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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
15/22

少しの本気



「一体これはどういうことなの?この大きい竜はどこから来たの?」


 俺の近くまで来たラピスは質問攻めをしてくる。しかし、ゆっくり説明している時間などない。今は目への攻撃で怯んでいるが、すぐに攻撃を再開してくるだろうしな。


「詳しい説明は後だ。まずはコイツを倒すぞ!」

「わ、分かったわ」


 ラピスは戸惑いながらも頷く。俺は手短にベヒモス攻略法をラピスに説明した。


「なるほど、じゃあ私はアイツの注意を引きながら足に攻撃すればいいのね?」

「ああ、そうだ。頼んだぞ、ラピス」

「ここで倒さなきゃ王都に被害が出るかもしれないし、今回だけは少し本気で戦うわ」


 そう言って、ラピスは勢いよく駆け出していく。そして、両手に銃を持つと、ベヒモスの足めがけて連射を開始した。


 当然、ベヒモスは反撃しようとブレスを放つが、ラピスはまるでブレスの来る位置が分かっていたかのように軽々と避けてみせた。


「甘いッ!」


 避けている間もラピスは攻撃の手を止めない。そして、ついにベヒモスの右前足がガクンと力を失った。これをあと三回繰り返せば準備は完了だ。


 その後もラピスが翻弄しながら俺たちで攻撃することで、ベヒモスの足を弱らせていく。そして、全ての足が機能しなくなった時、俺は緑の宝玉二つをベヒモスの頭と尻尾に配置した。


「《空中浮遊(レビテーション)》」


 魔法を発動した瞬間、ベヒモスの体がふわふわと浮き始めた。その体はくるりと反対に回転し、そのまま落下した。


「グギャァァァァ!!!」


 落下の衝撃でベヒモスは悶える。しかも、足に力を入れることができないので、ジタバタするだけで裏返しのまま動くことができずにいた。


 俺はラピスにアルマさんの容体の確認をお願いしてから、セルレさんのそばに行き、この後のことについて説明した。


「あとは奴の腹に魔法を叩き込んで終わりです。セルレさんは使える中で最大級の魔法を撃ってください」

「分かりました!」


 セルレさんは魔法の詠唱を始める。俺もそれに合わせて、魔法の詠唱を開始した。


「【炎海よ・旋風よ・全てを焼き切る刃となれ】」


 そして、タイミングを合わせて同時に魔法を発動する。


「《千水の槍雨ドロップ・ザ・サウザンド》!」

「《炎旋の斬撃ヴォルカニックストリーム》!」


 ベヒモスの上空にできた青い魔法陣から無数の水槍が降り注ぐ。水槍は身動きの取れないベヒモスの腹にどんどんと突き刺さっていった。


 その隣にできた緑と赤の魔法陣からは炎を纏った風の斬撃が放出され、ベヒモスの腹を焼き切っていく。そうして、そのままベヒモスを討伐まで追い込むことができる。そう思った矢先のことだった。


「な……ッ!?」


 ベヒモスの真下の地面から黒い穴が現れ、その中にベヒモスが吸い込まれていった。まさに一瞬のことで反応ができず見逃してしまったことが悔やまれる。


「今のは一体何でしょうか?」

「多分、魔法だと思います。空間魔法って知ってますか?」

「は、はい。天職が『空間魔導士』の人しか使えない魔法ですよね」


 空間魔法とはその名の通り空間に関する魔法だ。たとえば、空間を断絶する結界や空間同士を繋げる穴を作ることができる。おそらく、今の黒い穴は空間同士を繋げるものだろう。


「ベヒモスが回収されたということは、やはり今回のスタンピードは人為的に引き起こされたってことで間違いなさそうですね」


 思えば、今回のスタンピードには不可解な点が多かった。魔物の数に魔物たちの謎の連携、そしてベヒモス。これは誰かが意図的にスタンピードを引き起こさせたと考えれば説明がつく。


「一体誰がこんなひどいことを……」

「分かりません。ですが、これからも気をつけた方がいいというのは確かですね」


 こんな事態を引き起こす奴が一度きりで終わらせるわけがない。確実に別の何かを使って、王都に攻め込んでくるに違いない。ただ、一つ気掛かりなのは誰を狙って起こしたのかということだ。この国なのか、ここに住む人間の誰かなのか、もしくは……。


 とにかく調査をする必要がある。あとで何か証拠が残ってないか調べるとしよう。


 ひとまず、俺とセルレさんはラピスとアルマさんの元に向かった。アルマさんは目を覚ましており、大きな怪我もしていなかったみたいだ。無事で何よりだな。







◇◇◇







「嘘……。嘘よ、こんなの嘘に決まってるッ!!」


 自分が送り出したベヒモスが何もできずに倒されかけ、女性は取り乱す。これで彼女の作戦が失敗に終わったことが確定となった。


『ほれ、我々も帰還するぞ』


 フクロウはその羽で後ろに発生した黒い穴を指す。これは主人からの帰還の合図であることは、組織の人間なら誰もが知っていることだ。


「許さない……。あの三人は絶対私が殺してやる……ッ!」


 彼女は自身の能力で戦場の様子を確認できていたので、誰がベヒモスを倒しかけたかは分かっていた。女性はその三人の姿を脳裏に焼き付ける。


(ふぅ、まだまだ小娘じゃのう。この程度で取り乱すとは情けない。まあ、こちらの目的は達成できた故、此奴が罰されることはないじゃろう)


 ベヒモスを倒しかけた三人に対して殺意を抱く女性に、フクロウは呆れているみたいだ。


(あの魔力の波長、そして驚くほど膨大な魔力量。間違いない、奴が『破滅の魔導士』だ。それに加えて、あの魔銃使いは……。これは思わぬ収穫だったぞ)


 フクロウは黒い穴を通る。今回得た情報を主に伝えるために。





これで第一章は終わりです。第二章は一週間後から投稿を開始します。

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