4.再会する俺
矢を受けた男が倒れるよりも早く、さらに二の矢、三の矢が風の音と共に飛来して、それぞれ俺の右手と左足を掴んでいた山賊の頭を打ち抜く。もちろん、神の放った矢というわけじゃない。
こんな正確な連射ができて、近くにいるのは俺の〝元〟仲間のシーフ、クルト以外有り得ない。
三人が倒れて、ようやく残りの半数の山賊が事態に反応した。
「お、おい!」
「どっからだ!?」
「上だ! 上!」
襲撃に備えるため俺の体が離されて、空中で自由になる。
「ちょっ──」
当然、落下した。
「いったぁ~」
背中を地面にぶつけてしまいさすりながら起き上がると、上方から駆け下りて来たアルたんがすでに二人を倒し、マントをたなびかせながら流れるような動作で最後の三人目を切り捨てるところだった。
はぁ……やっぱ次元が違うわ。山賊とも、俺とも……。溜息しか出ない。
しっかし、気まずいよなぁ。あんな捨て台詞吐いて別れたのに、こんなにすぐ再会して助けられるなんて。そんなことを考えていたら、ゆっくりとこちらに近づいていたアルたんが歩みを止め、横を向いて俺から視線を外した。
どうしたんだ? あっ、そういや俺、今女なんだった。おまけにパンツ一枚だけの。そのことを思い出して、丸出しにしてしまっていたおっぱいを両腕で抱くようにして隠す。
「これを」
こちらをなるべく見ないようにしながら、アルたんは自分のマントを渡してくれた。実に勇者らしい行動だ。少し顔を赤らめているのも、ポイントが高い。なんてことを思ってしまう。
「あ、ありがとう……」
俺がマントを羽織ると、アルたんは正面に向き直った。
「俺は、アルフレッド。君は?」
「お……わ、わたしは、エミ……」
言葉に詰まる。咄嗟に偽名、しかも異性のなんて思い浮かぶわけがない。けれど、
「エミか。いい名前だね」
アルたんは勝手に納得してくれた。まぁいいか。
「ケガしてるじゃないか。おーい、ゲオルク、治癒を頼む」
俺の足の擦り傷や痣に気付いて、坂を下りてきている僧侶のゲオルクをアルたんが手を振って呼んだ。クルトとカールもいる。
「おおっ、これはなんとも痛ましい。さぞ恐ろしい思いをなさったでしょうな。今はお辛いでしょうが、気をしっかりお持ちくだされ」
ゲオルクがなにを想像したかは知らないが、傷はほとんど崖から転がり落ちた時のものだ。二重の意味で説明するのは面倒なので、黙っておくけど。
「ご安心あれ。拙僧が、跡形もなく癒してご覧に入れますぞ」
確かにこの程度の傷なら、ゲオルクなら一瞬で治してくれるだろう──のはずなのだが、この僧侶は口ばかりで一向に治癒をしようとしない。
ペタペタと無遠慮に素足を触り、太ももを揉んだり、ふくらはぎをさすったりを繰り返している。
「……あ、あの」
そもそも触れなくったって治癒はできるだろう。
「いやしばらく、しばらくお待ちくだされ。傷とお体の状態をしっかりと把握することが、治癒にはなにより肝要でしてな」
ゲオルクはしたり顔で、真っ赤な嘘を吹く。こいつ僧侶のくせに、むっつりスケベだったのか。
「あ・の!」
強めの口調で言うと、
「わかりました。今、子細抜かりなく把握いたしましたぞ。さあ、癒してしんぜましょう」
ゲオルクの手が光を帯びて、俺の傷は全てたちどころに消滅をした。
「町までお送りします」
アルたんの提案を断る選択肢はなかった。剣も鎧も、服さえない状態じゃ、とにもかくにも町に戻らないとなにもできない。
「なあ、あっちはいいのかよ?」
クルトの問いかけに、アルたんは少しだけ考える素振りを見せて、
「……まぁ大丈夫だろ」
それだけ答えた。なんのことだろう?
「ははっ、お嬢さん、なんなら俺が担いでいきましょうか? ははっ」
力こぶと白い歯を見せながら、カール。こいつもむっつり……いや、こいつはなにも考えてないだけだな。
「え、遠慮しておきます」