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宝玉使いは実力を隠す  作者: 潮騒
第一章 商売の宝玉使い
14/22

地竜



◇◇◇


「あと、一匹ッ!」


 宝玉から放たれた魔法が魔物に突き刺さる。これで、この場所はだいぶ戦いやすくなっただろう。


「悪い、助かったよ!」


 俺が援護をした冒険者はそう言うと、また戦闘に戻っていった。俺たち援軍が来たからか、前線も持ち直して余裕で魔物を捌けるようになってきていた。


(そろそろ俺も下がるか……)


 前線にいる意味も無くなってきたのでラピスがいる後方へと下がろうとした。


 その時だった。


「うわっ!」


 突然、ズシンという大きな足音が鳴り響き、地面が揺れた。その足音はこちらに近づいているようで、だんだんと大きくなっていた。


「なんだ?」


 謎の音に戸惑っていると、その音を鳴らしている張本人がスタンピードがやってきた方角から姿を現した。


「な、地龍だと……!?」


 そこにいたのは、地面を四足歩行で歩く馬鹿でかい生物。空を飛ばない竜――地竜だった。


 その中でも奴は地竜ベヒモスと言い、地竜の中で一番の大きさを誇り、防御力が一番高いと言われている。


「お、おい!あれって……」

「ち、地竜だぁぁー!!!」


 周りにいた冒険者たちはベヒモスの姿を見て一目散に逃げ出す。端から見れば情けないと思うかもしれないが、それも仕方のないことなのだ。なぜなら奴の討伐ランクはA。Aランクの冒険者が五人以上で戦うことで討伐できるとされているからだ。おそらく、この場にいる冒険者の中にAランク以上の冒険者はいないのだろう。


「グルァァァァァァァァ!!!」


 ベヒモスは雄叫びを上げると、大きな右前足を振り上げて勢いよく地面に叩きつける。すると、叩きつけた場所から地面が割れていき、逃げる冒険者の地面まで裂けそうになっていた。


「危ない……ッ!」


 俺は腰から緑色の宝玉を外し、逃げる冒険者に向かって投げる。そして、その宝玉から魔法を発動した。


「《吹き抜ける突風(ターボウィンド)》!」


 投げた宝玉から突風が放出される。その風は逃げる冒険者の背中を押して、地割れに巻き込まれないようにする。ギリギリのところで冒険者たちは地割れに飲まれずに済んだようだ。


「ふぅ……」

「グギャァァァァ!!」


 ベヒモスは自身の攻撃に邪魔が入ったことに腹を立てているようだ。今は他の冒険者には目もくれず、完全に俺だけに狙いを定めている。


「さて、人もいなくなったことだし、ちゃちゃっと倒すか」


 更に多くの宝玉を取り出してベヒモスを倒そうとすると、後ろから俺に声がかけられた。


「シンジさん!」

「え、セルレさん!それにアルマさんも!」


 セルレさんとアルマさんが後ろからこちらに向かってやってきた。二人もベヒモスと戦いに来たのだろうか。


「この場所は危険っすよ!早く後ろに下がってください!」

「そうですよ。ここは私たちに任せて早く!」


 二人は冒険者でも何でもない俺のことを心配してそう言ってくれる。しかし、そういう訳にもいかない。なぜなら……


「グルァァァァァ!!」


 ベヒモスが口からブレスを俺めがけて放つ。俺は二つの緑の宝玉を操作し、魔法を発動した。


「《拒絶の風嵐(ディバイドストーム)》」


 巨大な渦巻く風がベヒモスのブレスを相殺していく。攻撃の余波などは一切こちらには届いていない。


「すごい……。無詠唱でこれほどの魔法を使うなんて……」


 まずい、緊急事態とはいえ普通に魔法を使ってしまった。同じ魔法使いであるセルレさんには俺がそこそこ魔法が使えることがバレてしまった。


「い、いや、これは偶然使えるだけで……」

「来るぞッ!!」


 俺がセルレさんに弁解しようとすると、ベヒモスが再び右前足を振り上げて勢いよく地面に叩きつけた。そして、そこから地割れが起き、今度は俺のいた場所まで裂けていった。


「グルォォォォッッ!!」


 ベヒモスはそのでかい図体に見合わないほどの跳躍で、地割れを回避した俺のところに飛び込んでくる。それを身体強化の魔法を使って何とか躱し、反撃の魔法を発動した。


「《風刃(ふうじん)》!」


 いくつもの風の刃がベヒモスを襲う。普通の魔物ならこの攻撃で倒せるのだが……。


「グルァァァァァッッ!!」


 ベヒモスにはあまり効いていない。流石の防御力というべきか。とはいえ、奴に攻略法がないわけではない。俺が知りうる限りでは二つある。


「セルレさん、アルマさん!今から作戦を言うので聞いてください!」


 俺は大声で叫ぶ。ベヒモスは逐一俺に攻撃を仕掛けてくるため、しっかり話し合う余裕がないのだ。


「え、は、はい!」

「うっす!」


 二人は戸惑いながらも返事をする。それを聞いて、作戦の内容を話した。


「まず、ベヒモスの足を狙ってください!四本の足すべてです!」


 ベヒモスの二つの攻略法のうち、一つは圧倒的な火力で葬り去ることだ。当初の予定ではこの方法で倒そうとしていたが、セルレさんたちがいる以上、巻き込んでしまう危険性もあるので今回はお預けだ。


 そのため、二つ目の作戦に移行することにした。それは奴の弱点である腹に攻撃をして倒すことだ。ベヒモスの体は亀のようになっており、腹以外の部分はとてつもない防御力を誇る。しかし、腹だけは柔らかく攻撃が通るのだ。奴の移動がやけに速いのは地面から攻撃された時に避けるためだと言われている。


 セルレさんとアルマさんは俺が言った通り、ベヒモスの足を狙って攻撃する。足を弱らせておくことでベヒモスをひっくり返すことができる。そうなればベヒモスを討伐することは容易になる。


「グギャァァァァ!!!」


 しかし、ベヒモスも馬鹿ではない。自分の足が執拗に狙われていることが分かると、その場でジタバタと動き回り、足が狙えないようにしてきた。地味に嫌な動きだ。


「くっ、ちょこまかとッ!」


 足を上げたところを狙おうと、アルマがベヒモスに飛び込んで斬りかかる。


「ダメだッ!」


 それはベヒモスの誘いだと気づいた俺はそう言ったが、時すでに遅し。アルマさんはベヒモスの前足で勢いよく蹴られ吹き飛ばされた。そして、後ろの木にぶつかり、気を失ったようだ。


 まずい状況になったな……。前に出てベヒモスの注意を引いてくれていたアルマがいなくなったら、後ろから魔法を撃っている俺とセルレさんが攻撃の対象になる。俺はまだ対処できるが、セルレさんはおそらく無理だ。つまり、この場の最適解は………。


「セルレさん!俺が前に出て戦うので、セルレさんは魔法を撃ち続けてください!」

「分かりました!」


 俺は身体強化の魔法を増幅し、ベヒモスの周りを跳ね回る。そして、隙を見つけては魔法を放ってベヒモスの足を弱らせていく。


 しかし、俺が攻撃に専念できなくなったので、こちらの攻撃力が目に見えて落ちていた。このままでは魔力切れで負けてしまう。


 どうしたものかと考えていた時、一筋の光がベヒモスの右目を射抜いた。


「シンジ!」


 声がした方を振り向くと、後ろで魔物を倒していたはずのラピスが走ってきていた。


 その瞬間、俺は悟った。この戦いは俺たちの勝ちだ、と。





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