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おみやげはどんなもの?

 ここは、私たちの住む地球から遠く離れた別の星。

 遠く離れているけれど、そこに住むのは私たちとよく似た人たち。空に見える太陽と月も一つずつで、あまり大きな違いはありません。


 一つ違うところを挙げるなら、この星の人は私たちよりも「新しいものを見つける」ことが好きです。

 砂漠、ジャングル、海の底。船や自動車、飛行機のような乗り物を作り、彼らは自分たちが住む星のあちこちを探検していました。


 そんな彼らがある日見つけたのは、とても丈夫なカプセル。

 溶岩の温度や海の底の水圧にも耐える強さを持つそれは、自然の力で偶然に作られるものではありません。

 X線などを使って中身を確認することはできませんが、「中に空洞があって何かが入っている」ことは分かりました。


 誰が、何のために作ったのか。中には何が入っているのか。

 この発見を知った人々は、その正体を想像しました。


 あれは、良いものが詰め込まれた宝箱だ。

 いいや、恐ろしい怪物を閉じ込めたオリだ。

 大昔の人が作ったタイムカプセルじゃないか?

 危ないゴミを詰め込んで埋めた、ゴミ箱かもしれない。


 想像することはそれぞれに違っても、皆中身が気になります。危険なものだった場合に備えて、宇宙でカプセルを開くことになりました。

 もし中身が恐ろしい病原体だったとしても、それが星全体にまき散らされることは無いからです。


 カプセルを開くための実験室を宇宙に作り、そこにカプセルを運び込む。まだ、人を月に送れるようになったばかりの彼らには、大変なことでした。

 それを成し遂げられたのは、この星に住む人皆がカプセルの中身を知りたいと思い、力を合わせたからです。


 世界中の国から、カプセルを開くところを見たいという人が実験室に集まりました。

 重力の無い宇宙にある施設なので、実験室の壁を透明なもので作ればどの方向からでも見ることはできます。それでも希望者は多かったので、用意した場所は人でいっぱいになってしまいました。


 超高温のカッターが、少しずつカプセルを切り開いていきます。

 ここに集まった多くの人、放送によって離れた場所からそれを見る人が見守る中、ついにカプセルの中身が取り出されました。


 中に入っていたのは、何枚かの板。


 こんな形で入っていたものが、ただの板であるはずがありません。どんなものなのか調べようと、実験を進めてきた研究者たちは検査のための機械を動かし始めます。


「これの外殻を開封できたということは、あなたたちは私たちの残すものを受け取ることができるだろう」


 声が、聞こえ始めました。頭の中から聞こえるように思えるそれは、普通の声ではありません。


「私たちは、遠い場所から旅をしてきた。当てもなく、果てもなく。この場所に立ち寄った私たちは、いずれ私たちの残すものを受け取れる誰かが現れるだろうと考えた。だから私たちは、『これ』を残すことに決めた」


 この場にいる人だけに聞こえる、カプセルを残した誰かのメッセージ。ざわざわと騒ぎ始めた人たちに構わず、声は続きます。


「この板には、私たちが旅の中で得た知識が詰まっている。役立つものがあるかもしれない。役立たないもの、有害なものもあるかもしれない。いずれにせよ、これに詰め込んだ知識は自由に使ってくれて構わない。使わなくてもいい。後悔さえしないのであれば」


 声を聞く人たちの騒ぎ声は、大きくなっていきます。


「板の使い方は簡単だ。誰かに知りたいことを聞くように、板に対して質問をすれば良い。板自身も詳しい使い方を説明できる。一つ注意しておくが、知識が不要というのでなければ板を壊すのはやめてくれ。作り方が知りたいなら板の中に入れてある。外殻は板を手にするものを選別するためにつけただけで、板そのものもかなり丈夫なものだ。簡単に壊れはしない。だが、万が一壊れたら中の知識も永遠に失われてしまう。何が入っているかくらいは確認して壊してもらいたい。メッセージは以上」


 もう、この場に立ち会って落ち着いていられる人はいません。誰もが板の中身をもっと知りたいと思っています。

 彼らは、自分たちの住む星を隅々まで知りたいと思う人々です。遠い星のことも、知りたいと思わない訳がありません。


 どこの国が、誰が先に質問をするかで争いが起こりかけました。しかし、「その権利を持っているのは誰なのか」がよく分からないことに気づいた彼らは、少しずつ落ち着きを取り戻していきました。

 本当に多くの国や人が力を合わせたので、「誰が一番働いたか」の順番をつけるのも大変だったのです。


 落ち着いてみたら、「この場で言い争いを続けていてもきりがない」と思えるようになった彼ら。とりあえずは板に「どんな中身があるのか」を聞いてみることにしました。

 「書き出すものが必要だ」と板が言うので、研究者は白紙のノートを持ってきます。そのページを開いてみると、いつの間にか中には文字が書かれていました。どうやって板がそれを書いたのかは、誰にも分かりません。


 「速く飛べる宇宙船の作り方」「年を取ったり病気にならなくなる薬の作り方」という形で書き出されていった中身は、山のような数のノートになりました。

 詳しいことまで書き出させたら紙がいくらあっても足りないので、とりあえずはこのノートに書かれたことを「カプセルの中身」として発表することになりました。


 人々の反応は様々です。


ある人はこう思いました。

「『旅人』の知識はすばらしいものばかりだ。皆がそれを使えるようにするには時間がかかるが、そうなれば私たちは今よりずっと幸せに暮らせるようになるだろう。是非お礼が言いたい」


こう思う人もいます。

「気に入らない。彼らに教えてもらったことを自力で考え付くには、何百年以上の時間がかかっただろう。それでも、人に教えてもらうことなく自分たちの手で考えたかった。悪気は無いんだろうけど、文句を言いたい」


あるいは、こんな風に思う人も。

「すごいよね、あれ。あんなことを思いつくなんて、『旅人』はどんな人たちだったんだろう。気になる」


 細かな違いはあれど、皆同じことをしたいと思っています。

 『旅人』に会いたい。


 この思いは、人々の目を宇宙へと向けました。

 『旅人』を、探しに行こう。

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