍



 マジかよ。創造神様には及ばないが、これもチートだろ。光魔法がAになったのはわかるが、基本ステータスまでこれからではなく今までレベルアップした分も遡って上がっている。

 妹よ、サービスし過ぎだ。


「いいのか?こんな簡単に強くなって」


『簡単ではありません。それだけトキオ様が徳を積まれてきた証です』


 いいや違うね。創造神様はまだしも妹の方は単なる身内贔屓だよ。絶対そうだ、お兄ちゃんにはわかっているからな。


 目の前にある妹のコスプレ像を一睨みしてやると、悪戯が成功した時のように笑った気がした。




「マザー、こちらの方です」


 シスターが連れて来たのは同じデザインの修道服を着た中年の女性。マザーと呼ばれているところからも役職が上の方なのだろう。


「はじめまして、この教会の責任者をしておりますループです。多額の寄付をしていただき感謝いたします」


「教会のために使ってください」


「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ええ、どうぞ」


 日本円にして1800万もの大金だ、不安に感じるのも当然。ちゃんと答えは用意してありますよ。「冒険中に運よく金の鉱山を見つけて大金を得たので社会貢献したい」これでどうだ。マジックボックスに大量の金塊もあるし、嘘が下手な俺でもこれならいける。


「あなた様は、トキオセラ様でしょうか?」


「えっ、あっ、はい・・・トキオセラは俺の名ですが」


 なんで俺の名前を知っているの?


「マザー!」


 俺の名を聞いたマザーループが突然涙を流しながら床に両膝を付き胸の前で手を組み祈り始める。シスターはびっくり、それ以上に俺がびっくり!


「あの・・・」


「はっ、申し訳ございません」


 俺が声を掛けようとすると、今度は額を床に擦りつける。

 なんで?なにこれ?なんで土下座?


「頭を上げてください。とりあえず、俺の名を知っている理由から説明してもらえませんか」


「かしこまりました。昨日夢でみた慈悲の女神チセセラ様の御言葉をそのままお伝えします」


 女神の言葉・・・なんだか嫌な予感がする。


「明日、一人の青年が現れ教会の窮状を救う。青年の名はトキオセラ。青年の成すことに助力せよ」


 妹よ、何やってくれちゃってるの!


「パトリから多額の寄付を申し出る青年が現れたと聞き、トキオセラ様の御姿を拝見して確信いたしました。あれは神託だったのだと」


 マザーループの話を聞いてシスターまで両膝付いちゃったよ。どうすんの、これ。


 ただ、教会の窮状を救うってのは気になる。妹を信仰する教会が危機的状況なら手助けしてあげたい。場所を変えて詳しい話を聞くか。


「場所を変えましょう。教会の現状を詳しく聞かせてください」


「かしこまりました。パトリ、私はトキオセラ様を来客室へご案内するので、あなたはお茶の準備を。勿論教会にある最高級の物ですよ」


「はい、すぐに準備致します」


「では、こちらへ」


 マザーループに案内され部屋へ向かう途中、妹の女神コスプレ像にもう一度目を移すとニヤリと口角を上げた気がした。



 ♢ ♢ ♢



「あの・・・どうしてそんなところに?」


 マザーループに促されソファーに腰を下ろすとシスターパトリが良い香りのする高級そうな紅茶を出してくれた。ここまではいい、問題はその後。二人は対面のソファーに座らず、並んで床に正座した。


「私共はここでかまいません」


「いや、いや、いや、ダメですよ。ソファーに座ってください」


「トキオセラ様と同じ高さに座るなど」


 妹のせいでおかしなことになったぞ。しかし、神託に名が出たからといはいえどうしてここまでへりくだるんだ?


『コタロー、どうしてこの人達は俺のことを敬うかわかるか?』


『はい、この二人は慈悲の女神チセセラ様に最も近しい者達だからです。女神様の兄君であられるトキオ様から感じ取るものがあるのでしょう』


『マジ、そんな簡単に正体がバレるの?』


『この者達が特別なだけでトキオ様の正体が簡単にバレるようなことはありません』


『気付かなかったことにしろと命令すればどうなる?』


『間違いなく、この者達は自ら命を絶つでしょう』


 面倒くせー、ホント勘弁してよ。これは隠し通せそうもないな。


「教会の話を聞く前に俺の方からお二人に話しておきたいことがあるのでソファーに座ってください」


「滅相もございません。ここで十分でございます」


「では、俺も床に座って話しましょう」


「な、なりません・・・承知いたしました。畏れ多いことではありますが私共が移動させていただきますので、どうかトキオセラ様はそのままで」


 勝った。営業で培った俺の「交渉」スキルをなめちゃいけないよ。

 なんとか同席するまでは持ち込んだが二人とも頭は下げたまま。やり辛いがこのままでは埒が明かないので仕方なく話し始める。


「これからお二方に話すことは他言無用でお願いします」


「かしこまりました。もし、他言するようなことがあれば自ら命を絶つと、慈悲の女神チセセラ様に誓います」


「誓います」


 あなた達・・・慈悲の女神に自害を誓っちゃダメでしょ。


「慈悲の女神チセセラ様がまだ人間だった頃、兄が居ました。それが前世の俺です」


 二人は目を見開くとソファーから下りて膝を付こうとする。


「ストップ、ストップ、ダメですよ。そのままソファー座って話を聞いてくださいね」


 なんとか食い止めたが見ているこっちの方が気の毒に思うほど恐縮している。早く俺の話を終わらせねば。


「妹は女神となりましたが俺はお二方と同じただの人間です。普通の青年と同じように接してもらえると嬉しいです」


「そのようなことは・・・」


 ここで「交渉」発動!


「どうか、お願いします」


 テーブルに手をついて頭を下げる。


「あ、頭をお上げください。トキオセラ様、どうか頭を・・・」


「普通に接しすると言ってもらえるまでは上げません」


「か、かしこまりました、トキオセラ様。どうか、頭をお上げください」


 頭は上げず話を続ける。


「俺に敬語は不要です。普通の青年と同じように話してください」


「かしこま・・・わかりました。トキオセラ様、どうか頭を上げてください」


 まだ上げない。


「様はいりません。俺のことはトキオと呼んでください。お願いします」


「わかりました。わかりましたからトキオさ・・・ん。どうか頭を上げてください」


 ここで漸く満面の笑みで頭を上げる。


「約束しましたからね、マザーループ。シスターパトリも」




 さて、ここからが本題。


「慈悲の女神チセセラ様の神託にあった、教会の窮状を詳しく教えてください」


「はい。私がこの地に教会を開いたのは今から二十五年前です・・」




 今から二十五年前、王都にある創造神様を信仰する教会のシスターだったループは夢を見た。夢の中に現れた創造神様の言葉はこうだ「この世界に新たな女神が誕生する。慈悲の女神チセセラの教会を設立せよ」

 ループはこの夢が神託だと確信し、シスターを辞して新たに教会を設立すべく奔走する。いくつもの街に足を運び援助を申し出るが良い返事はもらえず、ようやく援助してもよいと言ってもらえたのが王都から最も離れた街トロン。今でこそブルジエ王国第三の都市となったトロンだが当時は人も物も集まり始めたばかりで治安も悪く、領主にとっても教会の設立は願ってもない話だった。両者のもと教会を建てる土地の無料譲渡と十年間の資金援助で話はまとまる。ループは既に他界した両親が残してくれた遺産となけなしの私財を全て投げうち、かくしてこの地に慈悲の女神チセセラを信仰するセラ教は誕生した。


 教会を開いたループが最初におこなったのは孤児の保護。魔獣の大森林と隣接するトロンは仕事を求め冒険者が集まる街になったが、冒険者が集まれば集まるほど命を落とす冒険者も増え、子供を残したまま帰らぬ者も増えた。いつ頃からか街を徘徊する浮浪児が徒党を組み悪さをするようになり、トロンでは社会問題になりつつあった。

 ループはそんな子供たちを放ってはおけなかった。街で孤児を見かければ片っ端から声を掛け、一人ひとり我慢強く説得し教会へ連れて帰っては寝床、清潔な衣類、食事を与え教育を施す。集会用に建てた講堂は孤児院に変り、街からの援助金はそのほとんどが子供達のために使われた。いつからか、ループは子供達からマザーと呼ばれるようになる。それは教会の役職ではなく、本来の意味通りのマザー。たった一人で子供たちの世話をするループは文字どおり母親だった。


 最初の危機は教会を設立して十五年目、約束の十年が経ち更に五年間引き延ばしてきた資金援助の打ち切りが決まった。ループは何度も役場に足を運び資金援助の延長を願い出たが認められることはなかった。多くの孤児を受け入れ浮浪児を一掃したループの働きは街側も一定の評価はしていたが、トロンの街が求めた教会は孤児院ではない。街の住人に心の安寧をもたらし、粗暴な冒険者の抑止力になる教会だ。たった一人で子供たちの世話をするループには、積極的な布教活動や街の有力者との会合をする時間が無かった。

 窮地に立たされたループだったが、二つの奇跡が彼女を救う。一つ目は、今まで属性は持っていたものの魔力量の少ないループでは成長させることが出来なかった光属性が突然EからDに上がり、回復魔法が使えるようになったこと。これにより怪我をした街の住人や冒険者の治療ができるようになり、教会に寄付金が入るようになった。

 二つ目は、当時は成人したばかりで十五歳だったシスターパトリが教会を訪れてきたこと。パトリが教会を訪れた理由がこの地に教会を設立した自分とあまりにも酷似していたことにループは驚く。

 パトリは十五歳の誕生日に夢を見た。夢の中に現れた自分が信仰する創造神様と弟子である慈悲の女神チセセラ様が残した言葉は「トロンの街で教会を運営するマザーループの手助けをせよ」

 調べてみると確かにトロンには慈悲の女神チセセラ様の教会があり、責任者にはループの名があった。元来信仰心が篤く高い道徳心をもったパトリは神託だと確信する。親の反対を押し切り、夢を見た二日後には馬車に乗った。

 旅の途中で馬車に同乗していた妊婦が体調を崩した時、突然自分には回復魔法が使えると気付く。聞いたことのない詠唱が自分の口から発せられ、みるみるうちに妊婦の体調が改善する。これが慈悲の女神チセセラ様からのギフトだと疑う余地は無かった。

 ループとパトリは力を合わせ治療活動で集まる寄付金でなんとか孤児院を維持し続けた。成人し孤児院を巣立って働き始めた人達がお祈りに来ては寄付をしてくれるようにもなり、安定とはいかなくとも明日の食事を心配するようなことはなくなった。


 それから四年、料金設定が無く善意の寄付のみでおこなわれていたループとパトリの治療活動は貧困層やランクの低い冒険者の間で評判となり教会の運営は安定する。中には子供の小遣いにも満たない金額しか寄付しない者も居たが、ループとパトリは無い者から無理に寄付を受け取ろうとはせず逆に食料や衣類を分け与えることもあった。


 そんな中、新たな問題が浮上する。突貫工事で建てた建物の老朽化だ。特に子供達が暴れまわる孤児院の雨漏りが酷く、それに伴う床や壁の腐食が激しい。生活は安定したとはいえ孤児院を修繕するほどの蓄えは無く、ループとパトリは廃材を貰ってきては自分達で修理をしてきたがそれも限界だった。一度孤児院の修繕費を見積もってもらったことがあったが出された金額は最低でも金貨500枚。とてもではないがループとパトリにそんな大金は用意できない。そんな二人に融資を申し出てくれたのが、大通りを一本奥に入った場所で一年前に店舗を構えたイレイズ銀行。利息も低額で返済も一年後からという条件に二人は飛びつく。念願だった講堂の修繕も叶いループとパトリは一年後から始まる借金の返済に向け今まで以上に治療活動に従事する。

 一年後、なんとか返済の見通しが立つ程度には貯蓄もでき安心する二人の前に現れたイレイズ銀行が持ってきた契約書は、一年前ループが交わした契約書と全く違うものだった。

 利息は法定金利上限、返済は一括、金貨700枚を要求される。これには温厚なループも黙っていられず自分が持つ契約書を提示して契約違反を訴えるが、イレイズ銀行はループの持つ契約書は偽物であり自分達の持つ契約書が本物だと主張する。返済が出来ないのであれば教会の土地を渡せと言われ、ようやくループは自分が騙されたのだと気付いた。




『コタロー、イレイズ銀行を探ってこい。あと、奴らが所有する土地の情報もだ』


『御意』


 俺の後ろから「隠密」を解除したコタローがひょっこりと姿を現す。暗い話で気分が落ち込んでいるマザーループとシスターパトリが驚きつつも少しだけ元気を取り戻した。


「俺の相棒でコタローと言います。退屈なので散歩にでも行きたくなったのでしょう」


「かっこいい小鳥さんですね」


 おお、可愛いではなくかっこいいとは、シスターパトリはなかなかセンスがある。


「行ってこい、コタロー」


 俺の肩から飛び立ったコタローはすぐさま「隠密」で気配を消した。



「今の話ですが、俺に預けてもらえませんか」


「寄付していただいたお金で十分解決できます。これ以上トキオ様のお手を煩わせては・・・」


「マザーループ、戻っていますよ。話し方」


「あっ、申し訳・・・すみません」


 金を渡してもこの件は終わらない。狙いは教会の土地なのだ、別の手で必ず仕掛けてくる。それ以前に、善意の塊のようなこの人達を騙そうとするイレイズ銀行を野放しにはしておけない。妹の教会に手を出した報いは受けてもらう。


「マザーループ、シスターパトリ。俺のような若輩者が簡単に口にしていいかはわかりませんが、お二方がこの地でしてきたことに只々感服し尊敬の念に堪えません。だからこそ、お二人のような方を騙し子供達から安寧の地を奪おうとするイレイズ銀行が利を得るようなことはあってはならない。俺はきっとその為にここへ来たのだと思います」


「トキオ様・・・」


「マザー、トキオ様ではなくトキオさんとお呼びしなきゃダメですよ」


「そ、そうでした・・・つい」


「すみません、トキオさん。マザーはとても尊敬できる方なのですが、たまに抜けたところがあって」


「まあ、パトリ。あなたがそれを言いますか」


「この前だって・・」


 親子のように軽口を言い合う二人。きっとこの二人は計り知れない苦労を共に力を合わせ笑顔で乗り切ってきたのだろう。子供は親の顔色を見て育つ。孤児院の子供達にとって母であり姉である二人の顔を曇らせたイレイズ銀行の罪は重い。


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