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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
2/22

風評被害

◇◇◇で視点変更になります。



 人がいない時間帯は店内の掃除をして過ごす。特に決めた訳ではないが、俺が商品が並んでいる場所の掃除をして、トルーが床の掃除をすることになっている。


「今日のお昼ってどうしますか?」


 トルーがそう聞いてくる。お昼は俺たちと女子二人で交互に作っている。今日は俺たちの担当なので、何を作るか考えなければいけない。


「うーん、サンドイッチでも作るか」

「分かりました。じゃあ掃除が終わったら、材料を切ってきますね」

「ああ、頼んだ」


 トルーは積極的に家事や店の手伝いをしてくれる。それはとても有難いのだが、もう少し年相応なことをすればいいのにと思う。


 チリンチリン


 ドアのベルが鳴る。そして、頭にハチマキをした髭面の男性が入ってきた。


「おう、シンジ!頼んだもの取りに来たぜ!」

「グリアスさん。お待ちしてました」


 この人はグリアス=デインと言って、大工をしている人だ。俺はグリアスさんの仕事道具である工具の修理などを請け負っている。


「今回の依頼はこの二点で間違い無いですか?」

「おう!やっぱお前は良い仕事するな!」


 グリアスさんはガハハと笑いながら俺の仕事を褒める。グリアスさんとは、この店を始めた時からの知り合いで、内装の工事もしてもらった。


「そういや、お前。噂は聞いてるか?」

「噂ですか?」


 そういう類の話は冒険者が来るこっちの店ではあまり聞く機会はない。もしかしたら、そういう噂好きな人が訪れるあっちの店にいるラピスなら知ってるかもしれないが。


「お前の店の話だよ。不良品が混じってたとか、最初から壊れているものを売っているとかな」

「あー、それですか。少し前から流れ始めたやつですね」


 いわゆる風評被害というやつだな。俺も一昨日ぐらいに常連のお客さんから聞いて知ったことだ。もちろん、うちは店に出す前に検品もしてるし、万が一にも不良品を売らないようにしている。わざと売るなんて論外だ。


「なんだ、知ってたのか。なら、早めに対処しとかないと、後々面倒なことになるぞ。俺も昔、何回かあったしな」

「そうなんですか」

「おう。建てた家の柱がボロいとか、家の建て付けが悪いとかな」


 はっきり言って、グリアスさんは見た目が怖い。ただ顔を見ただけなら誰も大工をやってるなんて思わないだろう。それこそ、裏社会を牛耳っていると言われた方がまだ信じられる。


「まあ、そんなふざけたことを言ってきた奴は全員ぶちのめしたけどな」


 うん、やはり俺の考えは間違っていないみたいだ。ぶちのめされた人が生きていることを願おう。


「じゃあ俺も何かしら手を打たなきゃですね」

「おう!何か困ったことがあったら相談してくれや。俺がいつでも駆けつけるからよ!」

「はい、ありがとうございます」


 グリアスさんの気持ちは嬉しいのだが、さすがに俺のために手を出させることはできない。それに、今回の風評被害の犯人はもう突き止めてるしな。


 程なくして、グリアスさんは自分の店に帰っていった。俺は店を閉めると、昼ごはんの準備をするために台所に向かった。










 その日の午後。


「えー、それで本日はどのようなご用件で?」


 俺の対面に座る男が問いかけてくる。だが、これは形式的な質問であり意味はない。なぜなら、この男は俺がここ――ミラーズ商会に来た理由を知っているからだ。


「いや、少しご相談がありまして」

「相談ですか?」


 男は白々しく聞き返してくる。この男こそ、風評被害の首謀者であるミラーズ商会会長のエリック=ミラーズだ。一昨日に風評被害の話を聞いてから、すぐに誰が流しているのか調べたのだ。そして、この男に行き当たった。


 エリックとは以前にも話したことがある。その時の話というのが、ミラーズ商会に加入しないか、という誘いだった。


 ただ、商売自体は商業ギルドに登録し、許可証を発行してもらえれば誰にでもすることができるし、商会に加入して得られるのは知名度くらいでメリットがあまり無い。だから、俺はその誘いを断ったのだ。


 誘いを断ったのに、今では自分の商会の品よりも人気があることが許せないのだろう。ミラーズ商会の目玉商品は装飾品や装備品とうちの店と被ってるからな。この手の輩はプライドだけは高いから困る。


「はい。今、うちの店が何者かの風評被害に遭ってまして、客足が遠のいてしまっているんです。だから、どうすれば良いかと思って相談に参った次第です」

「ふむ、それでしたら我が商会に加入してはどうでしょうか?我が商会ならば、そんな風評被害をもろともせずにウォーティーさんの商品を売ることができますが……いかがですか?」


 これは遠回しに、うちの商会に入るのなら風評被害はやめてやるよ、と言ってるのだろう。そういう提案をしてくることも予想通りだ。


「お気持ちは嬉しいのですが、万が一収まらないことを考えると、ミラーズ商会さんに迷惑をかけることになってしまいます。なので、こういう案はどうでしょうか」


 俺はこの日のために徹夜で策を練ってきていた。今回の件はいわばうちの店に喧嘩をふっかけてきたのと同義だ。ならば、こっちもそれ相応の対応をさせてもらうとしよう。


「まず、うちの店はミラーズ商会さんに加入しません。ただし、ミラーズ商会さんが運営する店舗にうちの品を置いてもらいたいのです」

「ほう。ですが、それではお互いにメリットがあると思えないのですが……」

「いえ、十分メリットがありますよ。まず、うちの店は更に多くの人に品を見てもらえる。うちの商品の良さを分かってもらえます。そして、ミラーズ商会さんには……置いていただいた商品が売れた場合、その利益のすべてを差し上げます」

「な、すべてですか!?」


 利益のすべてを渡すという発言にエリックは驚く。普通に考えれば破格の条件だからだ。


「ええ。もし、この話に乗っていただけるというのなら、詳しい条件についてお話ししますが、いかがですか?」


 俺には分かる。こいつは金に目がない奴だ。そんな奴が少し怪しくても上手い話に乗ってこないはずがない。


「ふふふ、いいでしょう。その話に乗りますよ」


 エリックがそう言った時、俺はニヤリと笑った。

 










 数日後、いつも通り店を営業していると、エリックがものすごい形相で店内に入ってきた。


「おい!よくも私を騙したな!」

「騙した?何のことですか?」


 俺の飄々とした態度にイラついたのか、エリックは大きく舌打ちをした。


「とぼけるな!勝手に私の商会がお前の店の商品と偽って商売をしているという噂を流しただろ!そのせいで、私の商会が業務停止命令をくらったのだぞ!」


 俺はエリックへの仕返しとして、同じ風評被害による嫌がらせを考えた。まず、エリックに俺の店の商品をミラーズ商会で売る話を持ちかける。これにエリックが乗ってこなければ終わりなのだが、まあ予想通り乗ってきた。


 次に、商品の輸送などの時になるべく人目につかなくなるような条件をつけた。こうすることで、今みたいな感じでエリックがあれこれ言ってきても白を切れるというわけだ。


 これで舞台は整ったので、あとはミラーズ商会がウォーティーの商品と偽って品物を販売しているという噂を流せば、ミラーズ商会への風評被害の完成という寸法だ。まあ、端から見ればミラーズ商会が偽商品を販売しているようにしか見えないのだが。


「さあ、俺は何のことか知りませんね」

「き、貴様ぁ〜!」


 エリックが俺に掴みかかってこようとする。その時、またもや店の扉が勢いよく開いた。


「よぉ、シンジ!工具の修理を頼みに来たぜ……ってどうしたんだ?」


 グリアスさんがまた工具の修理を頼みに店にやってきた。そんなグリアスさんを見たエリックの顔がみるみるうちに青ざめていく。


「お、おまえは……」

「ん?おっさん、どこかで見た気が……あっ!」


 グリアスさんは何かを思い出したようで、エリックに指を差した。


「あんた、俺の仕事に言いがかりをつけてきた人だな!なんで、お前がここにいるんだよ!」


 エリックは一切言葉を発さず、ただグリアスさんのことを震えながら見ていた。グリアスさんが昔にされた風評被害ってエリックだったんだな。こいつ、全然懲りてないじゃん。


「そうか、お前がこの店の風評被害をしてるのか。あの時みてぇになぁ!」

「ヒイッ!」


 エリックはグリアスさんの勢いに圧されて尻餅をつく。そんなエリックのすぐそばまでグリアスさんは歩いていった。


「次同じことをやったらタダじゃ済まさねぇって言ったよな?」

「す、すみませんでしたぁ〜!!」


 グリアスさんが顔を近づけてそう言うと、エリックは逃げるように去っていった。


「ったく、性懲りも無くまだやってんのか」

「ありがとうございます、グリアスさん」


 エリックを追い払ってくれたグリアスさんに礼を言うと、グリアスさんは「気にすんな」と手をヒラヒラと振った。


 これにて事件は一件落着し、うちの店の客足は元に戻っていったのだった。




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