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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第二章 憂慮の魔法剣士
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海賊船へ



 その日の夜、俺は全速力でバーリンに戻った。魔法を使えば馬車よりも早く店とバーリンを行き来することはできる。まあ、普通に疲れるのだけが難点だが。


 約束の時間よりも早めにクラーケンのいる入り江に到着した俺はボーッと海を眺めていた。


「何してるの?」

「うぉぉ!……って、なんだシャオか」


 そんな俺の元にシャオがやってきた。しかも割と俺のすぐ近くに現れたので普通に驚いた。神出鬼没過ぎないか?


「ただ海を眺めてただけだ。ところでシャオ、ちょっといいか?」

「なに?」

「聞きたいことがあったんだ」


 俺はシャオと出会った時、つまりクラーケンを討伐しようとしていた時から疑問に思っていたことがあった。


「なんで嘘をついたんだ?」


 単刀直入に切り出した俺にシャオは動揺する様子もなく答えた。


「なんのこと?」

「とぼけるな。お前が俺たちの前に出てきたこと、そもそもクラーケンがあの海にいたこと自体がお前の仕組んだことなんだろ?」


 そこまで言って初めてシャオは目を見開いて驚くような仕草を見せた。まさか、ここまで気づかれているとは思わなかったのだろう。


「どうして分かったの?」

「最初におかしいと思ったのは、お前からクラーケンの話を聞いた時だ。あのとき、お前はクラーケンが怯えてる、人を襲うつもりなんてないって言ったよな」

「うん。でも、それは別にあり得ない話じゃないはず」


 たしかに魔物が別の魔物に対して恐れを抱くことはある。スタンピードの発生要因として、強力な魔物が現れたことにより他の魔物がその魔物から逃げようとして起こるという事例がある。だが、それは俺の行動によってあり得なくなってしまった。


「そうだ。でもな、俺はクラーケンを魔法を使って呼び寄せたんだ。《挑発》の魔法をな」

「どういうこと?」

「《挑発》は相手の敵意を増幅させて誘き寄せる魔法なんだ。だが、クラーケンは《挑発》を使ったら現れたのに一切攻撃をしてこなかった。そればかりか他の魔物に怯えていて人を襲わないらしいじゃないか。そんな奴がこちらに敵意を向けてくるわけがないだろ」


 要するに、敵意のない魔物がどうして敵意を増幅させる魔法によって誘き出されるんだ、ということだ。《挑発》はあくまで相手の敵意を増幅させるだけで生み出させる訳ではない。だから、おかしいと思ったのだ。


「なるほど、理解した。人間の魔法を知らないのが仇になった」

「ま、そういうことだ。じゃあ今度はお前の番だ。なんで嘘なんてついたのか教えろよ」

「仕方ない」


 ようやくシャオの話を聞ける。そう思った時、タイミングの悪いことにシトリーがやってきた。


「おーい!」


 シトリーにはシャオが嘘をついているかもしれないとは喋っていない。そのため、今からシャオに聞こうと思うと、また一からシトリーに説明しなければならない。そうなると時間がかかってしまうので一旦この話は切り上げることにした。


「シャオ、この話はまた後で」

「分かった」

「なになにー?二人で何話してたの?」

「クラーケンのことについてだ。それよりもシャオ、海賊の居場所はもう分かってるのか?」


 相手は海賊なのだから海にいると考えた。そこで海の精霊であるシャオなら海にいるであろう海賊の場所も分かると思い、海賊の居場所を調べてもらうよう頼んでいた。


「ううん、今から」


 俺がそう聞くと、シャオは手を体の前に翳してそう言った。すると、シャオの体が青白く光り、徐々に収束していった。


「場所が分かった」

「どこだ?」

「今から連れてく」


 再びシャオから青白い光が溢れ出し、今度はその光が俺とシトリーを包み込むように広がった。


「えぇー!何これ!」

「じっとしてて」


 好奇心から光の中を動き回るシトリーをシャオが注意する。シトリーが「ごめんね」と言い、その場でジッとすると俺たちの体が光が浮くのに合わせてスッと浮いた。


「なるほど、これもお前の精霊魔法か」


 精霊は独自の魔法である精霊魔法を使う。精霊魔法はそれぞれの精霊によって一つ一つ違うらしい。


「私は海のことをなんでも知れるし、海上も海中も自由に移動できる。少し飛ばすから気をつけて」

「え、飛ばすって……うわぁ!!!」


 シャオがそう言った途端、視界が急に動いた。どうやらシャオが俺たちを包む光を動かしたらしい。さすがに急に視界が猛スピードで動くとびっくりする。


「すごく速いねー!」

「だな。というか、海賊たちは今どれくらい離れて場所にいるんだ?」

「大体20キロくらい。まあ、10分もすれば到着する」


 確かにこの速さならそのくらいの時間で進むことができるだろう。相手は船だから進むスピードもゆっくりだろうし、追いつくのも容易といったところか。


「そうだ。潮風に当たれるように出来るけど、どうする?」

「あ、私当たりた……」

「いや、遠慮する」


 シャオの申し出を断ると、シトリーがジト目でこちらを見てきた。いや、あんまり分かんないかもしれないけど、とんでもないスピードで動いてるからね?そんなスピードで風なんて受けた日にはそれはもうえらいことになっちゃいますよ、お嬢さん。



 そんなこんなで進んでいくと、前方に一隻の船が見えた。その船の帆には大きなドクロマークが描いてあり、いかにも海賊船といった見た目をしていた。


「あれか?」

「うん、そう。海の宝の話もしてたし、間違いない」


 まさか船内で話していることまで聞こえているなんて、と驚きつつ俺は甲板に目をやった。甲板には深夜なこともあってか、見張りが二人だけいるようだ。これなら襲撃も容易い。


「そういえば、今更なんだが海の宝ってどんな見た目をしてるんだ?それを聞いておかないと船の中から見つけられないしな」

「海の宝は青い宝玉がついた杖。見たら分かると思う」

「分かった」


 俺の返事を聞いたシャオは船の上空に俺たちを移動させ、速度を船と並走させるくらいまで落とした。


「シャオ、3.2.1でこれを解除してくれるか?」

「分かった」


 俺とシトリーは戦闘の準備をする。今回、シャオは戦闘には加わらない。シャオが戦闘に参加すると、船を壊しかねない。それだけ精霊魔法は強力なのだ。

 

「いくぞ。3...2...1...」


 言い切った時にシャオの魔法が解除され、俺とシトリーは重力のままに船へ降下していった。そして、着地直前で一瞬だけ《空中浮遊(レビテーション)》を発動して、着地の衝撃をゼロにした。


 音もなく甲板にやってきた俺たちに見張りは気づいていないようだ。今が夜なのも相まって余計に気づけないのだろう。


 そんな見張りに近づき、シトリーが首元に剣を突きつける。ここでようやく、見張りは俺たちの存在に気づいた。


「な、なんだ……」 

「静かに。少しでも声を出したら君は明日からこの船に乗れないよ?」


 中々にえげつない脅し文句を見張りに告げるシトリーさん。怖すぎて思わずさん付けしちゃったじゃん。


 コクコクと頷きのみでシトリーに答える見張り。あれは完全にビビってますね。シトリーは怒らせたらいけないタイプかもしれない。


 そんな見張りの案内でお宝が置いてある部屋にやってきた。意外にも海賊は見張りの他には誰一人として出会わなかった。戦う気満々だったのに拍子抜けだ。いや、さすがに船は壊さないよ?


「海の宝はどこだ?」

「……………」

「あ、喋っていいよ。逆に今は喋らないと……」

「分かった分かった!話すからやめてくれ!」


 見張りは焦りながらそう言う。ただ、彼の口から出た言葉は俺を絶望させるには十分だった。





「今、ここには海の宝とやらはぇよ」


 もしかして……まだ続くんすか?




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