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伍拾圓玉


   伍拾圓玉


 小さな頃、よく虫取りをしていました。

 小学校の校舎の裏手側に、車が壱台(いちだい)通れる程の舗装されていない土道があっりました。

 その先に(かわや)が出っ張っていたりして、少しグニャリと其の土道は曲がっておりました。

 グニャリと(かわや)の出っ張りで曲がった道の横には小高い丘がありまして。

 其の小高い丘の上には、小さな祠の神社に木の鳥居等がありました。

 数本の木が生えてはおりますが、登ってみますと見晴らしも良くて。

 小さな町が見渡せる、皆でビ〜(だま)(なん)かを偶にしたりいたします。

 今は陽気な遊び場の(ひと)つでもありました。

 学校は元々は墓地の跡地(なの)ですが……と、言いましても、此の学校を建てる為に墓地を丸々移動させたと言うものですからね。

 跡地は跡地でも、仕方の無い跡地ですね。

 此の神社もですね、今は陽気な感じではあるんですがね。

 元々は墓地との間に谷がありまして、木に覆われた薄暗い所だったそうで、多くの方々が亡くなるような有名な名所だったそうです。

 が……わたくしもお爺からまことしやかに聞き(かじ)った程度でおりまして、そこんところはよくわかりませんでして。

 すみませんで御座います。

 其の神社と(かわや)の間の、谷を埋め立てられまして出来た土道は、校舎の裏手と言う事もあり、(かわや)の裏手でもありまして……何時も何時もジメジメしておりました。

 その手前の水溜りのあるような道脇に、銀杏並木がありました。

 すぐ向こう側が斜面の土手になっておりまして、明るい緑色と申しますか……色褪せて白っぽくなりましたフェンスがありまして。

 所々錆びて穴が空いたりなんか致して、グニャリグニャリと手で押せば曲がってしまうような申し訳程度のフェンスでした。

 わたしの目的は、其の銀杏の木の根元に壱寸(ちょっと)した(うろ)と申しますか穴凹がありまして。

 其の穴凹の底を カリカリカリカリと掘ります。

 蝉の幼虫が、取れたりしますものですからね。

 この日もカリカリカリカリと、穴凹の底を掘っておりました。

 いくら掘りましても、何も出て参りませんで諦めかけておりましたところ。

 カチリと音が……(なん)だろうと、土を掻き分けながら見てみますと……土塗(つちまみ)れの丸い金属のようなものが出て参りました。

 手に取り土を取り除いていきますと、古そうな伍拾圓玉でした。

 何年のものかは覚えておりませんが、確かに伍拾圓玉でした。

 咄嗟に、あっ! お金を拾ったら交番に届けなくちゃと、慌てて伍拾圓玉を握りしめ交番へと掛けて行きました。

 と、言うのもですね。

 学校の石の校門から石階段を降りまして、ゲジゲジだらけの桜や、ゆらゆら揺れる柳の横を通り抜け、坂道を下りました所に小さな交番があったから(なん)です。

 登校するときには、何時もニコニコと笑って見送ってくれる感じの良いお巡りさんが居られました。

 お巡りさん、お巡りさん!

 お金拾ったよと、交番に駆け込ん行きますた。

 何時ものニコニコした、お巡りさんが偉いねと褒めてくれました。

 これっと、まだ土が着いていてかろうじて、伍拾圓玉だとわかる其れを差し出しました。

 あははははと……苦笑いされていたのを覚えています。

 何処で拾ったの、住所書いて、名前は……と、言われるままに喋っていくと、お巡りさんが……ふんふん、ふんふんと頷きながら書類に書いてくれました。

 確かに預かりましよ!

 持ち主が半年だったか、壱年(いちねん)だったか忘れましたが……現れ無かったら、君に帰って来るからねと教えてくれました。

 有り難う御座いました。と、交番を後にして、もう虫取りの事等すっかり忘れてしまってました。

 子供の頃は、そんなもんですよね。

 其の伍拾圓玉の事すらも、忘れてしまっておりました。

 時は過ぎて……ふと、そこにはもう、交番は姿も形もありません。

 噂ではありますが……お巡りさんがある日突然居なくなったそうなのです。

 暫くは無人となっていたそうです。

 詳しい事は結局分かりませんが、あの伍拾圓玉は、神社におさめた方が良かったのかなと……今は時々思うことがあります。

 誰かが、あの銀杏の根元の(うろ)に埋めたものだったのかもしれません。

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