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【第4話】

 そんな訳で男がご指名した面々で説教である。



「子供の前でみっともなく喧嘩ですか。ベティの情操教育に影響したらどうしてくれるんですか? 大人の怒声や両親が喧嘩する姿を子供に見せれば将来的に何らかの影響があるんですよ人の話を聞かないお猿さんたち」


「いやでも」


「これはその」


「えっと」


「うぬぅ」


「申し訳ございませんでした」


「すみませんでした」


「ごめんなさイ♪」


「エドさんとアイゼさんとリリア先生はお説教免除です。端に避けていてください。他の人は言い訳をしたのでお仕置きです」



 男がタンタンと二度ほど床を踏みつけると、大量の炎腕がグローリア、スカイ、ルージュ、八雲夕凪にそれぞれプロレス技を叩き込む。全身の骨を折らん勢いでプロレス技が展開されるので、4人分の悲鳴が起きた。

 一方で、男の方は容赦がなかった。プロレス技を仕掛ける炎腕たちに「学院長をシメる担当、手つきが甘いぞ。背骨を折る勢いでやってくれ」とか「副学院長担当はもう少し腰を捻らせるようにしよう」とか指示を出していく。そのたびに悲鳴が大きくなるので、余計に子供の教育に悪そうだ。


 ベティを抱いていたショウは、



「ベティのお母さんは、その」


「ああ、すまない。ずっと抱かせていたままにしてしまったな」



 炎腕にプロレス技の指示を飛ばしていた男は、何事もなかったかのように振り返る。それからショウの手からベティを受け取り、



「ベティ、怖かっただろう。悪い大人たちは『めっ』しておいたからな」


「でも、ぱぱとままがいじめられてたの」



 ベティは男の肩口に額を押し当て、小さな声で「きらい……」と漏らす。やはりユフィーリアと父親のキクガが詰められていたのが原因だろう。


 男は驚いたように赤い瞳を丸くする。それからユフィーリアとキクガ、ショウを見比べてから納得したように頷いた。

 肩口に額を押し付けてスンスンと鼻を鳴らすベティの頭を撫で、彼は優しく「ベティ」と呼びかけた。母親の肩に顔を押し付けて泣いていたベティは、呼びかけへ応じるように顔を上げる。


 涙の跡が残るベティの頬を指先で撫でた男は、



「この人はじーじだぞ。残念だけどママではないんだ」


「じーじなの?」


「そうだ。背格好が似ているから間違えてしまったな」



 ベティは勢いよくキクガへ振り返り、



「ごめんね、じーじ。べてぃ、まちがえちゃった」


「じーじ、ということは」


「貴方の孫だぞ、父さん」



 男は「はい」とベティをキクガに抱かせる。

 なし崩し的にベティを抱くことになってしまったキクガの顔に、ベティがぺちぺちと手を伸ばす。「じーじだ、じーじ」とキクガに抱っこされてご満悦のようである。


 ユフィーリアは震える指先を男に向け、



「じゃあ、まさか」


「気づかなかったのか、ユフィーリア?」



 男は綺麗に微笑み、左手を掲げる。

 すらりと伸びた左手薬指には、見覚えのある指輪が嵌っていた。雪の結晶が刻印された魔女の従僕サーヴァント契約を結んだ際に出てきた契約印である指輪と、深海を閉じ込めて宝石にしたような石をあしらった結婚指輪だ。現在、ショウの左手薬指にも同じ指輪が嵌っている。


 2つの指輪に唇を落とした男は、



「いつだって俺は、貴女の可愛いお嫁さんだぞ」


「ショウ坊!?!!」



 ユフィーリアは驚愕の声を上げた。


 ショウだって驚いた。そして同時に納得した。

 目の前に立つ未来のショウは背も高く美人で、本当にキクガとそっくりなのだ。違いと言えば髪の長さぐらいだろうが、それでも伸ばしたり縮めたりして長さを揃えてしまえば分からない。


 未来のショウは小さく笑い、



「遅れて成長期が来たものだから、急に身長が伸びたんだ。今は189セメル(センチ)あるだろうか」


「もうほぼ親父さんと変わらないじゃねえか」


「だからベティがよく父さんと俺を間違えるのだろう。最近では父さんからもらったお下がりの着物を着ているから」



 未来のショウは「今日はさすがに動きやすい格好で来ないと娘を探せなかったから地味なのだが」と照れ臭そうに言う。


 将来的な自分がまさかこんな風に成長するとは感動である。見上げるほど身長も高くなり、可愛さはなくなっただろうが綺麗になった。尊敬する父親に近づくような形になって嬉しい限りである。

 ならば自分にもその可能性があるのだ。何故なら、今目の前にいる男は未来からやってきたショウである。今に身長もぐんと伸びて、あと筋肉もちょっとついたりするのだろう。



「あ、過去の俺。今から脅しておくが、身長が急に伸びたから成長痛が凄まじいぞ。覚悟しておけ」


「ぴい……」



 未来のショウから脅しをかけられ、ショウはか細い声を漏らした。予想できていたが、やはりそうだったか。



「ほらベティ、この人が貴女のママだ」


「まま?」


「そうだ。昔はまだ身長もここまで高くないし、可愛いだろう」



 キクガの腕に抱かれたベティが、青い瞳をショウに向けてくる。

 透き通るような青い瞳で見据えられると、それはまるでユフィーリアに見つめられているような気分になる。宝石の如き色鮮やかな双眸がまさにそっくりなのだ。


 小さな手をショウに向けて伸ばしてきたベティは、



「ままだったの?」


「そのようだな」


「まま、かわいいねぇ」



 ベティはふにゃりと顔を緩めて、



「べてぃね、ままがだいすきだよ」


「俺のことを好きでいてくれてありがとう」



 ショウはベティの頬を指先でくすぐると、



「未来で待っていてくれ。すぐに会いにいく」


「うん、まってるね」



 ベティは嬉しそうに笑いながら応じてくれた。両親の教育がよく行き届いているのか、純粋無垢で素直ないい子である。



「ベティ、そろそろ帰ろう。パパが心配してる」


「うん」


「パパに『ごめんなさい』って言えるか?」


「うん、ごめんなさいする」


「よし、いい子だ」



 未来のショウはキクガからベティを回収し、娘の頭を優しい手つきで撫でた。大きな手のひらを享受するベティは猫のように目を細めて母親である未来のショウに甘える。

 帰ろうとした矢先だが、未来のショウが何かを思い出したように「あ」と言う。それから振り返って、ショウの方に大股で歩み寄ってきた。


 何をされるのかと思えば、彼は唇をショウの耳元に寄せて小さな声で囁く。



「18歳を迎える誕生日を皮切りに、ユフィーリアから毎日のように求められることになる。今のうちから体力をつけておいた方がいいぞ。彼女の体力は無尽蔵だから、今のままでは抱き潰されてしまう」


「え……」



 弾かれたように顔を上げれば、未来の自分は愛おしげに自らの薄い腹を撫でた。



「だから2人目がいるんだ。まだ3ヶ月なのだが」


「うえッ、はぅあッ!?」


「そんなに驚くことか?」



 未来のショウは「そんなに純粋ではないだろう、貴方は」などと言うのだが、もうそういう事態ではない。

 衝撃の事実を明かされてしまい、どう反応していいのか分からなくてなる。今はまだ17歳だし、指定された年齢まで残り僅か1年である。長いようであっという間に過ぎ去っていき、1年後にはそういう関係に急発展してしまうのだ。


 ぐるぐると思考がまとまらないショウは、とりあえず未来の自分に聞けることを聞く。



「あの、まだ間に合うだろうか」


「エドさんに指南を仰ぐといい。1ヶ月程度でどうにか出来るほどの体力がつくと思う。筋力よりもまずは体力をつけてくれ」



 未来の自分はショウの肩を叩いてくると、



「貴女はユフィーリアに愛されている。その自信を持ってくれ」


「あぅ……」


「ではな、過去の俺。誕生日おめでとう」



 未来のショウは娘のベティを抱きかかえ、颯爽と用務員室を去っていく。去り際、ベティが背中越しに手を振ってくれて「ばいばーい」という明るい声が残された。

 嵐のような来訪者である。かなりの遠方からやってきたお客様だが、無事に帰れることを祈るしかない。特に母親の方は、今は大事な時期なのだから。


 ユフィーリアはショウの顔を覗き込み、



「ショウ坊、未来のお前から何か吹き込まれてたよな? 何か言われた?」


「あぅ、あぅぅ……」


「ショウ坊?」



 最愛の旦那様の顔を見るのが急に恥ずかしくなってしまったショウは、自分の顔を覆ってハルアの背中に隠れる。



「ちょっとしばらく近づかないでくれ、ユフィーリア……」


「何で!? え、未来のアタシはお前に何かしたのか酷いことだったのか!?」


「聞かないで……」



 恥ずかしさのあまりとうとう泣き始めたショウに、ユフィーリアの訳も分からず「ごめんショウ坊!?」という謝罪の言葉が用務員室に響き渡るのだった。

《登場人物》


【ショウ】未来の自分が本当に父親そっくりに育っていて驚いた。ただ、余計な情報も寄越しやがったので旦那様の顔がまともに見れなくなってしまった。そういうお年頃なのだ。

【ユフィーリア】嫁に拒否されたと勘違いする魔女。未来の嫁がそれはそれはもう美人に成長しており大層驚いた。そりゃ「ママじゃない」と言われるわ。

【ハルア】未来のショウちゃんの身長が高くなっていたことに軽くショックを受ける。オレは置いてけぼりか?

【キクガ】まだ生まれていない孫を抱くことが出来てちょっと嬉しい。


【エドワード】素直に謝ったから説教を免れた。確かに未来のショウがキクガとそっくりなのでこれなら納得である。

【アイゼルネ】素直に謝ったから説教を免れた。キクガと未来のショウが瓜二つなので、子供なら間違えてもおかしくない。

【リリアンティア】素直に謝ったから説教を免れた。ショウの身長がぐんと伸びていたので羨ましい。


【グローリア】素直に謝らなかったのでお仕置きを受けた。大人の方がだいぶ優しい気がする。

【スカイ】素直に謝らなかったのでお仕置きを受けた。背筋を矯正されたことで、しばらく姿勢が良かった。

【ルージュ】素直に謝らなかったのでお仕置きを受けた。乱暴さはやはり父親譲りだと実感する。

【八雲夕凪】素直に謝らなかったのでお仕置きを受けた。ここまで似ているとは思っていなかったのじゃ。


【未来のショウ】ベティの母親。18歳となり正式にユフィーリアのお嫁さんとなり、毎日のように愛されて幸せな世界で誰よりもお嫁さん。愛されたことが原因で自分にも自信がつき、身長も伸びたし筋肉も多少はついた。現在、3ヶ月の子供を妊娠中。

【ベティ】本名はベディヴィア・エイクトベル。みんなからベティと呼ばれるので自分もベティと呼ぶようになる。

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