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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第二章 憂慮の魔法剣士
17/22

Aランク冒険者



「はぁ……」


 マリンはため息をつきながら肩を落とす。その理由はもちろん、海水浴が出来ないからだ。


「マリン、落ち込む気持ちも分かるけど、せっかくの旅行なんだ。そろそろ切り替えなきゃダメだぞ」


 トルーがマリンの肩をとんとんと叩きながら宥める。まあ、今回の旅行の一番の目玉である海水浴が出来なくなったんだからな。落ち込む気持ちはわかる。


「でも、さっきのおじさんの話だと、浅瀬に来た魔物が原因なんだよね?」


 実は看板を見つけた後に、近くを通りがかったおじさんに詳しい話を尋ねたのだ。おじさんによると、最近になって浅瀬の方に大きな魔物がやってきて人を襲っているのだそうだ。そのため、一度海を封鎖して魔物が討伐されるか、どこかへ行くのを待っているらしい。


「シンジお兄ちゃんかラピスお姉ちゃんなら……」

「マリン!」


 マリンが言いかけた言葉をトルーが遮る。その声が少し大きかったので、周りにいた人たちがこちらをチラチラと見てきた。


「二人とも落ち着け。その話はまだ後でだ。いいな?」

「す、すみません」

「はーい……」


 両方の気持ちも分かる俺はあくまで怒らず、諭すように二人に伝えた。二人はそう返事をして黙った。


 それからは気分を変えるために、近くにあったレストランで食事をとった。そこの料理は絶品で、先ほどまでの微妙な空気などどこかへ行ってしまった。


 昼ごはんの後は気になった店に立ち寄ったり、公園でまったりとした時間を過ごしたりした。そうしていると、日が傾き始める時間になっていた。


「そろそろ宿に戻る?」

「そうだな」


 今は本格的な夏が近いので明るく見えるが、時刻は午後七時を周っている。ということで、宿へと戻ることになった。だが、俺には一つ用事がある。


「あ、そうだ。ちょっと用事があったんだ。みんなは先に戻っててくれ」


 俺は逃げるようにその場を立ち去る。ラピスとトルーは事情を察していたようだが、マリンとローズは用事とは何だろうと首を傾げていた。






 木製の扉を開ける。建物の中では一仕事を終えた冒険者たちが酒を豪快に飲んでいた。そう、ここはバーリンの冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドの中に入り、受付まで進んでいく。隣をすれ違う人たちが得体の知れないものを見るかのように、俺のことを見てきたのはこの仮面が原因だろう。何かあった時のためとこの仮面を持ってきておいて正解だった。


「いらっしゃいませ!」


 受付にいた女性が元気よく挨拶してくる。俺は早速本題について受付の女性に尋ねた。


「今この街の海に魔物が棲みついてるそうだな。そいつを討伐したいのだが、何か依頼は出ているか?」


 一般的に魔物を討伐する時は冒険者ならば依頼を受けてからの方がお得だ。その理由は報酬の有無である。依頼を受けずに魔物を討伐した場合、たとえ依頼が出されている魔物を討伐したとしても報酬は貰えない。だから、依頼があるなら受けておいた方が便利なのだ。


「はい、こちらですね」


 受付の女性は一枚の紙を取り出す。それはバーリンの市長からの依頼者だった。内容は海水浴場に棲みついた魔物の討伐。報酬は大金貨二枚と高めに設定されていた。


「じゃあ、この依頼を受けよう」

「かしこまりました。では、ギルドカードをご提示ください」


 俺はポケットからギルドカードを取り出す。ギルドカードは冒険者ギルドに登録しているという証明書みたいなものだ。実は少し前に何かと便利なのでは、ということで登録しておいたのだ。


「あ、すみません。この依頼はランクの制限がありまして、Eランクでは受けることができないんです」


 俺はまだ冒険者ギルドに登録したばかりなので、ランクは一番下のEランクだ。しかし、今回の依頼はランク制限がついており、C以上でないと受けることが出来ないらしい。


 ということは、依頼なしで魔物を討伐するか。いや、それだとこの依頼を受ける人が討伐する魔物がいなくなってしまう。そうなると迷惑がかかってしまうが……背に腹は変えられないか。


「その依頼、ボクが受けるよ」


 金髪の髪を後ろで縛った女性が机の上に置かれた依頼の紙を持ってそう言う。


「シトリーさんでしたら大丈夫ですね。えっと……パールさんはどうされますか?」


 パールは冒険者に登録するときにつけた名前だ。俺が一番好きな宝石である真珠からとっている。


 どうすると言われても、俺と彼女――シトリーさんがパーティにならない限りは俺は依頼を受けることはできない。マリンには悪いが、ここは大人しく引き下がるとするか。


「いや、俺は……」

「一緒に来てもいいよ?」


 シトリーさんは俺のことを見ながらそう言う。こういう時、普通の人はあまり一緒に行きたがらないのだが、この人は違うみたいだ。まあ、ありがたく誘いに乗らせてもらおう。


「そうか。では、よろしく頼む」

「こちらこそよろしくね」


 それから、俺とシトリーさんは空いている席に移動して、依頼について話し合うことにした。


「まずは自己紹介からしようか。ボクはシトリー。Aランクの冒険者だよ」


 シトリーさんはAランクというだけあって、なかなかな有名人らしい。周りにいる冒険者たちがこちらを見てきているのが分かる。……時折、殺意がこもった視線が向けられているのは、きっと気のせいだろう。


「俺はパール。最近、冒険者になったばかりでランクはEだ。ところで、一つ聞いてもいいか?」

「うん、いいよ」


 俺は彼女に対して疑問を抱いていた。それは……


「何故こんな変な仮面をつけた奴とパーティを組んでくれたんだ?」


 普通の人は赤の他人とパーティを組みたがらない。なぜなら、連携が取れない場合が多く、ソロで戦う時よりも苦戦することが多いからだ。そういうわけで、彼女に聞いてみたのだが、予想外の反応をされた。


「ふふっ、あははっ!自分で変な仮面って言うんだね。じゃあ、なんでそんな仮面をつけてるのさ」

「それはちょっとした事情があるからだ」

「ふーん、まあいいや。えっと、なんで君と一緒に依頼を受けることにしたのか、だったっけ?強いて言うなら……なんとなくかな?」

「なんとなく?」


 これまた予想外の答えに俺は首を傾げる。そんな感覚だけで決めてしまっていいのだろうか。


「うん。ボクが依頼を受けるって言ったときの君が少し残念そうな雰囲気をしてたからね。思わず言っちゃったんだ」


 それを聞いて俺は驚く。俺の顔は仮面で隠れて見えないはずだ。それなのに、雰囲気だけで俺の気持ちを読み取るとは……。やはり感覚で動くタイプなのか?


「そうだったのか。ありがとうな、俺の気持ちを汲んでくれて」

「どういたしまして。それじゃあ、君の質問にも答えたところで、明日の話でもしよっか」

「ああ、そうだな」


 それから俺たちは明日の魔物討伐について話し合うのだった。




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