第1話
マコトは村はずれにある小さな家に1人で住んでいた。
以前までは村で、父と2つ年の離れた姉と住んでいた。だが3年前に父は村に現れたモンスターと相打ちになり死んでしまった。
父は勇者だった。勇者は手の甲に『勇刻印』と呼ばれる紋章が刻まれている。
勇刻印が刻まれた勇者は、勇者にのみ操れるスキルを使うことができる。
勇者のスキルの使い手で強かった偉大な父をマコトは尊敬していた。そんな強かった父もモンスターに負け、死んでしまった。
マコトは父が死んでから毎日の様に泣いた。父が死んで3ヶ月程して姉の手の甲に勇刻印が現れた。
勇刻印が浮かんでから更に1ヶ月後、姉が王国の騎士団に入団を決め家を出て行った。
マコトは泣いた。悲しくて毎日のように泣いた。
村人はマコトを慰め優しく接した……ご飯をあげたり、生活の仕方など色々と教えた。いつかマコトにも勇刻印が浮かび上がると信じて……。
それから1年後、マコトに勇刻印が浮かび上がる事はなかった。
村人達はマコトのことを……『役立たず』『出来損ない』『無能』『穀潰し』『能無し』と思い始め、陰口を言うようになりマコトへの扱いもぞんざいになっていった。
村の人々はマコトを村のはずれの森に追いやった。
それから更に1年半……マコトは朝起きて木の実を食べ……木の実を森に採りに行き……父の残した剣を1000回振り……晩御飯を食べ……洗浄魔法の魔法で体を綺麗にして寝る……そんな日を毎日のように繰り返す生活を過ごしていた。
そして今から3日前、事件が起きた。
「フッフフフフフ……会いたかったぞ、マコト。いや……私の愛しの清純派アイドル、マコトとでも言っておこうか」
日課の素振りをしていると、いつ間にか横に立っていた黒いローブを深く被った人に話しかけられた。
声はダミ声のような変な声で性別が分からない。
「だ、だれ?」
「いや……やはり私の愛すべき清純一筋13年の純粋アイドルマコトでも言っておこうか」
「あ……あの」
マコトは村を追い出されてから1年以上振りの会話で吃ってしまった。
意味が分からなかったので言及したかったが声が上手く出ない。
「緊張しているようだな、愛しのアイドルよ」
「……」
ついに自分の名前が呼ばれず、アイドルだけになってしまったが何も言い返せなかった。
「まあ良い……今日は君にプレゼントを持ってきた」
「え……!」
プレゼントなど貰うのは父以外で初めてのことだ。それに数年振りに人と会話できて嬉しいのに、プレゼントまで貰える事にマコトの頭の中はハッピーな気持ちになった。
「な、なにを貰えるんですか?!」
「ふふふ……ちん◯んだよ」
「なんでですか?!!!」
マコトの叫び声が森に響き渡った。
「え?お、おち、ちん◯んって言いました?」
「ああ。マコト、君にあげるモノはちん◯んだよ。まずちん◯んって知ってるかな?」
「は、はい。父が生きている時にたまに見たことが……」
「『たま』とちん◯んで掛けるとは……」
「掛けてません!」
マコトの顔が赤くなる。マコトも13歳、羞恥心はある。
「それではマコトにちん◯んをプレゼントしよう」
「い、要りません!私、女なのでおちん◯んは要りません!!」
「ちん◯んなんて有って困るモノでもないでしょ?」
「いえ!1つも要らないです!」
「そんなこと言う子はこうだー!!『ちん◯んカモンカモン!!』」
「きゃあーーー!!」
黒いフードの目からギザギザのビームが飛び出しマコトに直撃する。
「あ、あれ?なんともない……?」
ビームが出終わるとマコトは自身の体に痛みも怪我もないことに驚く。
「これは君を傷つける魔法じゃない。今から3日後、君の股から歳相応のちん◯んが生えてくる!」
「そ、そんな……嫌です!!私、おちん◯んなんて要りません!!」
「もう遅い!この魔法は私を倒さないと解呪できない呪いの魔法!」
黒いローブがバサリと落ちるとローブの人物の声が変わり、自分と同じ歳くらいの少女が現れる。
「この魔王である『ヴァギナス・ヴァルグ・ヴォルカ』様を倒すことが出来たらの話だけどなー!!」
「ま……魔王?」
少女の頭には大きな額に1本と側頭部2本ずつの計5本の黒い角に、肌の露出が多い禍々しい黒い鎧。
マコトはその角の本数で意味が変わることを昔に父に教えてもらったことがある。2本が魔人……3本が上位魔人的なもの……4本が忘れた……そして5本が。
「魔王!!」
マコトは目の前にいる世界の頂点に君臨する存在に恐怖した……自分の股が濡れていく感覚が広がっているのが分かった。
「ふふふ、恐怖で漏らしてしまったか。無理もない。挨拶は今日はこの辺にしておいてやろう」
魔王の足元に魔法陣が現れる。
「それでは、さらばだ。我が愛しの清純派アイドルよ」
魔王が一瞬にして消えてしまった。
「そ、そんな……」
マコトは地面にできた水溜りを気にせず、尻餅をつく。
「私、一体どうしたら良いの……お父さん」
マコトはそれから3日間部屋に閉じ篭った。ちん◯んが生えてくるまで。