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プロローグ4

「う……」

「ここは……?」

「嗅いだことのない匂いがしやすね……」


 目が覚めるとそこは見慣れない天井だった。日本は木造建築を採用しているので、天井は不規則な木目が殆どなのだが、今見ている天井はそうではない。均一に継ぎ目の入った長方形型の板……鉄製かな? それに見たこともない照明器具が埋め込まれている。

 左右を見てみると、わたしを挟み込む形で右膳さんと道さんが布団に寝ていた。


「寝心地はどうだい? ベットではなくて布団を用意させてもらったよ」

「「「!?」」」


 突如男性の声が聞こえてわたし達は飛び起きる。

 その男性の見た目は長身で少し細身な体系に、日本人とはまるで違う顔立ちでかなりの美形……歌舞伎の女形も出来そうね。更には川のせせらぎのような美しい声と三拍子揃った男性だ。

 と、ここまでである推測が浮かんだ。『奴』との戦いで意識を失い、その後は奏虎さん達だけで戦ったのだろうけど、到底『奴』には勝てるとは思えない。部屋の中は見たことのないものだらけだし、さらに目の前にいる人は日本人には見えない。となると……


「ここは、あの世ですか……?」

「いいや。まぎれもない現実だよ」

「日本……ってわけじゃないよな? アタイらはどこにいるんだ?」

「ここは君達の居た世界ではない。違う星さ」

「って事は……あっしらの居た日本は……」

「ああ……消滅した」


 ある程度は予測していた為、わたしの中の衝撃は少なかったが、改めてその事実を言われると精神的に来るものがある。そうか……やはり守れなかったのね……


「それにしてもアンタ、随分とはっきり言うな?」

「君は話を濁されたり、遠回しで話されるのは好きじゃないだろう右膳?」

「な、なんでアタイの名前を知っているんだい?」

「それも含めて君達には色々と話すことがある。まずは自己紹介からだね。僕の名前はメタスターシ・アルダポース。君達にわかりやすく言うと異星人だ」

「異星人……正直ピンときやせんが、『奴』と対峙した後じゃ納得せざる得あせんねぇ」

「ええっと……わたしの名前は……」

「君は沖田総子、新選組一番隊隊長。君は丹下右膳、的矢の用心棒。君は座頭道、ヤクザ……だよね?」

「「「!?」」」


 右膳さんの時もそうだったが、何故かこのメタスターシさんはわたし達の名前と元役職を言い当てた。一体なぜ? 今初めて出会った初対面のはずなのに……?


「実は君達とは過去にあったことがあるんだ」

「過去に? それは一体いつの話です?」

「3億4634万8500日前だ」

「「「????」」」


 3億……え? わたし達3人はメタスターシさんの言い放った言葉に驚きや困惑を隠せない。ええっと……一年が365日でしょ? たまに366日もあるけど、3億っていうと……?


「アンタ頭逝ってんのか?」

 

 わたしが指で計算をしている最中、右膳さんが平然の言いのけた。す、凄い……! 一切計算も考えるそぶりも見せずに言い放ったわね……!


「ふふふ……その反応は初めてだな」

「あ?」

「君達の事はなんでもわかるよ」

「へっ! すかしてんじゃねぇよ! ならアタイの大好物でも当ててみな!」

「君はその冗談が大好きだったね。大好物と言って大体の者は食べ物を言うが、正解は『悪党をぶん殴ること』だろう?」

「んな!?」


 え!? 嘘!? わたしも右膳さんのその冗談に引っ掛かったのだが、彼は初見で言い当てた!? ぐ、偶然?


「沖田ちゃんは子供って言われるのが大嫌いで、大人になったといわれると喜ぶ。道は体のコリをもみほぐすのが得意だったよね?」


 次々と当てられていくわたし達の特徴に驚きを隠せない。なんでこうもピタリと当てられるの!?


「驚くのも無理はない。けどまだ驚いてもらうよ? 僕は地球外から来た者で、何度も何度も時間を遡って『奴』と戦っているんだ」

「何度も過去を遡って……?」

「具体的には何かいなんです?」

「9万4890回だ」

「「「きゅ!?」」」


 その途方もない数字を聞いて更に驚きを隠せない。9万って! なんて途方もない数字! っていうかちょっと待って!


「一体どうやって過去に戻っているんですか!?」

「僕はテレポートの能力者でね」

「「「てれぽーと?」」」

「ああ、君達に合わせて言うと『瞬間移動の異能使い』さ」


 瞬間移動の異能……それって一体どんな……?


「実演して見せよう」


 そう言い終えると同時にメタスターシさんの体が一瞬にして消え去り、元居た場所の遥か後方に出現した。さらに驚くべきことに、わたし達は動いていないはずなのに、寝ている位置が三人バラバラに入れ替わっている。さっきまでわたしは真ん中に寝ていたのに、いつの間にか一番左になっている!?


「これが瞬間移動の異能さ。自身の移動や他社の移動、さらには物体や攻撃、匂い、空気、音に至るまでなんでも瞬間移動できる。僕はこの異能を使って過去に戻っているんだよ。そして星々を渡り、その星の戦士達に協力を仰いで共に『奴』と戦って貰うんだ。そして負けてしまった時はまた過去へと遡り、違う星へ渡ってまた協力を仰ぎ……この繰り返しさ」


 こう目の前で実際に行われては納得をせざるを得ない。メタスターシさんの言っていることは紛れもない事実なのね。ということは……


「本当にわたし達はあなたと会っているのですね?」

「ああ。それもタイムテレポートの第一回目の時にね」


 と、ここでわたしを含め、右膳さんと道さんも大きなため息を一つ付いた。正直まだ混乱しているけど、気持ちの整理をする。今の話を聞くに、このメタスターシさんは何度も何度も『奴』に挑み、そして負けると過去へと戻って違う星へと行くんでしょ? って事は……


「わたし達は9万4890回『奴』に負けたってことですね……」

「ああ。まぁ『奴』からすれば一回だけどね。そう解釈してもらって構わない」

「ちくしょう!」


 右膳さんは右拳を握りしめ地面に思い切り叩きつける。乾いた衝撃音と、微かな振動が部屋を駆け抜け、虚無感がわたし達を駆け抜ける。


 一矢報いることができた。


 心が和らいだけど、実際のところではわたし達の剣技は『奴』に通じず、全ては奏虎さん達の功績だった。


「悔しい……」

「ああ……アタイもだ。自分の剣技が通用しない相手なんて初めてだったし、負けたのも初めてだ……」

「おまけに死に損ねて生き恥を晒しましたねぇ……」


 わたし達三人は歯を食いしばりながらあの時の情景を思い浮かべていた。

 心の底から悔しい。

 『奴』に勝ちたい。

 何としてでも『奴』に一矢……いや! 『奴』を斬りたい!


 その時だった。

 わたし、右膳さん、道さんの体が発光し始めたのだ。その光は仏の後光のような明るく眩いものではなく、薄暗い少し靄の掛かったような光……。体は熱く、まるで体中が燃えているような感覚。


「な、何……!? 体が熱い……!」

「何が起きてるんってんだい……!?」

「だが……不思議と力が湧いてくるような……!?」

「ま、まさか……異能が発現するのか……? そう言えばこの世界はアンティズメンノが能力開花の能力を広域化させている世界……」


 メタスターシさんは口元に手を当てながら何かを独り言を言っているけど、わたし達の身に一体何が起きているの……?


「落ち着いて聞いてくれ。君達は今、異能者になろうとしている」

「い、異能!?」

「アタイ達異能持ちになるのかい!?」

「そりゃ……ぶったまげた」

「詳しい説明は省くけど、君達の光を見るに強力な異能者になろうとしている。『奴』を倒したいのなら僕の言う通りにするんだ」

「ど、どうすれば!?」

「今君達は何かしらの強い想いを抱いているだろう。それをもっと具体的に、強く思うんだ」


 今思っていることを……具体的に、強く……? わ、わたしは……


「ア、アタイは……『奴』をぶっ殺す……いや、違う! この身でみんなを守れるようになりたい!」

「あっしは……あっしから光を奪った『奴』から光を奪いたい!」

「わたしは……組のみんなや散っていった同志たちの無念と苦しみを……『奴』に味合わせたい!」


 メタスターシさんに言われた通り、わたし達はそれぞれ抱いた気持ちを口にして、今思っているを感情を強く想う。


 それからどれくらい経っただろうか?


 暫く……いや、小半刻は経ったかな? わたし達の体から発せられる光は次第に勢いを無くし、ついには完全に消え去った。わたし達は息を切らしながら、落ち着くように深呼吸を繰り返した。


「お疲れ様。大丈夫かい?」


 メタスターシさんはわたし達に近寄りながら顔拭き布を手渡してくれた。それを受け取り、体中から出た汗を拭きとりながら、わたし達はメタスターシさんに質問を開始する。


「これでわたし達……異能持ちになったんですか?」

「ああ。そのはずだよ」

「何というか……実感がわかないというか……」

「流れに身を任せてしまいやしたが、異能持ちとはなんとも……」

「そうだね。以前会った時の君達は自分の武に絶対的な自信があったし、異能持ちなんてご免被ると言って拒んだからね」


 以前のわたし達は異能を拒んだのか……。確かに『奴』と戦う前までは自分の武に誇りと自信を持っていたから通用しないなんて思ってもみなかった。それ以前に異能だなんて、そんな呪いみたいなものに頼るなんて武人として抵抗がある。でも……


「『奴』との間にあるこの埋めようにもない壁を超えるには……これしかないのよね」


 直に戦って剣を交えたからこそわかるけど、『奴』の強さは異常だった。わたし達人間がどうあがいても埋めようのない差……その差を埋めるのは『奴』と同じく異能を身につけるしかない。


「さて行こうか」

「え? どこへですか?」

「自分にどんな異能が身についたか知りたくはないか?」






「ここならいいだろう」

「広ぇ! なんだここは!」

「音が随分と反響しやすね」

「すっごーい!」


 メタスターシさんに連れられてきたのはとても大きい空間の部屋……というよりは倉庫と言った方が近いかな? 奥行きはざっとみて400坪はあるかな? 天井も大きい……奈良の大仏なら普通に入りそうな高さね。


「さて始めようか」


 メタスターシさんはゆっくりと歩みを進め、わたし達から距離を置いた。そして馬五頭分くらいの間をあけ、わたし達に向かい合うように振り返った。


「ええっと……何をしたらいいんですか?」

「一人ずつ僕に向かって攻撃を仕掛けてきてくれ。それもさっき能力を授かる時に抱いた気持ちを抱きながらね」

「それはいいが、アンタの身の心配は?」

「僕の事なら気にしなくていい。僕の周りにテレポートの……転移の幕を張っているから、どんな攻撃も僕には届かないようにしているよ」


 大概この人も人外だ……。でもそれを聞いて安心した。


「それじゃ……思いっきり行きますよ?」

「いいよ。じゃあまずは右膳。君からだ」


 メタスターシさんは右手を前に出して、攻撃を催促してきた。


「それじゃ行くよ!」

「ああ。どこからでもかかって来るといい」


 右膳さんは鞘を口で咥え、柄を右手で握りしめると、勢いよく抜刀した。そしてペッ! と鞘を地べたに吐き捨てると、眼前に日本刀を構えた。そして右膳さんは攻撃を……


「あれ?」


 右膳さんは構えた状態からピクリとも動こうとしなかった。一体どうしたのかしら?


「右膳さん? 大丈夫ですかい?」

「か、体が動かねぇんだよ!」

「え? それってどういうこと?」

「石みたいに硬まって身動きが取れないんだ!」

「「え?」」


 右膳さんの言葉にわたしと道さんは首を傾げた。体が石みたいに固まって動かない? ますます意味が分からない。


「右膳? 君はこの身でみんなを守れるようになりたいと言っていたね?」

「あ、ああ」

「だとすると……」


 何かに気が付いたメタスターシさんは手を広げ、転移によって何かを呼び出した。あれは……?


「これは君達の国のとは形状が違うけど、銃という兵器だ」


 銃……わたし達の国にもあったけど、わたしの知っている形状とはまるで違う。わたしの国の銃は火縄銃と言われており、単発式のもっと長い形状をしている。けど今メタスターシさんが持っているのは短く、回転式のようにも見える。というかなんで今それを取り出したんだろう?

 そう思った矢先、メタスターシさんは銃口を右膳さんに向け始めた。


「ちょ、ちょっと!? 何してるんですか!?」

「試すんだ」

「じゅ、銃を人に向けんな! ていうか試すっていきなりすぎるだろ!?」

「右膳。僕は君の覚悟を信じる。本当に心の底からみんなを守りたいと思っているのならね。それとも君の覚悟はその程度なのかい?」

「ほほう……言ってくれるねぇ」


 真剣なまなざしで言い放つメタスターシさんに当てられてか、右膳さんは笑みを零しながら睨みつける。


「いいぜ! 来な!」

「良いんですか右膳さん!?」

「いくらあんたでもそりゃ……」

「良いんだ。アイツの言う通り、これくらいでどうにかなっちまうんなら到底『奴』となんか戦えねぇ」

「ふふふ。それでこそ右膳だ。……僕が惚れた時もそんな漢気に魅せられて……」

「あ? なんか言ったか?」

「なんでもない。行くぞ!」


 流石に顔や胴体などは狙わずに、太ももを掠めるように照準したメタスターシさんは、銃の引き金を引いて発砲した。パンッ! という乾いた炸裂音が部屋中に響き渡り、弾丸が右膳さん目掛けて飛び出した。そして……


「っ!! ……ってあれ? 痛くねぇ!」


 太ももに当たった弾丸は鈍い音を立てながらぺしゃんこになって地面へと落下した。その場にいた全員が目を丸くしていたが、当の本人が一番困惑していた。


「え!? 弾をはじいた!?」

「こいつぁ……まるで鉄板か何か、硬ぇものに当たったみたいな音ですねぇ」

「すげぇ! これが異能の力か!」


 右膳さんは子供のように目を輝かせて、隠そうともせずに喜びの声を上げた。これって……


「体が鋼鉄のように硬くなる異能?」

「そのようだね」


 右膳さんの体が硬直したのは、全身が鋼鉄のように硬くなったからか……。それにしても、鉄砲すら弾き返す硬度になれるなんて……


「これが異能……!」


 先程までの考えが一気に吹き飛んでしまった。異能持ちになることには正直抵抗があったけど、かなり強力な力を得られる! これなら『奴』にも対抗できるかもしれない!


「君はまだ能力が開花したばかりで能力の調節が出来ていない。だから身動き一つとれないんだろうね。でも徐々に慣れてくれば……」

「硬質化したまま自在に動けるようになるってことか!」


 メタスターシさんは静かに頷いた。右膳さんは体を鋼のように硬くしたけど、関節までもが硬くなってしまい、体を動かせないでいる。けどメタスターシさんの言っていることが本当ならば、右膳さんは体を硬質化した状態で戦闘できることになる。怪力に防御も出来るなんて、鬼に金棒ね!


「おもしれぇですね……。次はあっしがやっていいですかい?」

「次は道か。珍しいね。良いよ」


 メタスターシさんの言う通りだった。どちらかと言えば積極的ではなく、三歩下がってついてくる性格の道さんが自分から行動を起こすなんて……。というかメタスターシさん、やはりわたし達の性格を熟知しているわね。

 道さんは杖で前方に障害物が無いか確認しながらゆっくりと前に出た後、杖を逆手に持ち替え、構えをとった。


「いきやすよ……」

「ああ。むっ!」

「「!?」」


 次の瞬間、道さんから黒い何かが飛び出してわたし達を飲み込んだ。一瞬の出来事でよく見えなかったけど、その黒い何かは全方位……半球とでもいうべきかな? とにかく一瞬にして目の前が真っ暗になった。それにしても……


「暗ぇ……何にも見えないな」

「凄い……黒より黒いわ……」


 折り紙の黒なんかよりも真っ暗ね……。まるで分厚いうどん生地を目に押し付けられ、その上からさらに鉄板をかぶせられたかのように、光というものが一切ない空間になってしまった。


「黒煙……ってわけじゃなさそう」

「だな。おーい道ちゃん! 聞こえっか!」

「ええ。聞こえまっせ。どうかしやしたか?」

「どうもこうも……そうか、道ちゃんはわかんねぇのか。今アタイら目の前が真っ暗になっちまったんだ」

「真っ暗に……」

「道が願った事はなんだい?」

「『奴』をあっしと同じ目暗にしてやろうと思いやしたね」

「成程……だから相手の視界を奪う異能が発動したのか」


 暗闇の中で考察が行われていく。道さんは『奴』に目の光を奪われた方で、その日以降「『奴』をあっしと同じ目暗にしてやる」と口癖のように言っていた。その結果がこの異能か……


「うん。今テレポートして少し離れて効果藩範囲を見たけど、半径25mの半球、ドーム状の空間が闇に飲み込まれていたよ」

「メートル?」

「ああ、君達の国でいう距離の事さ。大体65尺」

「そんな範囲が……へへへ! この空間にいれば、あっしは無敵だ」


 道さんの嬉しそうな声が少し先から聞こえてくる。道さんが最も得意とするのは按摩でも居合術でもない。それは暗闇での戦闘だ。お互い視界の効かない空間では道さんの右に出る者はいない。そうこうしているうちに、闇が晴れていき、元の視界に戻った。


「それじゃ最後は沖田ちゃんだね」

「待ってました! よろしくお願いします!」


 わたしは意気揚々とメタスターシさんと対峙し、菊一文字を抜刀し、眼前に構え戦闘態勢に入る。


「ふむ……幼ながらも大人顔負けの闘気だ。流石天才剣士だよ」

「えへへ! ありがとうございます!」


 褒められたところでわたしは再び気を引き締め直して強く想い始める。

 わたしは……『奴』に組のみんなや散っていった同志たちの無念と苦しみを味合わせたいと強く想ったから……


「ん? 総子ちゃんの日本刀、なんか靄がかかってねぇか?」

「いや……あっしに言われても見えませんが……変な臭いがしやすね」


 2人に言われて菊一文字を見てみると、確かに刀身が靄かかっているというか……陽炎のように揺らめいている。


「もしかして、熱を持っているかな?」


 わたしは熱の確認の為に菊一文字の刀身に触れようと……


「うっ! ガハッ!」

「!? ど、どうした総子ちゃん!?」


 突如わたしは嘔吐してしまった。急に気分が悪く……


「……え?」


 手にかかった吐瀉物を見て絶句してしまった。だってそれは……


「血じゃないか! 大丈夫かい!?」

「ど、どうして……!」


 体は震え、激しい悪寒が……それにめまいもするし、胃も痛い! 


「沖田ちゃん!」


 メタスターシさんはわたしに手をかざし始めた。直後、わたしの手から菊一文字が消え、部屋の四隅の一角に出現した。わたしは限界を超え、その場に倒れこんでしまう。


「大丈夫か!?」

「あ、ありがとう……少し良くなってきたかも」

「一体何が起きたってんですかい? 沖田さんの菊一文字から嫌なモンが出てやしたが……」

「嫌なモン? それって?」

「何というか……あっしは目は見えやせんが、そういう嫌なモンを感じ取ることが出来るんすよ」


 道さんがそう言うのなら間違いない。道さんは目こそ見えないが、それを補って余りある程他の五感が発達している。耳や鼻……もはや獣と変わらない程に。


「沖田ちゃん? 君は何て願ったんだい?」

「わ、わたしは…………『奴』に組のみんなや散っていった同志たちの無念と苦しみを味合わせたいと思ったわ」

「同じ苦しみを味合わせたい……まさか」


 そう言い残してメタスターシさんは転移の異能でどこかに消えてしまった。取り残されたわたし達は顔を見合わせながら困惑するが、ものの数秒でメタスターシさんが帰ってきた。その手には見たこともない物が握られいる。きっと異国の物ね? そしてわたしの菊一文字にゆっくりと近づき、手にしたものを近づけた。


「サーチ。これは何だ?」

『はいメタスターシ様。これは……申し訳ありません。不明です』

「不明? わからないのかい?」

『はい。浸食速度、症状、どれもこの地球上の物とは思えない程の毒です』

「「「毒!?」」」


 メタスターシさんの手にした物から聞こえてきた、無機質な女性の声。それも驚いたけど、その発言が一番驚いた! ど、毒ですって!? 


「成程ね。『奴』に苦しみを与えたい……けど、人外の『奴』には生半可な毒では通用しないから、未知の毒を生み出す異能を得たのか」


 その解説を聞いて納得した。『奴』を苦しめたいというのは簡単だけど、あの神のごとき力を持つ『奴』を苦しめるとなると並大抵の毒では無理だ。となると、今までにない毒を生み出すしかない。その結果がこの異能か……


「すげぇぜ総子ちゃん! とんでもない毒だな!」

「ごほっ! でも自分でも毒喰らっちゃってるけど……」

「でも能力を発動するたびに体調が悪くなっちまう病弱剣士になっちまいやしたねぇ」

「それはまだ発動したばかりだからじゃないかな? 慣れれば放出の範囲を……毒の効果や種類も思いのままになるんじゃないかな?」


 しかし改めて見ると、わたし達の異能はそれぞれの個性に合ったものね。

 攻撃力が売りの右膳さんは、全身を鋼のように硬くすることが出来て、攻守ともに鉄壁となった。

 居合切りの達人の道さんは、自身を中心に広範囲を視界零の暗闇に変え、範囲内では無敵となった。

 そしてわたしは、機動力はあっても一撃に劣っていたが、この毒のおかげでそれが解決された。


「これなら……『奴』も倒せるんじゃないのか?」

「この異能があれば……違う結果になりやしょう」

「そうね! 今度こそ目にもの見せてやるわ!」


 わたし達三人は拳を握りしめ、確信にも似た気持ちを湧き立たせていた。そんな中、メタスターシさんがゆっくりと口を開き、話し始める。


「そうだね。君達は異能を得た。それも飛び切り強力な異能を……。これに君達の剣技が加われば違う結果があるかもしれないね」


 メタスターシさんは言葉を続ける。


「そしてこの研究所……正確にはグラントライフという男の自宅なんだけどね。mark94890『テレポーター』という装置がある」

「てれぽーたー? それは一体何ですか?」

「行きたい場所、会いたい人物。それらを思い浮かべると、その思い浮かべた場所へと行ける『穴』を作り出す装置さ。ちなみに過去へも行ける」


 思い浮かべた場所や人物に会える? それに過去も行けるの? もう何も驚かないと思っていたけど、やはり異世界というだけあって驚きに際限がない。


「この世界の住人である奏虎君達……君達を助けた異能使いが日本にいけたのもその装置のおかげなんだ」

「成程……あの小僧たちはそうやってアタイ達のところに来たってわけか」

「相当お強い方達でしたねぇ……まだお礼も言えてないですよ」

「今こうしていられるのはあの人達のおかげですものね」


 命の恩人としてしっかりとお礼が言いたい。あの時はああ言ってはいたけど、こうして再び『奴』と戦える機会をくれたことに心から感謝を述べたい。


「残念だけど、彼らはついさっき旅に出てしまったよ」

「そうですか……それは残念ね」

「まぁしゃあねぇ! アタイらだけでも再戦だ!」

「ええ。……ですが、欲を言えば一緒に戦って欲しかったですねぇ」

「そうね……『奴』に一矢報いることができたのはあの人達のおかげですものね」


 奏虎さん達の異能はどれも強力だった。衝撃波に竜巻、金属を操る異能……わたし達よりも異能の質は高いかも。そんな奏虎さん達が今のわたし達と一緒に戦ってくれたら……なんて考えると、少し……いや、かなり残念だ。


「ああ。奏虎君達の力が加われば百人力だろう。だけど、彼らはこの世界の真王と呼ばれる者を倒すべく、中心宮を目指して、仲間を集めながら旅をしているんだ。そして彼らは僕と約束してくれた。真王を倒した暁には、『奴』を……エイリニー・イシロテロを倒すと」

「「「エイリニー・イシロテロ?」」」


 エイリニー・イシロテロ……恐らく『奴』の本名だろう。


「そうですか……奏虎さん達も『奴』を倒すべく旅をして、仲間を集めているんですね?」

「そうだ」

「なら今アタイらだけで行くよりか、少し待って小僧たちを待った方がいいかな?」

「なんだったら旅に同行してお力添えをした方がいいんじゃないですかねぇ」


 右膳さんの意見も道さんの意見も一理あるわね。先程も言ったけど、わたし達三人で挑むより勝率が上がるし、奏虎さん達の最終目標が同じならば、ここで待っているよりも旅に同行した方がいいかも。

 そんなわたし達にメタスターシさんはゆっくりと手を上げて意見を述べ始めた。


「奏虎君達を追うのも良い案だが、一つ僕の提案を聞いてくれないか?」

「提案? なんですか?」

「乗るか乗るまいかは君達次第だけど……」


 メタスターシさんは言葉を続ける。


「過去に戻って仲間集めをしないかい?」


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