隠された世界
無駄に大きなテーブルに料理が運ばれてくる。
「お待たせ致しました」
そう言って、対面に少女が座る。
「久しぶりの食事だな、味は...ふむ、中々うまいな」
「レイズ様、いけませんよ、ちゃんと手を合わせて、神様に感謝しないといけませんから」
「あぁ、そうだったか」
「...」
「...」
「って、神が俺じゃないのかな?ん?」
「あら、すみません。魔界にいたときの癖で。」
少女が笑う。
「全く...いつの話をしているんだ、お前は」
「いつでしたでしょうか、10年前?それとも、100年前?ここにいると時間が分からなくなってしまいます。」
「572年前だ。ほんと、お前は性格が180度変わったな。ここに来たばかりの頃が懐かしい」
「ええ、私も、ここに来たばかりの事は覚えていますよ?あの時は本当に驚いて...特に、
『お前の名は《神楽》だ。この俺の従者として、美しく舞うことだ』
などと言われた時など...あの時のレイズ様はそれはそれは...」
「やめろ、思い出させるな」
頭を片手で抑えながら言った。
本当、あの時の俺はどうにかしていた。何故か無理やりここに連れてきて、しかもカッコつけて...
出来るだけ忘れよう。
しかし、神である俺が従者に言われるがままにされているのはいただけないな。ここはひとつ...
「しかし神楽よ、お前もこのようなことがあったではないか。お前が、
『レイズ様、長髪と短髪、どちらが好みなのですか?』
と何気なく聞いた時、俺は短髪だと答えたな?」
「は、はい...」
「その後に現れた時、髪が短くなっていたことを俺は忘れてないぞ」
「...」
...なんか変な空気になってしまった。これは俺のせいなのか?
「...」
「...」
話題を作らねば...
「そ、そうだ、神楽、さっき気になることがあったと言っていたな、何だったのだ?」
「は、はい。実は、ここから観察が十分にできない世界がありまして」
なるほど、神が工作をしているということか。
今まで何回かあったが、俺の担当地域ではここ1000年くらいはなかったな。
「それは、神が、自分の世界を他の神に見られぬように結界を貼っているのだ」
「結界を?何故でしょうか...何か見られてやましいことがあるということですか?」
「まあ、大方はそうだな。」
「そうですか...情報が得られてよかったです」
助けを求めないのか。どうするのかが気になるな...
「どうするつもりなのだ?」
「はい、とりあえずその世界に潜入しようかとおも」
「ダメだ」
「...どうしてでしょうか、レイズ様のお手を煩わせることでもないと思いますが」
「お前...分かっているのか?明らかに破壊神を意識しているのだ。何も対策していないはずがないだろう。確かにお前はただの人間ではない、俺が力を与えた。しかし、お前の力はせいぜい最下級神辺りだ。危険なことこの上ない」
「...レイズ様は、私の事を信用していないのですか?」
「信用しているに決まっているだろう!」
「...」
思わず叫んでしまった。大声を出すなど俺らしくもない。
「だが、確かに経験も必要だ。その世界に行ってもらおう」
「っ!では、」
「しかし」
数秒の静寂を切り裂くように言った。
「俺も行く」
ちなみに、神楽は神になっているので、寿命はありません。