出会い
これは数年、いや、数百年も前の話。
この世界、俺の住んでいる世界は、神界という。いや、住んではいないのか?まあいい
字面からも分かるように、神の住む世界。
つまり、この俺は神なのだ。
一括りに神といっても、する事は神ごとに違う。
地の神、天の神、太陽の神、月の神、更には創造、破壊の神まで、様々な神がいる。
俺はその中の破壊の神として生きている
しかし、億をも超える数の神に、全員が全員役割がある訳ではない。
特に役割のない神もいる。
しかし、そのような神にもしなければいけないことがある。
それは、世界を造ることだ。
といっても、その神たちが一から創る訳ではない。そんなことをしていたら創造の神の面目が潰れてしまう。
創造の神が創った世界を、自分たちの思うように造り上げていくのだ。
もちろん、何億もの世界があったら、荒廃したり、誤った道を歩む世界が出てくる。そのときに破壊の神が動く。その世界を壊して、新しい世界を造るように促すのだ。
しかし、どんな所にも反抗する者はいるものだ。
反抗してくるのはほとんどが下級神。たまに高位の神もいるのだが、それは例外である。
反抗してきた神は、問答無用で世界ごと消している。
一々愚者に構っていると、時間が無くなってしまう。
無情だが、それが現実というものだ。
破壊の神である俺にも、もちろん世界はある。
自分で自分の世界を壊すことにならないよう、争いのない平和な世界を造ろうとしていた。
しかし、人間という生き物を作った結果は、人間同士の争いの繰り返しである。
悲しいことかな、このままではこの世界が荒廃してしまう。
そう思った俺は、人間にとっての共通の敵を作ろうという考えに至った。
それが魔族である。
人間にとって分かりやすいように、角や翼、尾など、人間とは違う特徴をつけた。
そして、人間よりも遥かに強靭にした。
だが、その応報か、人間が絶滅してしまったのだ。
この世界もこれまでかと、その時の俺は思っていた。
しかし、違った。
争いが無くなったのだ。
人間が絶滅した瞬間に、ピタリと無くなった。
あの時の俺は、固定観念に囚われていたのだ。
別に世界を支配するのは人間じゃなくてもいい。平和ならいいのだ。
今の俺はそう考えている。
今となっては魔族が我が子のようにかわいく見える。
そんな事を考えながら、魔界を覗いた。
魔界とは、俺の世界のことだ。魔族しかいないからな。
「...ん?」
思わず声を出してしまった。
俺がこの魔界に顕現する時、最初に行く、祭壇がある。
そこに何かがいるのだ。
神官でもなさそうだ。
まず、しばらく顕現する予定はないはずなのだが...
よく見ると、その何かは少女のようだな。
黒い髪、衣服は俺が好きな黒、そして...あれは翼なのか?
翼にしてはあまりにも異質すぎる。もはや翼というより、背中から突起が出ていると言った方が早そうだ。
手に持っているのは...ナイフ?
あんなもので何をするつもりだ?
両手で持って...顔の高さまで上げて...首元に一直線...
「ってバカか!」
思わず叫んでいた。体も動いていた。
一瞬、俺の体が光に包まれると、次の瞬間に、チクリという痒みが手から伝わってきた。
「貴様...何者だ?」
そう聞いた。
視界から光が次第に消えていき、俺の手中にあるナイフが目に入ってきた。
間に合ったようだ。
「っ...」
問いが返ってこない。流石にビビったか?
でも俺もビビったんだ。答えてもらおう。
「何者かと聞いている」
しばらくして、やっと答えた
「わ、私は...」
声が震えている。
「私は、名もなき贄でございます」
贄...生贄ということか?
「贄?どういうことだ」
「...私は、我らが神、レイズ様の贄でございます」
俺の贄だと?何のためにだ?俺はそんなもの望んだことはないぞ?
「俺はそのような物は望んでない、帰れ」
「っ!それでは、貴方様が神、レイズ様なのですか?」
「...」
しまった。自分から正体を明かしてしまった。
こうなったらしょうがないな...
「ああ、そうだ。俺がレイズだ。そうだと分かったら帰れ、そしてお前をここに連れてきたやつに言っておけ、贄など必要ないとな」
思わず逸らしていた目を再び少女に向けた。
なるほど、顔は整っている、肌も汚くない、むしろ綺麗だ。まあ神の生贄に汚い物を持ってくるわけがないか。
瞳の色は...紅か。
「...それはできません」
おっと、観察に気を取られていた。
それにしても、できない?
「何故だ?」
「生贄になった者は、帰ってはいけないのです。この神聖な場所から地上へと戻ると、神の品位が落ちてしまうということです」
勝手に俺の品位を落としてくれるなよ。てか、この場所も適当に作ったわけだから、神聖もクソもないんだが...
「そうか...ならばどうするのだ?俺はお前の命などいらんぞ」
「...」
ノープランか。
しかし、このままこいつが餓え死ぬのも見たくはない。
...仕方ないか。
「ついてこい。」
「...え?」
「この俺についてこいと言っているのだ、2度も言わせるな」
「しかし、贄である私風情がそのような...」
ええい、面倒くさいやつめ。こうなったら無理やりだ。
「来い」
「えっ、レイズさ、きゃっ!」
枝のように細い腕を掴み、転移のための光の柱に連れこんだ。
...誰も見てなくてよかった。他の神に見られたら笑われていた所だ。特に創造神、あいつだけには見られたくない。
そんなことを考えながら、再び神界に戻っていった。
...
またこの何もない神界に戻ってきた。
しかし、俺の腕の中には何かがあった。
そして、この俺の心にも。