プロローグ2
「大丈夫ですか!?」
「あなた達は一体……?」
「どっから現れたんだ……?」
「何もない空間から現れやしたね……」
気配を感じ取る感覚が獣並みの道さんが言うのだから間違いない。どんなに上手く気配を消しても道さんはそれを察知するというのに……もしかして『奴』の仲間か? 姿はわたし達と同じ人間のように見えるけど、着ている服装はわたし達とは違う。異国の服かな? わたし達3人は剣先を向け戦闘態勢に入る。
「落ち着いてください! 僕らは皆さんの味方です!」
3人組の1人が両手を上げながら話しかけてくる。薄い茶色がかった髪色に、細い体。この人体鍛えてるのかしら? 明らかに戦闘経験がなさそうな人ね。琵琶や琴をやってそう。顔はわたし達日本人とは少し違って鼻筋が通り、凛々しい顔つきをしている。
「せやで! ワイらはあんたらを助けに来たんや!」
3人組の中で唯一の女の子が笑みを浮かべながらそれに続く。おかっぱに似た髪型に小柄な体系。わたしも人の事は言えないけど、女の魅力が少しないわね。特に胸。笑顔がとても素敵な女の子で八重歯が見えた。
「逃げるぞ!」
そして最後の男が力強く叫ぶ。空手家が巻くような布が巻かれており、この中で最も強そうな雰囲気と体つきをしている。髪は短く、精悍な顔つき。わたし達と同じ武人の匂いがする。
それにしても今彼は何て言ったのかしら? 逃げる?
「助けは無用よ! わたし達が『奴』を倒すんだから!」
「そうだぜ! 命に代えても倒すんだ!」
「どのみち生きて帰ろうなんて思ってやせんよ……あっしらに生き恥晒せと?」
もしかしたらさっきの龍の攻撃の正体はこの人達なのかもしれない。わたし達を助けようとしてくれた行為かもしれないけど、それはお世話だ。命を懸けて闘う覚悟をしているわたし達にとっては!
「うるせぇ! 何はともあれ助けた事への感謝の言葉はないんか!」
女の子がわたし達を指さしながら怒鳴りつけてくる。この子恩着せがましいわね!
「助けを望んだ覚えはない!」
「どっちにしろあっしらは勝っても死ぬつもりでしたからねぇ……この世に未練なんざ……」
その言葉を発した瞬間、武人っぽい男が道さんの頬を平手打ちした。急な事で叩かれた道さん本人やわたし達、そして相手方の2人も驚きの表情を浮かべる。そんな中。叩いた男はわたし達に怒鳴り始めた。
「バカ野郎! あんたらの都合なんざしるか! 生き恥ってのはあんた達にとって死を意味するのかもしれないが、助けられるはずの人間を見捨てて死なせるのは俺にとっての死なんだよ! 死んだらそれで終わりなんだぞ!? 生きてれば生き恥を晒すかもしれないが、それ以上に幸福な事やチャラに出来る機会があるさ! 生きろ!」
その言葉を聞いてわたし達は黙ってしまう。価値観の違いだろうけど、生き恥を晒してでも生きろだとか、そんな事言われたのは初めての経験……。
わたし達、ずっと死んだ者達への弔いの為に闘おうとしていた。助けられた命をなげうってでも恩義を果たそうとしていた。
わたしを庇って死んでいった近藤局長や土方副局長はなぜわたし生かしたのか?
わたしに生きて、生き延びて欲しいから?
でも……
「……わたしだけ生き残っていいのかしら……新選組の人達が名誉ある死を迎えたのに、わたしだけ生きていいのかな……」
「何言ってるんですか! 死を美徳化しないでください! 残されたものの気持ちにもなってくださいよ! それに残された者にしかできないこともあるんですよ!」
「残された者にしかできない事……」
残されたものにしかできないこと……
「アタイはもう独りぼっちだ……ここで死んでみんなのところへ行こうとしてたのに……」
「希望を捨てんな! 生き抜いて新しい出会いを探せ! まぁあんたには既にいい出会いの予感があるんやけどな! イッヒッヒ!」
「???」
女の子は丹下さんを諭している。丹下さんの目はわたし同様何かを決意している目だ。
「あっしはメクラですぜ……? 良い未来なんか見れますかねぇ……」
「なら俺がお前の目になってやるよ! 色んなモン見せてやるぜ!」
「へへへ! そりゃ何とも刺激的な言葉だ!」
道さんもだ。目からは判断できないが、その表情……雰囲気……どうやらわたし達3人決意は固まったみたいね。
残されたものにしかできないこと……それは……
与えられた命を懸けて『奴』を殺し、一矢報いること。たとえここで死のうとも。
わたしは丹下さんと道さんと顔を見合わせる。どうやら考えは同じようで、頷いてくれた。よし……
「よっしゃ! そうと決まればさっさととんずら決めるで!」
「だね! 『奴』が来る前に急ごう!」
彼らは指をさして方向を指示する。どうしたものかな……どうしたら彼らを騙せる? 見たところ彼らは皆甘い性格そうで騙しやすいかもしれない。なら……
「ついて来てください! あちらに逃げ道が……」
「待ってください!」
「え?」
わたしの言葉に3人は足を止める。ここは変に言葉を紡ぐよりも、単刀直入に訴えた方が疑いなく信じるかもしれない。一か八かだけどやる価値はある。
「早くしないと『奴』が!」
「せめて一矢報いさせてください!」
「そうだ! アタイのこの『濡れ燕』を『奴』に喰らわせたい!」
「あっしもだ。せめて一太刀だけでも」
わたし達は日本刀を握りしめて真っすぐ彼らの目を見つめる。
もしこれで騙せなかったら……その時は彼らを無視して『奴』に攻撃を仕掛けるし、万が一彼らがわたし達力ずくで止めようとするのであれば……斬る。
彼らは複雑な表情を浮かばながら悩み始め、そして間もなく貧弱そうな男の人が頭を掻きむしりながら叫び始めた。
「わかりました! やってやりましょう!」
「でも一発やったらさっさと逃げるで!」
「へ! 別にここで倒しちまってもいいんだろう!」
「そう来なくっちゃ!」
よし! 賭けは成功ね! ってよく見ると彼らは後退する気配がなく、『奴』が吹き飛んだ方を見て構えをとる。
「そう言えばあなた達は戦えるの?」
「そういやそうだな。見たことない服装にヒョロヒョロの体。歳も若い」
「そちらの方は何か武術を心得てそうですね。それに異能使いのようだ」
道さんの言う通り、この中で戦えそうなのは武道家っぽい彼だけで、他の2人はとてもじゃないが戦えそうに見えない。大道芸人でももう少し体つきがいいといいと思うのだけど……
「自己紹介がまだでしたね。僕の名前は奏虎鉄操って言います。金属を操る能力者です」
「ワイの名前は芸笑旋笑! 気持ちの昂りで竜巻を生み出す能力者や! よろしく!」
「俺の名前は武動音破だ! 衝撃波を生み出す能力を持ってるぜ!」
「何やら奇妙な異能をお持ちのようね。でもあの穴から出てきたんだから納得せざるを得ないわね」
もしかしたら彼らは『奴』同様に異能使いなのかもしれないわね。だとしたら戦闘を有利に進められるかもしれないし、案外使えそうかしら? でも彼らに出番はない。わたし達がやってやる! っと、その前にわたしも名乗らなければ。
「わたしの名前は沖田総子! 新選組一番隊隊長やってました! 愛刀は隊長に任命された時に近藤さんと土方さん、それに隊のみんなから送られたこの『菊一文字』よ!」
「アタイの名前は丹下右膳ってんだ! 的屋の用心棒やってたんだが、左腕と左目を『奴』に奪われたんだ。アタイの愛刀『濡れ燕』で同じ目に合わせてやる!」
「あっしの名前は座頭の道って名前です。道って呼んでくだせぇ。ヤクザもんでしたが、『奴』に目を奪われやした。右膳さんと同じく『奴』にもあっしのようにメクラになってもらいやす。愛刀は五右衛門って方からいただいた『斬鉄剣』でさぁ」
わたし達は互いに一礼をした後、スッと『奴』の方を見据える。こい! ここでたたっ斬ってやる!