順番がおかしい?
『データ人』の小さな船団は、第一の船団が調べなかった場所を確認しながらどんどんその規模を大きくしていきました。
一番大事で、一番増やすのが大変な乗組員が簡単にいくらでも増やせて、宇宙船も小さいもので良い。小さな星を材料にして新しい船を作り、船員のデータをコピーすることで彼らの数はネズミ算のように増えていきます。
また、彼らは何とか旅立つことのできた第二の探索隊の助けにもなりました。
『旅人』を見つけることよりも宇宙の開拓や探検に興味のある人たちが、第二の探索隊の準備に反対した時のこと。『データ人』の船団が「開拓者や探検者のためのベースキャンプを準備する」ことと引き換えに、協力を約束させることができたからです。
宇宙に広く散らばった第一の探索隊、隙間を縫うように探索を進める『データ人』の探索隊、地球を旅立ち、一番新しいカプセルが見つかった星を目指す第二の探索隊。彼らはみんな、星図を眺めて悩んでいました。
カプセルが見つかった星と星を、うまく線でつなぐことができないからです。
「そのカプセルが作られたのが何年前か」を分析して、その順番通りに星図の星に番号をつけて線でつなぐ。そうすると、絡まった糸のような線になってしまう。
人の歩いた道に例えるなら、途中で瞬間移動して遠く離れたところに現れたような道筋。
『旅人』のエンジンには似たようなことをする機能がついていますが、その機能を使ったにしては間の空き方が広すぎる。
まるで、宇宙の一部を旅していたら「急にあの辺に行きたくなった」と遠く離れた場所へ移動をしたような、気まぐれすぎる道順です。
今までの探索はある程度目星をつけて星を調べていました。
『旅人』がこんな道順で旅をしているなら、今までに見逃した星があるかもしれません。これからは、全ての星を一つずつしっかり探していかなければならないかもしれません。
探索隊たちは悩んだ末に、今までやらないことにしていた「カプセルを開く」ことに手を出しました。昔と違って、今ならあの板の中身を写し取ったり、元に戻すことができるからです。
一番新しいカプセルの中にある板を取り出し、その中身を読みだします。
答えは、板の隠された記憶の中にありました。
自力でこの板の読み書きができるようになった時、はじめて読むことができる部分があったのです。故郷の星では、板の中身を隅々まで確認したことは一度も無かったために見つからなかったところです。
隠された場所にあったのは、「宇宙を貫く『針』」の作り方。
これで「宇宙と宇宙の間にある壁」を刺せば、ルールが全く異なる別の宇宙へ行くことができます。
昔空いた穴の跡を調べる方法も、板には記録されていました。
そのやり方で調べてみると、このカプセルのあった星の近くで、とても昔に一回穴が開いたことが分かります。行先は、「すべてのものが決まった形を持たず、波のようなあり方で存在する」宇宙。
「宇宙全体が水面で、あらゆるものはそこに起こる波として存在する」ような、この宇宙に住む人にはイメージが難しい場所。
当然、今の体のままではいけません。ものがものとして存在できない場所に、無理やりこの世界のものを送ることはできないからです。
第一の探索隊は『万能薬』を使っていますが、人間のままこれまで旅をしてきました。第二の探索隊も別のやり方で長生きできるようにしていますが、ここまで大きな変化を簡単には受け入れられません。
『データ人』の隊だけが、別の宇宙へ行こうとしました。
彼らは生まれたときから、心だけの存在です。
宿るものが何であろうと、自分は自分。これまでにしてきたことの思い出と、何をしたいかという想いが、「わたし」を作る。
そんな考え方が彼らには生まれていました。
故郷で受け継いだ『旅人』への想い、誰も行ったことの無い場所へ一番乗りできるということ。行きたいと思う理由はあっても、行きたくない理由なんて彼らには無いのです。
第一、第二の探索隊も手伝って、『データ人』を送る『針』を作りました。
彼らは、色々な準備が整うまでは別の宇宙にいけません。
二つの探索隊に見送られ、番外の探索隊は誰も行ったことの無い場所へと旅立ちました。