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お題小説

一酸化炭素

作者: 水泡歌
掲載日:2020/11/15

 一酸化炭素……木炭などが不完全燃焼する時に出る有毒ガス。

 一酸化炭素を辞書で引いてみると、こんな意味がでた。

 私は思った。

 じゃあ今の私達は一酸化炭素が出ている状態なんじゃないかって。


 私には6年付き合っている彼氏がいる。

 中一から高三までの付き合いで6年。

 最近なんだか2人の関係は冷めてきている。

 たぶん嫌いになったとかではない。

 嫌いじゃないんだけど……好きではない。

 別れたい訳じゃないけど……特に傍にいたい訳でもない。

 微妙な関係。

 今だって一緒に帰っているのに2人とも一言も話そうとしない。

 黙ってもくもくと歩いてる。

 こんな状態が続くようになって、私は最近考えるようになった。

 彼と別れた方がいいんじゃないかって。

 こんな状態続いたってしんどいだけだし。

 お互いがお互いを苦しめてなんになる?

 不完全燃焼で出した一酸化炭素に苦しめられている私達。

 中毒で死んだらどうしようもない。

 私はピタッと歩く足を止めた。

 彼が訝しげに振り向く。

「何だよ?」

 眉間に皺を寄せてあきらかに不機嫌な顔になる。

 昔はこんな時、私の心配してくれてたのにな……。今じゃ、そんな顔するんだ。

 私は少し寂しい気持ちになって、その気持ちのまま言った。

「別れよ」

 彼の目が見開かれる。

「は?」

 私は続ける。

「今のまま付き合ってても意味ないと思うし。手遅れになる前に別れよ。バイバイ」

 私はそう言って彼を追い抜こうとした。

 彼は急いで私の腕をつかんでくる。

「何これ。離してよ」

 冷たい声でそう言うと、そこには彼の困惑した顔があった。

「な……んでだよ。何でいきなりそんなこと言うんだよ」

 彼のこんな顔は初めて見た気がした。

「だって、もう私の事好きじゃないでしょ?」

 内心動揺したけど、平静を装って言う。

「好きだよ」

「うそばっか」

「うそじゃねぇよ!」

「うそだよ!」

 彼の体がビクッと揺れる。

「じゃあ、何で帰るとき一言も喋ってくれないの? 何で手とかつないでくれないの? お昼だって一緒に食べてくれないし! 最近私の前で笑ってくれたことないじゃない? そんなんで私のこと好きって言える? 言えないでしょ!?」

 私の中の今までたまっていたものが爆発した。

 私はボロボロ泣きながら叫んでた。

 どうせもう別れるんだ。

 好きな事言ってやろう。

 私はまた今までの不満を言おうとした。

 けれどそれはさえぎられた。

 彼が先に話し出したから。

「な……んだよ。お前ばっか言いたいこと言って。お前こそ俺のこと好きじゃないんだろ? いつも俺の横でつまらなそうな顔してるし! 手だって、前、俺がつなごうとしたら嫌がったじゃねえか! だから、だから何か……いろいろ不安になって。そんな状態で笑えるわけねえだろ!」

 私はびっくりした。もしかしてこれって……。

「なに? じゃあ、私がつまらなそうな顔してたから? 手を繋ぐの嫌がったって、あれは知り合いがいて恥ずかしかったからで……。つまらなそうなのもあんたが不機嫌な顔してるから。え? じゃあ、何? 私の事嫌いになった訳じゃないの?」

「嫌いに何かなってねえよ! ていうかお前、あの時嫌がったのそんな理由……」

 私達はお互い顔を見合わせた。

 そしてプッと吹き出して笑った。

「何だ、じゃあ、2人とも勘違いしてたんだ」

「バカみたいだな。俺たちそれで別れようとしてたのか?」

 2人声を出して笑った。

 お互いの笑顔を久しぶりに見た。


 一酸化炭素が不完全燃焼で出るなら、酸素を吹き込んで完全燃焼させてやればいい。

 私達に必要なのは酸素だった。

 お互いの気持ちっていう酸素だった。

 酸素を吹き込んだ私達からはもう一酸化炭素は出ない。

 完全燃焼。中毒になる必要はない。


 私達はその日手を繋いで、いっぱい話しながら帰った。

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