装備品&装身具の店『ウォーティー』
新連載です。気ままに投稿していきます。
カランカランという音が鳴り扉が開く。
「いらっしゃいませ」
俺――シンジ=ウォーティーは店に入ってきたお客さんに向かってそう言う。今回のお客さんは赤髪で巨大な斧を背負った女性と青髪で杖を持った女性の二人だ。
「今日は何が欲しいんだっけ?」
「水の魔力が込もった宝玉って言ったでしょ。杖に付いてる宝玉がそろそろダメになってきたから変えたいのよ」
青髪の女性が陳列された宝玉を見ながらそう言う。うちの店では主に宝玉という魔法を発動するための媒介となる魔道具を取り扱っている。魔法使いにとっては宝玉が必須になるので、店には毎日冒険者や王国勤めの魔法使いが来てくれる。
「よかったらお目当ての品をいくつかご紹介しますよ」
「あ、じゃあお願いします」
どうやら宝玉選びに迷っていたようなので、水の魔力を秘めた宝玉を何個か見繕って持ってきた。
「うーん……」
青髪の女性が持ってきた宝玉を見ながら唸る。その様子を赤髪の女性が暇そうに見ていたので、俺は話を振ってみた。
「お姉さんたちは冒険者の方々ですか?」
「そうっす。アタシたちはこう見えてもBランク冒険者なんすよ」
赤髪の女性は自慢げにそう言う。Bランクは冒険者のランクの中で上から三番目に高いので、彼女が自慢げになるのも分かる。
「すみません。これをお願いします」
そんな話をしていると、青髪の女性が宝玉を決めたみたく、俺に宝玉を渡してきた。
「よろしければ杖にお付けしますが、どうしますか?」
「あ、じゃあお願いします」
女性から杖をもらって裏手に回る。
「宝玉の交換ですか?」
裏手で作業をしていたオレンジ髪の少年が話しかけてくる。彼は手伝いをしてくれているトルーだ。
「そうだ。悪いけど、会計頼めるか?」
「はーい」
トルーに宝玉の値札を渡して会計をしてもらい、その間に杖の宝玉を購入したものに付け替える。
「お買い上げありがとうございます!」
宝玉を付け替えた杖を持っていくと、ちょうど会計が終わったタイミングだった。
「こちらがお預かりした杖です。元の宝玉はこちらで処分してもよろしいですか?」
「じゃあお願いします」
「かしこまりました」
基本的には使い終わった宝玉は再利用することはできない。しかし、俺みたいに職業が『宝玉使い』の人ならもう一度使えるようにすることができる。さすがに売り物にはしないが。
「ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
店を出ていく二人にそう言って頭を下げる。そうして、また次のお客さんが来るのを待った。
「あぁー、疲れた……」
その日の夜、店じまいをした後にカウンターに倒れ込む。『装備品&装身具店 ウォーティー』を開店して早いこと、三ヶ月。そろそろ慣れてきたかと思ったが、取引先との契約や店内で揉める冒険者など、頭を悩ませることは多い。
「今日も一日お疲れ様。売り上げはどうだったかしら?」
疲れ切った俺に話しかけてくるのは、紺色の髪がよく似合う女性ラピスだ。彼女はこの店の装身具売り場を担当してくれている。俺の店は冒険者向けの装備品売り場を担当する俺とトルー、女性向けの装身具売り場を担当するラピスとトルーの妹マリンの計四人で切り盛りしている。
「まあ、順調ではあるな。その分、俺は疲れたけど」
「順調なら問題ないわね。こっちも利益は落ちてないわ」
ラピスは身体的にも精神的にも疲れというものを知らないので、俺の疲れも大したことないと思っている。店を始めた頃なんて、定休日を作らず毎日店を開けようとしてたくらいだ。危うくブラックな店になりかけるところだった。
「そっちはいいよな。基本的に女性しか来ないし、取引する必要もないしさ」
「あら、じゃあ話好きな貴族の御令嬢の相手をする?あなたの価格設定だと平民の女の子もいっぱい来るけど?」
俺は少しでも多くの人に来てもらおうと、装身具売り場の商品は高いものからお手頃なものまで取り揃えている。だから、平民の人も多く訪れるのだ。
「うん、冒険者の相手も楽しいなぁ。明日も一日頑張るぞぉ」
「分かってくれたのならいいわ」
そう言って、ラピスはコーヒーを啜る。その様子を見た俺は、ため息を吐きながら今日の売り上げを計算するのだった。