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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第二章 憂慮の魔法剣士
18/22

海に潜むモノ



 翌日、旅行の予定を変更して、街の近くにある山を登っていた。この山はそこまで高くなく、初心者でも安心安全に登れるということで観光スポットの一つとなっている。


「山の空気は澄んでるな」

「今日は天気も良いしね。風も程よく吹いているから、山登りには適してるんじゃないかしら」


 今日の天気は一日晴れらしい。こんな日こそ海に行けたら良かったのだが……まあ、仕方ない。


「見て見てー!あそこに綺麗な青い鳥さんがいるよ!」

「どれどれ……あ、本当だ!マリンって目がいいんだね」


 とりあえず、マリンが楽しんでいるようで良かった。今はローズと一緒に青い鳥とやらを見ている。


「あんまり柵に乗り出すなよ」

「はーい!」

「もう、シンジさんは心配性だなぁ」

「心配させるようなことをするなってことだ。分かったな?」

「はいはい。分かってるよ」


 ローズは軽く返事をすると、マリンと一緒に山を登っていく。まったく、本当に分かっているのだろうか。


「ったく……」

「ちょっと心配しすぎなんじゃない?」


 ラピスがローズと同じことを言ってくる。しかし、ローズはいわば他人から預かっているような子である。危険な目に遭わせてしまったら、ローズの両親に申し訳が立たない。


「いいだろ。心配するに越したことはないんだから」

「別にダメじゃないけど、マリンはともかくローズは成人してるのよ。それに見た目よりも大人っぽいし、本当に危険なことはしないわよ」

「それもそうか……。あ、そうだ。今日の夜なんだけどさ」


 俺は昨日の夜のことをラピスに話す。昨夜、シトリーさんと話し合って、魔物の討伐は人がいない深夜に行うことになった。魔物がいる場所が砂浜に近いこともあって、昼間だと第三者を巻き込んでしまうかもしれないからだ。


「そういうわけで、三人のことは頼んだぞ」

「分かったわ。気をつけてね」

「ああ」











 夜、月が真上に登り外出する人間がいなくなった頃に、俺は冒険者パールの格好で砂浜に立っていた。そこにシトリーが走ってやってきた。


「お待たせ!」

「ようやく来たか。結構遅かったな」

「ごめんごめん。別の依頼でちょっと手こずっちゃってて。そんなことより、こういう時は全然待ってないって言うもんなんじゃないかな?気が使えない男の子はモテないよ」

「誰もモテようとしてないから大丈夫だ」

「その余裕……まさか、既に相手が!?」

「いねぇよ。早く始めるぞ」


 俺は懐から三つの緑色の宝玉を取り出す。


「もう、ノリが悪いなぁ。ま、いいや」


 シトリーは腰から銀色の剣を引き抜く。あれは魔法銀(ミスリル)の剣だろうか。さすがはAランク冒険者だ。良い剣を持っている。


「じゃあ最初は頼んだよ」

「任せろ」


 俺は《挑発》の魔法を使って、海の中にいる魔物を誘き寄せる。この方法なら、わざわざ奴の土俵である海の中に行かなくても戦うことができる。


 少し経つと、海が揺れ始める。その揺れは次第に大きくなっていき、ザパーンという音と共に海中から件の魔物が現れた。


 それは烏賊のような姿をした魔物だ。その名もクラーケン。海の悪魔とも言われるクラーケンは非常に好戦的でナワバリ意識が強く、自身のナワバリに入ってきたものは何であろうと容赦はしない。


「よーし、いっくよー!」


 シトリーが持つ剣から炎が噴き出す。そして、剣を持ったまま勢いよく駆け出し、数十本もあるクラーケンの足を一本切り落とした。


「もう一本ッ!」


 シトリーが空中で剣を振り、炎の刃をクラーケンめがけて飛ばす。その攻撃でクラーケンの足がさらにもう一本切り落とされた。


 そこで俺はクラーケンの様子がおかしいことに気づく。自身の足が切られているにも関わらず、クラーケンはこちらに何もしてこない。


「シトリー!」

「どうしたの?」

「クラーケンの様子がおかしい!反撃してこないのは変だ!」


 俺がそう言うと、シトリーは攻撃をやめて一度後退した。その間もクラーケンは攻撃してこない。


「何もしてこないね」

「何か言いたそうな感じもするが、分からないよな」


 クラーケンはじっとこちらを見ているが、当然言葉は喋らないので何かを伝えたかったとしても分からない。その時、海から強い風が吹いた。腕で顔を覆って風を防ぐ。


 風が吹き終わったので顔から腕を外すと、俺たちの前に先ほどまではいなかった水色の髪の少女が立っていた。少女は無表情のまま、こちらを見て動かない。


「お、お、女の子だー!見てた!?急に現れたよ!何、あの子!絶対すごい力とか持ってるよ!」


 シトリーはキラキラと目を輝かせながらはしゃぐ。俺はそんな姿を横目に少女に尋ねた。


「君は?」


 そう言いつつも、俺には彼女の正体が分かっていた。尋ねたのは正体が分かったことをシトリーに悟られないための演技だ。


「私はシャオ。海の精霊」


 この世界には精霊という存在がいる。精霊はそれぞれ自然のものを司っており、司る範囲が広がるほど力も強くなる。この子が海の精霊なら、水の精霊の一つ下くらいの力を持っていると言える。


 だが、ここで新たな疑問が生まれる。なぜ海の精霊であるシャオがクラーケンを庇うのか。それを聞こうとした時、シトリーがものすごい勢いで走っていった。


「君は精霊なの!?私、精霊に会うの初めてなんだ!うわぁー、嬉しいなぁ。まさか、こんなところで出会えるなんて……」


 そう言ったシトリーの表情は今にも泣き出しそうだった。それを見て声をかけようとすると、シトリーは首を横に振って俺が聞こうとしていたことを尋ねた。


「ところで、君はどうしてクラーケンを守ってるの?」

「この子は人を襲うつもりなんてない。この子はただ怯えて逃げてきただけ」

「どういうこと?」

「今、この海の王リヴァイアサンが暴れ回ってる。この子はリヴァイアサンに棲家を襲われて逃げてきた。きっと他の子たちもリヴァイアサンに襲われてる。だから、お願い。リヴァイアサンを止めて」


 情報量が多いが、なんとか整理はできた。要するに、リヴァイアサンとやらを止めたら全てが解決する、と。


 待って、それじゃあ明日に間に合わなくね?クラーケンはここをどいてくれなさそうだし、無理やりどかせようにもシャオが許さないだろう。いや、実はリヴァイアサンを簡単に止められる方法があるかもしれない。


「一つ聞いていいか?」

「何?」

「リヴァイアサンを止めるのはいいとして、その方法はなんだ?手っ取り早く終わらせられるならそうしたいのだが」


 俺がそう尋ねると、シャオは淡々と答えていった。


「リヴァイアサンが暴れているのは海の宝を盗られたから。海の宝を元あった場所に戻せば、リヴァイアサンの怒りは収まる」

「誰に盗られたんだ?」

「人間たち。たしか海賊っていう奴ら」


 海賊か……。実際に見たことはないが、噂で聞いたことはある。船を拠点としていろいろな場所に行き、世界中の宝を集めている人たちのことだ。中には一般人から略奪行為をする奴らもいて、問題になっていたこともあったな。


「じゃあ、宝を盗ったっていう海賊を見つけることからしなきゃいけないのか……」


 やはり根本的な問題を解決しなきゃいけないみたいだ。残念だが、明日の海水浴はナシだな。


「どうしたの?何か困ることでもあった?」

「ちょっと事情があってな。なるべく今日中に終わらせたかったんだが、こうなってしまっては仕方ない」


 そんな俺の様子を見て、シトリーはシャオの方に向かっていった。


「ねえ、どうにかこの子をこの場所から移動させることはできないの?」


 シトリーはシャオに尋ねる。また俺の残念そうな雰囲気を感じ取ったのだろう。しかし、前回の受付嬢と違って今回は精霊が相手だ。怒らせてしまうと取り返しのつかないことになりかねないが……。


「別にいい。でも、他に良い場所を探してくれるならの話」

「本当!?じゃあボクは良い場所知ってるよ!」

 

 シトリーは満面の笑みでそう言う。まさか、こんなにも簡単に解決できてしまうとは。世の中、想像できないこともあるんだな。


「思ったことはちゃんと言わなきゃダメだよ?そうしないと、他の人には伝わらないんだから」


 思ったことは、か……。そういや、昔にも一回言われたことがあったっけ。懐かしいな。


 俺の頭に浮かぶのは黒髪の女の子。いわゆる幼馴染の彼女は今頃何しているのだろうか。まあ、()()()には関係のないことだが。




 それから、シトリーが言っていた"良い場所"にシャオとクラーケンを連れて向かった。そこは周りを崖に囲まれた入江であり、滅多に人が来ない場所のようだった。


「なんでこんな場所知ってるんだ?」

「ふふぅん、実はここはボクの故郷なんだよね。昔からよくいろいろな場所に行ってたから、ここら一体のことに関してはボクの右に出る者はいないよ!」


 そこまで膨らみのない胸を張って自慢げにしているシトリーの姿は、小さい子が大人に褒めてほしくてそうしているみたいで可愛らしかった。まあ、それをそのまま本人に伝えたら怒られたのだが。



 これでひとまず冒険者ギルドから出された依頼は完了したことになったので、朝一番に冒険者ギルドに行き依頼達成の報酬をもらった。しかし、まだ終わりではない。ここまで首を突っ込んだのだから、最後までやるべきことをやろうと決めていた。


 どうやら、そう考えていたのはシトリーも同じだったようで、俺に最後まで協力してほしいとお願いをしてきた。俺はその願いをもちろん承諾し、また落ちあう約束をして別れたのだった。









 夜、俺は一人でシャオに会っていた。もちろん格好は冒険者パールの格好だ。


「ところでシャオ、ちょっといいか?」

「なに?」

「聞きたいことがあったんだ」


 俺は少し間を開けてからシャオに尋ねた。


「なんで嘘をついたんだ?」





なんとなく時系列掲載。


旅行一日目。

・バーリン到着。

・海水浴できないことを知る。

・冒険者ギルドへ。


旅行二日目。

・山に行く。

・夜、クラーケン討伐。

・シャオと出会い、入り江にクラーケン避難。


旅行三日目。

・次話。

・夜、シャオと話す。

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