スタンピード襲来
セルレさんからスタンピードの話を聞いた三日後、当初の予想通りこの日にスタンピードが襲来することとなった。冒険者たちは王都から少し離れたところにある平原に集まっているらしい。
「スタンピードか……。セルレさんたち、大丈夫かな」
「あの人たちだってプロなのよ?心配いらないでしょ」
定休日の今日はのんびりと過ごしていた。昨日、一昨日と働きすぎたので、今日は何もしないと決めていたのだ。
「でも、いっぱい魔物が来るんでしょ?たとえ冒険者の人たちでも数が多かったら厳しいんじゃないかな」
俺の隣に座るローズが暖かい紅茶を飲みながらそう言う。
「それは大丈夫だと思うわよ。スタンピードは基本的に弱い魔物しかいないから」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「一回相手をしたことがあるのよ。その時と同じ規模なら冒険者があの数いれば余裕ね」
そんな話をしていると、店の入口の方から誰かの声が聞こえてきた。店の扉には閉店の看板を掛けているので、おそらく知り合いの誰かだろう。
「おーーい、シンジくーーーん!」
「ベインさん!どうしたんですか?」
汗だくで息を切らしながら店の中に入ってくるベインさん。どうやら急ぎの用みたいだ。
「君も……スタンピード撃退に、手を貸してくれないか……?」
「え?」
俺がスタンピードの撃退?なんでベインさんはそんなことを頼んでくるんだ?
ひとまず、ベインさんを店の中に入れて、近くにあった椅子に座ってもらう。
「ああ、すまない。詳しく説明するよ。実はスタンピードの規模が予想より大きかったらしくね、私のような素材を売るために冒険者になっている人たちにも参戦の要請が出されたんだ。その時に冒険者じゃなくても魔物と戦える人に声をかけておいてほしいと頼まれたんだ。だから、君に頼みに来たんだよ」
ベインさんは戸惑っている俺に詳しい説明をしてくれた。俺が宝玉を使って戦うことは、ベインさんの娘のメイちゃんを救出したことで知られている。だから、俺を呼びに来たのだろう。
「そうですね……」
スタンピードは暴走する魔物たちをすべて討伐、もしくは撃退をすることでしか被害を抑えることは出来ない。予想よりも規模が大きくて少しでも漏れが出てしまったら、王都にまで突っ込んでくるかもしれない。そうなれば結局俺たちが戦わなければいけなくなる。だったら……
「別に強制してるわけじゃないから、嫌ならいいんだけど……」
「俺も行きます」
そう答えると、ベインさんは少し笑って椅子から立ち上がった。
「よし、じゃあ早速行こうか」
「あ、ちょっと待ってください」
俺は準備をするために二階へと上がった。その時、俺とベインさんの話を聞いていたであろうラピスが近づいてきた。
「スタンピードの撃退に参加するの?」
「ああ、今のうちに潰しとかないと、後々面倒なことになるからな」
俺がそう言うと、ラピスは深くため息をついた。そして、近くに置いてあった二丁の銃を手に取り、腰のホルスターに差した。
「なら、私も行くわ」
「珍しいな。こういう時は大抵止めてくるのに」
「あなたは止めてもどうせ行くってことが分かったしね。それに、私だって今の暮らしを邪魔されたくないもの」
ラピスは昔のような覚悟を持った目を見せる。俺は少し昔のことを思い出しながら、ラピスと一緒にベインさんの元に向かった。
◇◇◇
一方その頃、冒険者たちと魔物たちがぶつかっている平原では拮抗した戦闘が繰り広げられていた。地力では冒険者たちが勝っているものの、数の多さともう一つの理由により、冒険者たちは苦戦していた。
「クソッ、なんでこいつら連携して攻撃してくんだよ!スタンピードはただの魔物の暴走じゃないのかよ!」
一人の冒険者が叫んだように、魔物たちは冒険者に向かって連携した攻撃を仕掛けてきていたのだ。普通のスタンピードでは、魔物たちは一直線に飛び込んでくるため、一対多だったとしても対処しやすい。しかし、今回は複数の魔物が冒険者を翻弄しながら向かってくるため、同じように複数人で対処しなければ撃退することが難しくなっていた。
「落ち着いてください!私たちなら簡単に対処できるはずです!」
スタンピードの撃退に参加していたセルレが前線で戦う冒険者たちに聞こえるように叫ぶ。しかし、怒号が飛び交う戦場では、彼女の声は冒険者たちには届かなかった。
(このままじゃ、どんどん押されちゃう……。なんとかしないと……!)
セルレは魔法で襲いかかる魔物を弾き飛ばして、近くで戦うアルマの方に寄った。
「アルマ!前線が崩れかけてるから、私たちも前に出よう!」
「分かった!」
セルレとアルマは全速力で前線へと向かう。前線はかろうじて保ててはいるものの、負傷する者が増えていた。これでは、そう時間も経たないうちに崩壊してしまうだろう。
「みなさん!相手は連携してくるとはいえ、弱い魔物ばかりです!落ち着いて対処すれば何の問題もありません!」
セルレがそう呼びかけるが、目の前の魔物に必死な冒険者たちは誰一人としてその言葉に耳を傾けていなかった。
(ダメだ、全然届いてない……)
そうこうしている間にも、セルレの元に魔物がどんどん突っ込んでくる。
「《水天の槍》!」
その魔物たちを水の槍で串刺しにしていく。しかし、魔物たちは徐々に様々な方向から向かってくるようになり、槍を当てづらくなっていた。
「あ……ッ!」
ついに、一体の魔物に対して槍を外してしまい、その魔物が勢いよく飛び掛かってきた。
もう魔法を発動している時間はないので、なんとか杖で応戦しようとしたその時、魔物の横から飛んできた火の弾が魔物を吹き飛ばした。
「大丈夫ですか!」
火の弾が飛んできた方角から聞こえてくる声。セルレはその声の主を知っていた。
「シンジさん!」
セルレの隣にシンジが駆けつける。そして、シンジ以外の援軍に来た人たちも戦闘に参加していた。
「大丈夫ですか?」
シンジの問いかけにセルレは満面の笑みで答えた。
「はい!」




