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プロローグ1

 1603年 江戸幕府誕生


 1639年 日本 鎖国を開始




 1853年 『奴』飛来




 昔々……あるところに日本という国がありました。


 この国は徳川という人が『鎖国』という令を出したので、海外の情報や知り合いなどがいませんでした。


 それが悲劇を起こしてしまったのです。


 その頃、世界では全部の国々が結束し、友好を結び、共に協力してある人物と戦っていたのです。


 その人物は、名前はわかりませんが、皆からは『奴』と呼ばれていました。


 『奴』は地球の者ではありません。『奴』は異星人だったのです。


 体は象のように大きく、腕や足は丸太のように太く、胴は岩のようにたくましく、声は梵鐘のように低く響き、金剛力士のような存在でした。見た目だけでなく、その強さも……


 そして『奴』は世界と戦って勝利し、ただ一つ残った国……『日本』へとやってきたのです。


 『奴』は世界を滅ぼすと徳川に言いましたが、誰一人信じませんでした。ですが、『奴』はそうなるだろうと考えていたので、手土産を持ってきていたのです。それは……


 世界各国、日本以外の国の王達の首でした。


 『奴』の置いて行った首を見て徳川は『奴』の言葉を信じました。

 そして『奴』との戦争が始まったのです。


 『奴』を迎え撃つのは数百年の歴史を持ち、戦うことを職業としてきた日本の戦士である侍達でした。

 徳川の軍に鉄砲隊。新選組やヤクザ、さらにはどこにも属してはいませんが、それらに引けを取らない猛者達。日本中が一丸となって『奴』を討つべく立ち上がりました。


 誰しもが勝利を確信していました。


 しかし……


 『奴』は異能を使う化け物でした。


 まずは日本の自然。


 上空は紫色の厚い雲に覆われ、満開の桜は薄ピンクの葉から漆黒の葉へと変わり、春だというのに夏の気温へと変わりました。雨も降っていないのに梅雨のようなじめじめとした湿度や、家屋も自重を支えられずに自然倒壊し、日本は四季も何もかもが滅茶苦茶にされてしまいました。


 次に侍達の攻撃。


 侍達の刀は木の枝に変わり、鉄砲の弾は泥団子に変わり、弓矢は曼殊沙華へと変化しました。

 侍達の日頃鍛えた武術は『奴』の異能と力の前では無意味なものだったのです。


 多くの侍は力尽き、生き残った侍達も戦意も失い、体の一部を失い、もはや戦う意欲さえなくなってしまいました。


 そんな侍を前に『奴』はこんなことを言い出しました。


 「3日待ってやる。3日経ったら再びやってくる。それまで最後の時間を過ごすがいい」と……


 そう言い残し『奴』は消えてしまいました。


 残された日本の人々は勝ち目がないと悟り、城を墓場として潔く切腹をして死んでしまいました。それを皮切りに、多くの武士や人々は主君を追って自害をしていきました。


 しかし……中には最後まで戦い抜こうという侍達がいました。


 一人目は新選組一番隊隊長。沖田総子(おきたそうこ)

 彼女は新選組唯一の生き残りの侍で、まだ幼いながらも剣術の天才でした。


 二人目は用心棒の猛者。丹下右膳(たんげうぜん)

 彼女は的矢の用心棒で、男勝りの性格に、その腕力で相手を一撃で葬ることができる女性です。

 

 三人目はヤクザの座頭道(ざとうみち)

 彼女は無楽流逆手居合術の達人で、その逆手居合の速度は目の瞬きよりも速いと言われています。


 この三人にはそれぞれ『奴』に因縁がありました。


 沖田総子は死んでいった新選組の人達と、自分を庇って死んでいった局長と副局長の無念を晴らすため。

 丹下右膳は殺された的矢の人々の敵討ちと、自らの左目と左腕を無くされた『奴』への復讐の為。

 座頭道は視力を奪われ、光を失った怒りを『奴』にぶつけ、同じ目にしてやろうという為。


 他にも何としても一矢報いてやろうという武士や侍、総勢100名が決死の覚悟で準備し、三日後の『奴』を待ちました。


 その前夜。最後の晩餐の際の出来事でした。


 男達は沖田総子、丹下右膳、座頭道の食べ物や飲み物に熊も意識を失う強力な睡眠薬を混ぜました。

 女・子供と共に戦場に行くことや、女・子供の力を借りるなどということが、男達には耐えられなかったのです。 

 睡魔に襲われた三人は次第に朦朧とし、ついに意識を失ってしまいました。


 

 次の日の朝、目が覚めると周りには誰もいませんでした。 

 それと同時に城下で鳴り響く爆音。

 彼女たちは前日の薬のせいでまだ上手く体が動かせませんでしたが、急いで城下へと向かいました。

 

 そして城下へと着いた3人の前に広がっていた光景は……


 骨だけとなった武士……

 日本刀を握りしめた手首より上の無い手……

 まだ死んだことに気が付かずに歩き続ける下半身……

 血の海と屍の広がる地獄の光景でした……


 三人は恐怖など感じていませんでした。

 あるのは自分達に薬を飲ませ、先陣を切って死んでいった侍達と、『奴』への怒り。


 三人は怒りに身を震わせながら、『奴』へと斬りかかり……死んでしまいました。


 終わり。







「これで最後か……この星ももう終わりだな」


 『奴』の重く圧し掛かるような重低音の声が発せらる。右手に掴んでいた同志の頭部を投げ捨て、足元に横たわる死体を避けながら歩き出した。そして数歩歩いたところで立ち止まり、空を見上げた。


「また……お前達と共に暮らしたい……待っていろ……必ず成し遂げる」


 上空は紫色の分厚い雲で覆われていたけど、『奴』の視線が向けられた空はみるみると雲が晴れていき、青空を覗かせた。


「久々の青空……きれい……」


 「きれい」。そう。わたしの言う通りこの日本は美しい国だった。

 わたし達の住むこの日本は春夏秋冬、四つの季節があり、春には桜や花見、夏には祭りや花火、秋には紅葉や食、冬には雪などと言った一年を通して様々な楽しみや良さがあり、自然も美しく、山や海や森なども豊富にある国だ。

 さらには神社やお寺などの歴史的木造建造物に、歌舞伎や浮世絵などの芸術も盛んで、何をとっても文句なしの国だった……


 だけど……今は違う。


 澄み渡った青空は消え失せて、どす黒い雲が上空を覆い、今が夏なのか冬なのか……春なのか秋なのかもわからない程気温は変動し、神社の鳥居や木造の家は倒壊。

 日本の良さは全て消え失せ、地獄絵図のような国になってしまった。


「ほう……まだ生き残りがいたか」 


 そう呟くと上空の青空は再び厚い雲に覆われてしまった。そして『奴』は視線をゆっくりと下ろし、辺りを見渡す。近くの茶屋にあった長椅子に歩み寄り、その力士像のような巨体をそこに腰かける。体の力を抜き、目を閉じ、不敵な笑みを浮かべ、無言のまま思考し始め、辺りは静寂に包まれる。数秒後、静かに瞳を開き『奴』はこちらを見つめてきた。

 

「女が3人。それに子供までも……」


 わたしを中心に右膳さんと道さんがゆっくりと鞘から日本とを抜いて『奴』に近づく。


「女だからって舐めねぇ方が良いぜ」

「そうでさぁ。あっしらを舐めっと痛い目見まっせ」

「わたし達は職こそ違えど、みんな武を極めた侍よ」


 その言葉に『奴』は鼻で笑う。舐められてる……というよりは、成程なという雰囲気の笑い方だ。小馬鹿にして申し訳ないなといった感じね。


「それは御見逸れした。ならばなぜ遅刻してきた?」

「それはアンタがさっき殺した連中が勝手にアタイらの食い物に薬を入れたからさ」

「ほう……? それはなぜだ?」

「女のあっしらに戦場に来てほしくなかったんでしょうねぇ……」

「それは優しさか?」

「違うわよ! 戦に女が来るのを嫌ってるだけよ!」


 この国の文化と言うべきかしら……男ってわたし達女を下に見てるのよね。仕事場に女が来ると物が腐るだとか……全くどうかしてる。近藤局長も土方副局長も組のみんなは違ったけど、結局最後はわたしを前線には出してくれなかった。そんなだから……みんなわたしを残して死んでしまった。


「女は戦に来てほしくないか……。気持ちはわからんでもない」

「へっ! アンタもこの国の男共と同じか!」

「その考えは身を滅ぼしまっせ」

「そうよ! この……」


 とここでわたし達は全員言葉を失う。だって……『奴』の瞳から一滴の涙が流れたからだ。


「あなたの体にも……涙ってものがあったのね」

「明王みたいな奴かと思ったけどな」

「こいつは驚きだ」

 

 なぜ『奴』が涙を流したのかはわからない。だがこの男が涙を流すほどの何かがあったのだろう。


「訳ありのようですねぇ」

「…………わかるのか娘よ」

「へへへ……あっしはそう言うのは「目」は鋭いんで」


 半開きの目で『奴』を見る道さん。……ん? 『奴』はなぜかわたしを直視してくる。


「…………何よ」

「……いや。なんでもない」


 そういうと『奴』はゆっくりと立ち上がり、軽く首を回して準備体操に入った。


「お前達を見ていると昔の事を思い出す。だがそれはもう変えることのできない過去の事だ。始めようか侍達よ」


 見開くその眼に当てられ、わたし達は一歩後ろに下がってしまう。気圧されたわけではない。『奴』の異能だ。恐らくは神通力の一種だろうけど、後ろに重力が発生しているというか、とにかく後ろに引っ張られてしまう。


「どれ……この星の連中は戦う前に自分の名前を名乗るのだろう? 聞いてやろう」

「随分と侍の特性を知っているのね。いいわ。まずはわたしからよ!」


 わたしは一歩前に出て口上を述べる。


「わたしの名前は沖田総子! 新選組一番隊隊長! 愛刀の銘は菊一文字!」


 それに続くように次は右膳さんが一歩前にでた。


「アタイの名前は丹下右膳! 元的矢の用心棒! 愛刀の銘は濡れ燕!」


 丹下右膳さんはこの中で一番年上の大人の女性だ。黒い着物に柄はユリの花。足元ははだけ、肩も露出している。大人の色気ね。

 そして彼女は左目に眼帯をしており、左腕の袖は垂れている。それは『奴』に左目と左腕を奪われたからだ。

 右膳さんが口上を言い終えると、次は道さんがゆっくりと一歩前に出る。


「あっしの名前は座頭の道です。ヤクザもんでさぁ。愛刀は……五右衛門さんから頂いた、この仕込みに入った斬鉄剣でさぁ」


 道さんはわたしより年上だけど、まだ成人には至っていない方だ。よれよれで薄汚い和服に、羽織りしており、杖をついている。

 彼女は目こそ開いているが、その眼に光はなく、常に半開きだ。それは『奴』に視力を奪われたから……


「覚えておこう」

「ふん! 心にもない事言って!」

「いや。今まで女が私に挑むなどということはなかったのでな。それに体の一部を失ってなお、しかもその相手にこうして再び挑むなどという精神力に敬意を持つぞ。して……」


 『奴』は一呼吸置いて言葉を続ける。


「一度だけ言うぞ。無駄な抵抗をするな。そうすれば見逃してやる。どこか異星に飛ばして余生を送らせてやろう」


 その言葉にわたし達三人は互いに顔を見合わせた後、再び『奴』を睨みつける。


「それは無理な相談ね!」

「そうか……どうしてもやるというのだな?」

「当り前よ! 死ぬときはあんたも道連れにしてやる!」

「だな! てめぇはアタイが殺す!」

「あっしも落し前つけさせてもらいまっせ」

「いいだろう。女……いや、侍達よ。覚悟はいいな?」

「「「ええ!」」」

 

 わたし達3人は構えをとり、『奴』に突貫する。





 直前。『奴』は真横から謎の攻撃を受けて吹き飛んだ。

 衝撃波……とでも言おうか。日本一大きい鐘である蓮華院誕生寺奥之院の飛龍の鐘……その鐘の音など比較にならない音量に空気の振動。龍の鳴き声かと錯覚する……龍が『奴』を飲み込んだとでもいうのか……?


「はっはぁ! やったぜ!」

「さすが音破(おんは)! やるぅ!」

「へっへっへ! さき越されてもうた!」


 龍の攻撃が来たであろう場所から男の人二人に女の子一人がわたし達に駆け寄ってきた。


 一体何が起きたって言うの!?


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