序章
『竿竹武雄』は真っ白の空間に立っていた。
「ここは…まさか!」
武雄は辺りを見渡して直ぐに気付いた。
自分が目覚めた場所は、ライトノベルでよくある異世界転生で最初に来る場所だと……。
「その通りです。貴方は死にました。ここは転生について私が説明する為の空間です」
「この声は……?」
後ろを振り返ると、美しい女性が立っていた。
「俺は本当に……本当に死んだんですか?」
「はい、貴方は停まってる大型トラックの下にいた猫を助けようとして……」
「そ、そうだ!思い出した!俺は停まってる大型トラックの下に逃げ込んだ、白い猫を助けようとしたんだ!」
「プフッ……」
女神は急いで顔を後ろを向いた。
「え?」
「貴方が助けようとした猫は実はビニール袋だったんです、よ!!ププッ!」
「え?」
「貴方は猫だと勘違いしてトラックの下に潜って、そのまま運転手は気付かずに出発したため、下敷きになって死にましたっ!!」
女性は笑いながら説明する。
「そ、そんな……」
武雄はショックで膝から崩れ落ちる。
「そ、ププッ……そんなにショックを受けないで下さい。貴方の、クク……正義感は私に伝わりましたから」
「………」
女性は笑いを堪えながら話す。
武雄は少しイラッとしながら女性について考える。
「それで?貴女は転生先の説明とスキルをくれる女神様で良いんですよね?」
「ゴホン……はい、私は女神です。そして貴方を導く者です」
女神は真面目な顔に戻り、シリアスな空気を放つ。
「教えて下さい。俺が転生する世界とスキルについて」
「はい。貴方が転生する世界は魔法が存在し、魔王が生み出したモンスターがいる世界です」
「おお……!」
ゲームやマンガの世界に転生できることに武雄は心が躍った。
「その世界では貴方に、ある『モノ』に転生してもらいます」
「モノ?」
「はい。貴方の体は作り変えられ『モノ』に転生します」
武雄は頭の中で整理する。たしかに最近読んだラノベで『ドラゴン』や『スライム』『剣』などに転生しているものがあることを知っている。
なので武雄は理解し、モノに転生することに対して抵抗はなかった。
「俺は何に?どんなモノに転生するんですか?」
「貴方が転生するのは勇者……」
「え!!俺が勇者?!!」
武雄の心臓が飛び上がった。
「いえ、最後まで話を聞いてください」
「あっ、すみません。え?勇者じゃないんですか?」
「貴方が転生するのは……勇者のちん◯んです」
「……」
武雄の思考が停止する。
そんな訳がない!武雄は首を降った。頭の中でそんな『モノ』に転生する作品を見たことがない!と否定する。
「すみません。聞き間違えたかもしれません……女神様、今なんて言いました?」
「貴方は勇者のちん◯んに転生します」
「なんで?!!」
女神に対して思いっきり叫ぶ。
「どこの世界にちん◯んに転生するラノベがあるんだよ?!」
「極少数しかないでしょうね」
「もしも、ちん◯んになる作品があってもアニメ化出来ないだろ!完全に売れるの諦めたヤツが書くものだし!仮に売れても身内に自慢できんわ!」
「でも深夜ならカリって、ちん◯んに掛けたんですか?」
「掛けてねぇわ!あと深夜でも放送無理だわ!そんなど下ネタ作品!!」
冷静に対応する女神に武雄は抗議する。
「なんで?なんでですか?なんで人間やめて、誰かのちんちんに転生しないといけないんですか?ちゃんとした理由があるんですよね?!」
「っ……」
「あ……」
矢継ぎ早に質問をし過ぎて女神が困っていることに気付き、武雄は冷静になる。
「すみません……どうして俺は……」
「貴方が転生する世界の勇者は気の弱い女の子の勇者です」
「はあ……」
「ですが、魔王にちん◯んを3日後に生やされる呪いをかけられ…」
「なんで?!!」
武雄は思わずツッコんだ。
「アホなんですか?魔王って?!理由は!!?魔王が勇者にちん◯んを生やさせた理由を教えて下さい!?」
「さあ」
「さあって!!お〜〜い!!知らんのかい!!せめて理由を教えてくれ!!」
「私にも皆目見当がつきません」
「アンタにも魔王にもなんか腹たってきた!」
深呼吸を数回し、武雄は何とか冷静になり話の続きを促す。
「貴方はその勇者から生えてくるちん◯んに転生していただきます」
「何回聞いても分からない!!!なんで?!本当になんで?!まず勇者に生えてくるちん◯んに意識と人格っているの?!!」
「それについては私が」
「だれ?!!」
女神の後ろから別の美しい女性が現れる。
「私はこの女神の上司にあたる者です。詳しくは私が答えましょう」
「先輩、すみません」
「良いのよ。ねぇ、この方が例の……」
「はい。ビニール袋と猫を間違えて死んじゃった人です。プフッ」
「うそ!マジ?!この人が……?たしかにマヌケそうな顔してるわ!」
女神たちがコソコソと話しているが武雄に全部聞こえている。
「すみませ〜ん!!説明してもらって良いですかね〜!!」
武雄は苛立ちながら催促する。
「あっ、とごめんなさい。どうして貴方が勇者のちん◯んにならないといけないのかの説明でしたよね」
「はい」
「勇者は気が弱く魔王を倒せる素質がありながらも旅に出ようとしません。そんな時に魔王にちん◯んを生やす呪いをかけられたせいで、ショックで家からさらに出なくなってしまいました」
上司女神は淡々と綺麗な声で説明する。
「なので貴方には勇者のちん◯んとなり、旅に出てもらえるように交渉してほしいのです」
「ちん◯んになっても勇者と意思の疎通は出来るんですね」
「はい、貴方には勇者のスキルが少し使えるのと『念話』という脳内に直接会話するスキルと『解析』という物や人やモンスターの情報を見るスキル、それとスカート越しでも外が見えるように『透視』という物が透き通って見えるようになるスキルが使えるようになります」
「ちん◯んになる以外は最高だな!!」
人として転生して、そのスキルだったら良かったのにと武雄は歯痒い気持ちになる。
「大体の話は分かりましたが……どうして俺なんですか?」
「……ちょうど貴方が良いタイミングで死んだので、この人に任せようって決めました!」
女神は少し感考えると笑顔で答える。
「おーーーーい!!!そんな適当で決まったのか?!!じゃあ!じゃあ!もしタイミングが違ったらちん◯んなんかに転生しなくて良かったんですか?!」
「はい。あと1個早かったら『剣』でした」
「聞いたことある!!それになりたかった!!」
「それと、あと1個遅かったら『変形する鎧』でした」
「聞いたことないけど、それにもなりたかった!!」
武雄は床を殴りながら悔しがる。
「それではお時間となりましたので、貴方にはちん◯んに転生していたただきます」
「いやだ〜!!ちん◯んに転生するなんて、嫌だ〜〜!!」
「安心してください!見事魔王を倒した暁には、何でも願いを3つ叶えましょう!」
「それでは勇者を!世界を!よろしくお願いします!」
「お前ら絶対に許さないからな!!」
俺の意識がなくなり視界は真っ暗になる。