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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
3/22

王都の事件



 ある日の昼下がり、依頼を受けた武器の修理をしていると、トルーに呼び出された。


「シンジさん。ベインさんたちが来ましたよ」

「分かった、すぐ行く」


 俺は作業を中断して表に出る。そこには、眼鏡をかけた気弱そうな男性とエメラルドグリーンの髪を持つ綺麗な女性がいた。


「やあ、シンジくん。売り上げは順調かい?」

「お疲れ様です、ベインさん。売り上げは上々って感じですね」


 この男性はベイン=スピネルさんと言って、鉱石の取り扱いをしている『スピネル鉱石店』の経営をしている。うちの店はその『スピネル鉱石店』から仕入れた鉱石を使って、宝玉を作ったり、武器を作成したりしている。


「上々なら良かったよ。はい、これが今週の分だよ」

「ありがとうございます」


 俺はベインさんから注文した鉱石を受け取る。


「今日はリナさんも一緒なんですね」


 ベインさんの隣にいる女性が奥さんのリナさんだ。いつもは店に来ることはないのだが、珍しく今日は一緒に来ている。


「ええ。今日はどうしてもこの子が来てみたいって言うものですから」


 そう言って、リナさんは自分の足元に目線を向ける。同じように俺も視線を下に移すと、少女がリナさんの影に隠れてこちらを見ていた。


「あ、お子さんですか」

「そうです。ほら、メイ。ちゃんと挨拶しなさい」


 リナさんにそう言われて、少女メイちゃんは前に出てくる。


「め、メイです。はじめまして……」

「はじめまして。シンジ=ウォーティーです。いつもお父さんにお世話になってます」


 俺がそう言って笑うと、メイちゃんも少し笑ってくれた。なんだ、この可愛い子は。いや、でもマリンも負けてないな。


「普段なら連れてこないんだけど、今は家族一緒にいた方がいいかと思ってね」

「ああ、少し前から話題になってる事件ですね」


 今日から三日ほど前から立て続けに幼児が失踪するという事件が起こっている。最初はどこかで迷子になっているだけかと思われていたが、すでに五人もの子供がいなくなっているので、国は誘拐事件であると決めたみたいだ。


 被害に遭った子供たちはこの店もある王都ウェルマールに住んでおり、衛兵たちが見回りや聞き込みを続けているが、成果はあまりないみたいだ。


「誘拐された子はみんなメイと同じくらいの年齢だったらしいからね。いつも以上に気を配ってるんだよ」

「まあ、万が一のことを考えると、そうせざるを得ませんよね」

「そうだね。この子を危険な目に遭わせるわけにはいかないから」


 ベインさんはメイちゃんの頭を優しく撫でる。その時、店の扉が開いて金髪の男性が入ってきた。


「店長ー。こっちはもう終わりましたよ」

「ああ、ありがとう」


 金髪の男性は俺の方を見ると、深々と礼をした。


「初めまして。少し前から店長のところでお世話になってる、グリン=フォールドと言います」


 グリンさんがそう丁寧に自己紹介をしてくれたので、俺も同じように自己紹介をすると、グリンさんに止められた。


「ああ、シンジさんの話は店長からよく聞いてるので自己紹介は大丈夫ですよ」

「そ、そうですか。じゃあ、今後ともよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 その後、少し雑談をしてベインさんたちは帰っていった。最初は警戒していたメイちゃんも少しは俺に心を開いてくれてたみたいだった。


 しかしその翌日、事件は起こった。


「メイがいなくなった……」

「え?」


 うちの店の定休日にも関わらず、慌てた様子で入ってくるベインさんが切らした息を整えながらそう言った。


「いつ、どこでいなくなったんですか?」

「今朝起きた時には、布団から消えていた。両隣には私と妻がいたはずなのに、メイがいなくなったことに気づかず……」


 ベインさんは衛兵に事情を話した後にうちの店に来たらしい。もしかしたらここに来ているのかもしれないという、極々僅かな希望に縋って。だが、メイちゃんはここには来ていない。


「分かりました。俺もメイちゃんを探します」

「ありがとう……」


 ベインさんには店の開店時に鉱石を融通してもらった恩がある。その恩を今返さねば。


「私も手伝うわ」


 身支度を終えたラピスが二階の居住スペースから降りてきた。どうやらベインさんの声は二階にまで届いていたらしい。


 そうして、俺たちは消えたメイちゃんの捜索を開始した。














 まず、俺たちは聞き込みから始めた。ベインさんの家の近くの人にメイちゃんを見た人がいないか探してみたが、誰一人としてメイちゃんの姿を見た人はいなかった。


「まさか、一人も見た人がいないなんてね」

「それだけ深夜か早朝に連れ去られたということなんだろ。その時間帯なら人なんてほぼいないしな」


 次に俺たちはこれまで被害に遭った人たちの話を聞きに行った。被害に遭った人たちの時間帯はみんなバラバラだったが、一つだけ共通していることがあった。


「気づいたら消えていた、か。ますます分かんなくなってきたな」

「そうね……。たとえば、犯人は影を操れるとか?影の中に潜んで親が目を離した隙にその子ごと影の中に……」

「却下だ」

「何でよー!」


 自分の考えが即却下されたので、ラピスは頬を膨らませる。この世界では六歳の時に神から天職を授かる。人々はその天職の恩恵を受けることで、さまざまな力を使うことができるのだ。


 その中に影を操るものもあった気がするが、今回の事件とは無関係だと思う。


「その方法が取れるなら、わざわざ時間帯を変えたりなんて回りくどいことはしないはずだ。おそらく、バラバラな時間帯には何か意味があるんだと思う」

「何かって?」

「それは……今考えてる途中だ」


 犯人はおそらく計画性を持って犯行に及んでいるはずだ。ならば、すべての被害者の相違点に注目すれば必ず何かが分かるはず……って、昔読んだ小説の名探偵が言ってたな。


 俺は王都の地図を見て考える。地図にはこれまで被害に遭った人の家に印がつけてある。


(ん?)


 地図を眺めている時、俺はあることに気づいた。それはただの考え過ぎかもしれないけど、もしも俺の予想通りなら犯人にグッと近づくものだった。


「調べてみるか」


 俺はあることを確かめるため、ベインさんの元に向かった。







◇◇◇







 薄暗い部屋の中で少女は目を覚ます。そこの景色はいつも自分が目を覚ました時に見るものと違うので、彼女は不安に襲われた。


 周りを見渡すと、自分と同じ年齢くらいの子たちが同じように不安そうな顔で座っていた。この子たちも自分同様にこの場に無理やり連れてこられたのだと察する。


 部屋の中には窓はなく、扉も一つだけ。色々な物が散乱しているものの、棚やマネキンなど使えそうな物は特になかった。


(ど、どうしよう……)


 少女メイは思案する。いつもは自分を導いてくれる両親も今はいない。だから、自分で考えて動かなければいけない。


 その時、ガチャリという音と共に近くの扉が開いた。そして、一人の人間が部屋の中に入ってくる。


(誰……?)


 扉からの光が逆光となって、その人の顔は見えなかった。しかし、時間が経つと目が慣れてきて、徐々にその人の顔が分かるようになってきた。


「え?」


 その人の顔を見てメイは思わず声を上げる。それは見知った顔だったからだ。


「ぐ、グリンさん?」


 メイの呟きが聞こえたのか、その人――グリンはゆっくりと頬を歪めた。



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