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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
8/22

待ちぼうけ



 翌日、俺は作業や接客をしながらセルレさんのことを待っていた。昨日訪ねると事前に言ってもらえたので、色々と準備をしておいたのだ。しかし……


「来ないなぁ」


 その日の夕方になってもセルレさんは店には来なかった。まあ、何か急用でも入ったのだろう。それこそ、急な依頼が入ったとかな。


 結局、その日はセルレさんが来ることはなかった。そして、翌日も同じように、いくら待てどもセルレさんは来なかった。


「流石におかしいよな……」

「どうしたの?」


 夜、売り上げを見ながらボソッと呟くと、ラピスにそう聞かれた。俺は一昨日の買い出し中の出来事をラピスに話す。


「一昨日の買い出しの時に会ったセルレさんが昨日店に来るって言ってたんだけど、何の連絡もないまま今日まで来なかったんだよ。だから、何かあったんじゃないかと思ってな」

「なるほどね。でも、それってただ単純に依頼が長引いてるだけじゃないの?」

「いや、依頼の場所はヴリンス鉱山だぞ?もし達成できなそうなら一度戻ってくるって。一日で終わる予定なら、食糧とかもそんなに持ってないだろうし」


 まあ、ここで考えてるだけでは埒があかない。明日にでも冒険者ギルドへ向かおう。




 というわけで、やって来ました冒険者ギルド。受付の人にでも聞いてみれば、依頼を終えたかどうかくらいは分かるだろう。


「あの、すみません」

「はい、どうされましたか?」


 受付にいた職員の女性は笑顔で言う。


「俺は『ウォーティー』という店を経営しているシンジというものです。こちらに登録しているBランク冒険者のセルレさんという方に用があるのですが、連絡が取れないんです。何かご存じではありませんか?」

「セルレさんですか……。たしか三日前に依頼を受けてからはギルドには来てませんね。依頼完了もしてませんし、おそらくまだ依頼をしている最中だと思います」


 やはり戻ってないのか。ならば、依頼の途中で何かトラブルがあったと考えるのが妥当だな。


「ありがとうございます」


 俺は受付の女性に礼を言って冒険者ギルドを後にしようとした。その時、後ろから冒険者の一人に話しかけられて立ち止まる。


「なぁ、ちょっと待ってくれ」


 話しかけてきた男は銀色の鎧を着て大剣を背負った、ごく普通な冒険者だった。ただ、その顔は何かを知っているように見えた。


「何か?」

「いや、ちょっと話が聞こえてな。セルレが受けた依頼の内容って知ってるか?」

「ヴリンス鉱山にいる魔物の討伐ですよね?あそこの魔物は弱いのでそれほど時間はかからないとも言ってましたよ」

「そうか。なら、そこら辺を説明する手間は省けるな」


 男の口ぶり的にもやはり何かを知っているみたいだ。それが今回のことと関係があるのかは分からないが。


「どういうことですか?」

「俺はガロンって言うんだが、セルレとアルマとは顔見知りでな。今回の依頼をあいつらが受ける時に止めたんだが、大丈夫だと言って聞いてくれなかったんだ」

「止めたってことは何かその依頼に問題でもあったんですか?」

「実はここ最近、ヴリンス鉱山に関する依頼を受けた奴が帰ってきてないんだ。ギルドの方でも調査はしようとしてるみたいだけど、色々と申請が必要でまだ始めてないらしくてな。だから、行くのはやめた方がいいって言ったんだ」


 この人の言っていることが本当なら、セルレさんたちの状況は非常にまずいということになる。それ以前にもう……。


 俺は首を横に振る。嫌な考えを消し飛ばすためだ。まだ確かめることもしてないのに、最悪の想定で悩むのは避けなければ。


「分かりました。教えていただきありがとうございます」

「いや、俺も少し後悔してたんだ。あの時、もっと強く止めてればって。だから、俺がギルドに掛け合ってみるよ。早く調査してくれってな」


 ガロンさんはニッと笑って、グーサインを作る。ギルドの対応に関しては彼に任せるとしよう。まあ、そんなものは待ってられないんだけどな。


 ガロンさんと別れてから、俺は一度店に戻った。色々と準備を整えるためだ。そして、しばらく店を空ける旨をトルーに伝えてヴリンス鉱山に向かった。





◇◇◇





「はぁ……はぁ……」

「くっ……まだ追ってきてんのか……!」


 ぼんやりとしたか細い灯りしかない狭い道を彼女たちは一生懸命走る。自分たちを殺さんと追いかけてくる者から逃げるために。


「きゃっ!」

「セルレ!」


 青髪の少女セルレが隆起した地面につまづいて転ぶ。それを赤髪の少女アルマが起こしてもう一度走り出す。


「ごめん、アルマ……」

「気にすんなって!音は聞こえてるけど、()()はまだ遠いから。それよりも足は大丈夫か?」

「うん。ちょっと擦りむいただけだから平気だよ」


 セルレはそう言って笑うが、アルマはセルレが無理をしていることに気づいていた。なぜなら、彼女たちは一日の間何も食べてないのだ。初めてこのヴリンス鉱山に入った日にアレと出会い、倒せないと分かってから二日も逃げ続けているのだ。食料も前日に尽きてしまい、あとは僅かばかりの水しか残っていなかった。


「ねえ、アルマ。出口にいた奴らは消えてると思う?」

「いや、アタシたちがまだ中にいるって分かってるうちは、出口からいなくならないと思う」

「そう、だよね……」


 彼女たちはアレに勝てないと分かってからすぐにヴリンス鉱山を脱出しようとした。しかし、出口はすでにアレの配下が大量に待ち伏せしており、出ようとすると邪魔をするだけでなく、アレを引き寄せるのだ。だから、彼女たちは鉱山から抜け出せずにいた。


(不味いな……。セルレはもう限界に近い。アタシは普段から鍛えてるからまだ大丈夫だけど、セルレは魔法使いだからな……。体の疲労は魔法でもどうにもできないし、最悪アタシがおぶって逃げるか……)


 アルマはそう考える。だが、しかし彼女は気づいていなかった。自分たちが着々と追い込まれていることに。


「ここは……」


 狭い道を抜けると、先ほどまでとは大違いのだだっ広い空間に出た。ここは明かりがひとつもなく、かろうじて少し先が見えるだけだった。

 

「セルレ、明るくできる?」

「うん」


 セルレは魔法を使い、辺りを照らす。よく見えるようになったその空間はただの空洞のように何も無かった。強いて言うなら、空間の中央の地面が少し盛り上がっているくらいだ。


「とりあえず、今のところは近くにいないみたいだし、少し休憩するか」

「うん、そうだね」


 二人は壁際に座り込む。すると、今までの疲れがどっと襲ってきた。それもそのはず、二人はこの三日の間ほぼ眠れていないのだ。今みたいに少し落ち着いたタイミングで、交代で休憩を取っているぐらいで、熟睡はできていない。まあ、こんな状況で熟睡できる人間など、そうはいないだろうが。


「ねえ、アルマ」


 セルレは小さな声でアルマを呼ぶ。


「なんだ?」

「今までありがとね。私、すごく楽しかったよ」


 その言葉に、アルマはセルレが諦めかけていることを察した。そして、フッと笑い、セルレに一発デコピンを入れた。


「痛ッ!」

「なに諦めてんだよ。アタシたちは今までもこれからもずっと一緒だ。こんなところで死ぬわけにはいかない。そうだろ?」

「アルマ……。そうだね。ごめん、ちょっと弱気になってた」


 そう言ってセルレは微笑む。アルマもセルレの様子が戻ったのを見て安心する。だが、彼女たちはよりにもよって最悪な場所で話をしていた。それは……。


「よし、じゃあそろそろ行くか」

「うん、そうだね」


 ある程度休憩はできたので、二人は立ち上がる。その時、地面がものすごい勢いで揺れ始めた。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 そして、地面が突き破られ、そこから大きなムカデが姿を現した。


「な、《気配察知》には何一つ反応しなかったぞ!?」


 アルマは天職である『戦斧使い』の能力である《気配察知》で常に索敵をしていた。これまでは《気配察知》で大ムカデの場所が分かったのだが、今回に限ってはなぜか《気配察知》に反応しなかった。


 しかし、その理由は至極単純だったりする。《気配察知》が及ぶ範囲は球状ではなくドーム状なのだ。つまり、自分の前後左右と上は反応するのだが、下から来たものには反応できないのだ。これまで大ムカデは二人の後を追っていたので反応していたが、今回は地面から来たので分からなかったというのが理由だ。


 それを知らないアルマだが、すぐに背中の斧を持ち戦闘体制に入る。セルレも杖を構えて魔法の準備を始めた。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 アルマはセルレの魔法の詠唱時間を稼ぐために大ムカデに斬りかかる。しかし、大ムカデが尻尾らしき場所を振り回してアルマを吹き飛ばした。


「が……ッ!」


 吹き飛ばされたアルマはちょうど部屋の中央の少し盛り上がった部分で止まった。


「くそ…………!?」


 自身が転がった場所のすぐ近くで異様な音が聞こえたので、アルマはそちらの方を向く。すると、そこには真っ白い楕円形のもの、生物の卵があったのだ。


「キシャァァァァァァァ!!!」


 大ムカデは卵の方に飛んでいったアルマに咆哮を浴びせる。顔はよく分からないが、どうやら激しく怒っているようだ。


「これはアレの卵ってことか。つまり、ここは……」


 アルマの思った通り、ここは大ムカデの住処である。彼女たちがここに来てしまったのは最悪の事態だろう。もしくは、大ムカデによって追い込まれてしまったと言うべきか。


「きゃぁぁぁぁ!」


 アルマが吹き飛ばされてしまったことにより、詠唱中のセルレが小さいムカデに囲まれてしまう。さらにアルマも大ムカデに睨まれてセルレを助けに行くことができない。まさに絶体絶命の状況だ。


「ここまでか……」


 アルマがそう思った時だった。


「《炸裂する火炎(バーストプロミネンス)》」

「ギシャァァァァァァ!!」


 どこからともなく飛んできた炎の弾が大ムカデの頭に当たり、そこで大きな爆発を起こした。大ムカデは爆発の衝撃に悶え、その場から少し退いた。


 アルマは炎の弾が飛んできた方に目をやる。すると、そこには怪しげな漆黒の仮面を被った人がいた。


「ふぅ……ギリギリ間に合ったか」


 そう呟いた男――声色からおそらく男だと推測できる――は自身の周りに浮かせた宝玉から無数の火の矢を出現させた。


「さぁて、害虫駆除と行きますか」


 男は右手を上に翳すと、一気に火の矢をムカデめがけて放った。



 

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