打ち解けたら小ボケをしてくるタイプ
ローズがうちの店に来てから十日が経った。ローズはとても理解力が高くて一度教えたことはすぐに実行できるので、もう既に店の手伝いを完璧にこなしていた。
「ローズって飲み込み早いよな」
「そう?別にこのくらい普通と思うけど……」
「もしかしたら、ここに来る前に似たようなことをやってたのかもな」
この十日の間で、ローズの記憶に関して分かったことが増えた。それはローズがこの場所に来る前の記憶だけでなく、それ以前の記憶も抜け落ちていることがあったということだ。本人曰く、忘れていることも忘れていたらしい。思い出そうとして初めて気づいたとか。
「私みたいな天才美少女だったら、知り合いに会えばすぐに気づいてもらえると思うし、お金が貯まったら一回バルトール王国に行ってみようかな」
「自分で天才美少女って言うな!」
と、まあこんな感じでローズは小ボケをかましてくるようになった。心を許してくれているからそんな小ボケをしてくるのだと思えば、俺のツッコミにも気合が入る。
「えへへ。そうだ、私がバルトール王国に行く時はシンジさんも一緒に行こうよ。もちろん、ラピスさんとトルー、マリンもね」
「あー、そうだな。その時はみんなで行こうか」
「うん!」
その日の午後、店に大量の客がやってきた。ここ数週間で一番多いだろうか。しかし、客である冒険者たちの顔はいつもと違って険しい表情をしていた。
そして、客たちは武器の修理や注文をする際に必ず二、三日で仕上げてほしいと言ってきた。ということは、二、三日後に何かあるということなのだろうか?
「セルレさん。二、三日後に何かあるんですか?」
店内の対応をトルーとローズに任せて、マリンに手伝ってもらいながら武器や宝玉の修理をしていた俺は、杖の修理に来ていたセルレさんに理由を尋ねてみた。
「今日、ギルドの方から冒険者に特別依頼が出されたんです。この王都の近くでスタンピードが発生したみたいで……」
「ああ、なるほど」
スタンピードとは魔物たちの大行進のことだ。理由は不明だが、稀に魔物たちが大群になって進行する現象が起こる。その進行先に街や村などがあると、ギルドから冒険者たちに特別依頼が出されるのだ。
「そのスタンピードが二、三日後に王都に来るという予想なので、みなさんはその準備をしに来たんだと思います」
「そういうことなら一日、遅くても二日で全て仕上げないとダメですね」
冒険者ギルドが言う二、三日後というのはあくまでも予想だ。当然、魔物たちの動きを完璧に予想することはできないので、予想の日よりも前後することはある。
それなら早く仕上げるに越したことはない。俺はスタンピードのことを教えてくれたセルレさんにお礼を言って、作業の速度を上げた。
◇◇◇
ドドド……という音と共に草原を駆け抜けていく魔物の大群。その大群の後ろに一人の女性がいた。彼女は馬の魔物の背に乗りながら、大群の後を追いかけていた。
「フフフ、順調順調。私の計画は予定通りに進んでいるわ」
彼女はそう言いながら、自身の唇をぺろりと舐める。その姿は他者を魅了するような、そんな妖しさがあった。
『順調なのは良いことだが、油断だけはするでないぞ』
彼女の肩に乗った純白のフクロウが語りかける。彼女はフクロウをチラッと横目で見てため息をついた。
「はいはい、分かってるわよ。でも、まさか"あの方"が部下の報復のためにここまでやれって言うなんて珍しくないかしら?」
『フンッ、我らはただ"あの方"に従うのみだ。余計なことは考えるでない』
フクロウはそう言ったものの、なぜ自分たちの主がそんな命令をしたのか分かっていた。分かっていて、敢えて彼女には黙っているのだ。
(まさか、こんなところに『破滅の魔導師』がいるとは思えんが……"あの方"が言うのならそうなのだろう。まあ、我はあくまで観察者。今回の全てはこの小娘にやらせろとの指示なのだからな)
フクロウはゆっくりと目を閉じた。その時が来るのを彼女の肩でじっと待ちながら。




