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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
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買い出しタイム



「あれ、今日の昼の材料って買ってなかったっけ?」


 俺は食料が入っている棚を見ながら言う。棚には最低限の食糧しか入っておらず、これではほんとうにちょっとしたものしか作れない。


「あー、そういえば買ってないと思います。今日も忙しかったので暇が無くて……」

「じゃあ何か買いに行かなきゃいけないな」


 俺は買い物用のカゴを取り出して、そこに食費が入った財布を入れる。


「それなら僕はあるもので何か作っときますよ」

「あー、じゃあマリンに手伝ってもらうか」


 ついでに夜ご飯の材料も買うつもりなので、手伝いとしてマリンを連れて行くことにした。さすがに一人で全ての荷物を持つのは厳しいからな。


 装身具売り場の方に行き、昼休憩のために店を閉めようとしていたマリンに声をかける。


「おーい、マリン」

「あ、シンジお兄ちゃん!」


 マリンは俺の方を向くと、綺麗なオレンジ色の髪を揺らしながらこっちに走ってくる。


「どうかしたの?」

「ちょっと買い出しの手伝いをしてもらおうと思ってな。ラピス!マリンを借りていいか?」


 店の入り口の鍵を閉めていたラピスはその手を止めて首だけこちらに向けた。


「こっちは特にすることないからいいわよ」

「分かった。マリン、ちょっと手伝ってくれるか?」

「うん!いいよ!」


 ラピスとマリンの了承を得たので、俺たちは早速買い出しに向かった。



 王都は三つの区域に分かれている。一つ目は一般の住人が住む「住宅区域」。二つ目は貴族たちの住居がある「貴住(きじゅう)区域」。そして、三つ目が多くの店が立ち並ぶ「商売区域」だ。もちろん、俺たちの店も「商売区域」の中にある。


 だから、俺たちは買い物をするのが楽だ。店が集約しているため移動距離も少ないし、ささっと何かを買いたい時に便利だ。


「肉と野菜、あと魚もいいのがあれば欲しいな」

「お昼は何にするつもりなの?」

「そうだな……。時間もあんまり無いし、パンと肉料理を一品作るくらいかな」


 マリンとそんな話をしながら歩いていると、行きつけの精肉店に着いた。


「お、シンジ君!いらっしゃい」

「お疲れ様です」

「こんにちは!」

「なんだい、今日はマリンちゃんもいたのか」


 精肉店のおじさんは笑顔でそう言う。マリンはあまり外には出ないので、たまにこうして一緒に買い物に行くと知り合いの人たちに喜ばれるのだ。


「久しぶりだね、おじさん!」

「ああ、そうだね。よし、せっかくマリンちゃんが来てくれたんだし、今日は少し安くしちゃおうかな!」

「わーい、ありがとう!」


 マリンが笑顔で喜ぶのを見て、おじさんは更に笑顔になる。まあ、マリンはお世辞抜きで可愛いからな。おじさんの気持ちも分かる。


「あら、シンジ君にマリンちゃんじゃないの。いらっしゃい」


 俺たちの話し声が聞こえたのか、店の中から女性が出てきた。彼女とおじさんは夫婦であり、二人でこの精肉店を経営している。


「お久しぶりです」

「こんにちは!」

「二人とも久しぶりね。ほら、あんた!せっかく二人が来てくれたんだから、ちゃんと安くしたんでしょうね!」

「言われなくてもそうするつもりだよ!」


 おばさんは俺たちの誰かが店に来ると、少し割り引いた値段にしてくれる。それに対して、おじさんはラピスやマリンがいると値引きをしてくれるが、俺やトルーだけだと肉の量を少し増やしてくれる。男はいっぱい食べろというおじさんなりの気遣いなのだろう。


「じゃあカムラ鳥の肉300gとクアン豚の肉400gをお願いします」

「はいよ!」


 おじさんに二つの肉を袋詰めしてもらい、買い物カゴの中に入れる。


「銀貨三枚だよ」


 普通なら銀貨五枚のところを三枚にしてもらった。お金に困ってるわけじゃないけど、親切にしてもらえるのは嬉しい。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、いつも買ってってくれてありがとうね!」


 精肉店での買い物を終えた俺たちは八百屋、鮮魚店に行った。どちらの店でも精肉店と同じように値引きをしてもらった。まあ、精肉店と違ったのは、この二店舗はマリンかラピスがいる時じゃないと値引きしてくれないが。


「よし、じゃあ帰るか」

「うん!」


 マリンに八百屋で買った野菜を持ってもらい帰路に就く。その途中で誰かに話しかけられた。


「あ、シンジさん!」


 声をかけてきたのは青髪の女性セルレさんだ。彼女は冒険者であり、一度うちの店で宝玉を買ってからその品質を気に入り常連になってくれたのだ。


「こんにちは、セルレさん」

「こんにちは。えっと、その子は……」


 セルレさんはマリンを見ながら言う。どうやら彼女は装身具売り場には行ったことがないようだ。


「この子はうちの店の装身具売り場で手伝いをしてくれているマリンです」

「こんにちは、マリンです……」


 マリンは控えめに自己紹介をする。マリンは結構な人見知りなので、初対面の人には持ち前の元気の良さを発揮することが出来ないのだ。


「はじめまして、セルレ=カエルレウスです。よろしくね、マリンちゃん」


 マリンはペコリと頭を下げる。まあ、これから何回か会えばいつもみたいに話せるようになるだろう。


「今から依頼をこなしにいくんですか?」

「はい。アルマと一緒にヴリンス鉱山へ魔物を討伐しに行くんです」


 アルマさんはいつもセルレさんと一緒にいる赤髪の女性だ。彼女もセルレさんと同じくうちの常連さんだ。ただ、彼女の巨大な斧は刃こぼれがしやすいので、セルレさんよりもうちに来る頻度は少し多い。


 ヴリンス鉱山とは王都の一番近くにある鉱山だ。王都に来る鉱石などはここから採れたものが多い。ただ、ヴリンス鉱山は魔物の出現率が低い上に、大して強い魔物も出ない。Bランク冒険者である彼女たちが出向くほどでもないはずだけど……。


「確かヴリンス鉱山ってあんまり強い魔物は出ないですよね」

「そうです。普段ならEランクとかDランクの人が行くんですけど、今回は指名依頼なので私たちが行くことになったんです」


 そんな簡単な依頼にわざわざBランク冒険者を指名するなんて物好きもいたものだ。


「そうなんですね。簡単ではありますけど、気をつけてくださいね」

「はい!あ、多分今日中には終わると思うので、明日お店にお邪魔してもいいですか?新しい宝玉を見たいんですけど……」

「分かりました。では、明日お待ちしてますね」


 そうして、セルレさんと別れた俺たちはそのまま店に帰った。お昼ご飯はマリンに言った通り、パンとカムラ鳥のスープを作った。みんなにも美味しいと言ってもらえたし、自分的にも美味しく出来たと思うので大満足だ。



 

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