妖桃奇譚―あやかしとうきたん― 第一章 (声劇用台本 4:2:1/最少人数2:1:1)
声劇用台本(15~20分)
※演者さんの性別は問いませんが、キャラクターの性転換は不可。
【登場人物】
≪人間≫
志弦[しづる]♂18歳。桃花警護隊・二番隊隊長。
16歳で桃花警護隊に所属し、18歳になったばかりの頃に二番隊隊長に
任命された。
冷静沈着で口数が少ないことから、
神経を尖らせるほどの大真面目に思われるが、
時に腑抜けた一面も持ち合わせている。
13歳以前の記憶がない。
仁[じん]♂21歳。桃花警護隊・三番隊隊長。
誰よりも仲間思いな兄貴肌。
おちゃらけ者のムードメーカーで、
表情がころころ変わる分かりやすい性格。
極度の負けず嫌いでプライドは高い方だが、面倒臭い事は苦手。
散歩が趣味。
凛音[りんね]♀20歳。桃花警護隊・総隊長 兼 一番隊隊長。
狐の半妖。その力と技で今の地位を確立させた。
礼儀や仁義を重んじる真面目な性格。
人前では強がっているが、根は普通の女の子。
甘いものが大好きで、家事が得意。実は大食漢。
≪妖怪≫
絲[いと]♀雪女。半妖。見た目10代半ば。
天真爛漫な少女。
過去に何かを抱えている様子。
故[ゆえ]♂かまいたち。見た目50代。
絲の親代わりで、縁の参謀的存在。
縁を恐れながらも慕っている。
縁[えにし]♂大天狗。見た目30後半。
妖怪の長。人間を憎んでいる。
過去に人間と何かあった様子。
妖怪A※故と兼役。
N
--------------
<役表>4:2:1
志弦♂
仁♂
凛音♀
絲♀
故/妖怪A♂
縁♂
N:
--------------
<役表>2:1:1(最少人数)
志弦/故/妖怪A♂
仁/縁♂
凛音/絲♀
N:
=======================================
【零】
志弦:―――夢を見ていた。
???(絲):弦…、いい名前だね!
志弦:―――繰り返し繰り返し、その場面だけが走馬灯のように流れていく。
???(絲):弦!弦!えへへっ。
志弦:―――誰かも分からない。花のような微笑みを俺に向ける娘。
???(絲):弦…、弦…!!嫌ぁあああああ!!
志弦:―――その悲鳴と共に、腹の傷が疼くんだ。夢、なのに…。
志弦:『妖桃奇譚』(タイトルコール)
【壱】
N:これは、とある異世界に住まう人間と妖怪のお話。
人間の住む桃源郷―――桃花街と、妖怪の棲む古の森。
彼らは棲み分けることで「表面上」は平穏と安寧を手にしていた。
…が、一部の妖怪は悪事を企て、人間に害なす存在として、忌み嫌われていた。
そんな輩を制裁する為に、人間は対・妖怪用の兵共を集め、
日々修練に励んでいた。
仁:………る、志弦!おいコラ、起きろ!
志弦:……ん…?あれ…仁…?ここは……。
仁:何寝惚けてんだよ!もう修練の時間だぞ?!
志弦:え…?あ……。
凛音:まさか、今日が大事な日だって事、忘れた訳じゃないでしょうね?
志弦:…いや、覚えてる。
仁:覚えてんなら寝てんなっつーの!
普段から小石にだってつまづいて転びそうなのに、最近寝てる事多いし…、
ちょっと平和ボケしすぎなんじゃねぇのかぁ?!
凛音:そういう仁さんこそ、昨日酔っ払って腹踊りした後、
全裸になろうとしてたじゃない。
仁:あ、えーっと…、ちょーっと記憶が…。
凛音:馬鹿言ってないで、あんたも志弦もさっさと修練場に来る!
志弦:すまない、今行く。
仁:へいへい。
しっかしよぉ、最近、妖怪さん達もめっきり大人しくなったよなぁ。
なんか企んでんのか、ってくれぇに…ふぁ~あっ。
凛音:欠伸、減点一点。
仁:はぁっ?!志弦は何もナシで俺は欠伸一つで減点って…、そりゃねぇだろうよ?!
凛音:あのねぇ、昨日の時点で五点はかたいのに、
酔っぱらってるからって大目に―――
志弦:そこまで。もうすぐ修練場だ。
N:桃花街―――桃花警護隊 中央詰所・修練場。
この日、総勢五十名程の主要隊員達が一堂に集まり、
木刀での鍛錬が執り行われようとしていた。
修練場の三方の隅に正座する隊員達は、誰一人として会話する事も無く、
緊張した面持ちで中央を向いている。
凛音:…皆揃ってるわね。これより、修練を始める!
一同、礼!
まずは…、二番隊隊長・朱桃志弦!三番隊隊長・九十九仁!前へ!!
N:初手での隊長同士の打ち合い。
まさか、といった面持ちの隊員達の間に一層の緊張感が走る。
名を呼ばれた二人は修練場の中央に対峙し、木刀の柄に手をかけた。
凛音:さぁ、準備はいい?―――始め!!
志弦:っ!
仁:ぐっ?!チッ、早速お得意の抜刀術か、よっ!!
志弦:…っ?!
仁:うらっ!!
志弦:ぐ…っ!!
仁:もらいぃいいい!!
志弦:させ、ない…っ!!
N:激しい鍔迫り合いが繰り広げられた。
どちらも譲らぬ緊張感に、隊員達が生唾を飲み込む音が聞こえてくるようだった。
隊員A:流石隊長クラス…。
隊員B:い、何時まで続くんだ…?!
N:どちらが勝っても可笑しくはない戦い。
が、しかし。
志弦は冷静に仁の間合いを突き、仁の右足に己の右足を絡ませ―――
志弦:ふっ!!
仁:っ?!
凛音:それまで!!
N:場内にどよめきが起こった。
仁:痛ってて…。大外刈りって…、お前ちょっとは手加減しろっつーの!
志弦:手加減なんてしていたら修練の意味がない。
元々は二番隊隊長だったんだろう?
俺から取り返す気でかかって来ないと、何時まで経ってもそのままだぞ?
仁:それ今ここで言いますぅ?!
…ったく、容赦ねぇったらありゃしねぇ…。
あーもう、やめだやめ!俺の負けだよ!!
凛音:見事だったわね、志弦。
志弦:ありがとう。
凛音:仁さんは隙が多すぎる。
上段に構えた時、脇が甘かったわよ。
それと、刀が合わさった時の呼吸の乱れが目に見えてあった。
そこを志弦が突いた、とも言えるわね。
仁:…隊員達の前ですんげぇ言われ様。的確すぎてなんも言えねぇ…。
はぁーあ。唯一の女隊長さんにそう言われちゃ仕方ねぇわな。
はいはい、分かりましたよ。気をつけますぅ。
志弦:…仁、その返答だと本当にやる気があるのか疑われてしまうぞ?
仁:あるって!ありますって!じゃなきゃここにいねぇっつーの!!
志弦:分かってる。仁が誰よりも仲間思いなのは、誰もが知ってる事だ。
じゃなきゃ、凛音も俺も仁を認めてない。
仁:おっ、分かってくれてんじゃねーの!
お前こそ2年足らずで俺の地位容易く奪ってくれちゃってよぉー。
ま、若干、若干?!俺が負け越してるってだけだしぃ?!
そのうち返り咲いてやっから、志弦も鍛錬怠んなよな!!
志弦:ああ。そのつもりだ。
凛音:そこまでにしときなさいって。皆見てるわよ。
志弦:あ…、すまない。
仁:はいはい、次行こうぜ!次!
N:その後、凛音の呼び出しに伴い、隊員達の修練が始まったのであった。
【弐】
N:その日の夜―――街外れの飯屋にて。
仁:ふぃー、食ったぁ食ったぁ。
凛音:…仁さん、爪楊枝やめて。親父くさい。
仁:あん?肉が歯に挟まって気持ち悪いんだよ。
志弦:だったら見えないところでやってくれ。
俺達まで行儀が悪いと思われるのは御免だぞ。
仁:志弦、お前まで…。
別にいいじゃねぇか。こんくらい…って、酒きれてんじゃねぇかよ!
志弦:飲み過ぎだ、仁。もうやめといた方がいい。
仁:まだ酔ってねぇっつーの!それよか、お前らもう飲まねぇのかよ?
志弦:俺はもういい。
凛音:私もお腹いっぱい。
仁:あん?お前ら俺の酒が飲めねぇってのか?表出るか?コラ。
志弦:出ない。
凛音:出ません。
仁:またフラれたー!!
N:これが彼らのいつものやり取りだった。
ふと、志弦が格子窓の外に目をやると、今宵は十五夜のような満月だった。
志弦:綺麗な月だな…。
N:刹那、辺りに悲鳴がこだました。
仁:なんだなんだ?!妖怪か?!
N:志弦は咄嗟に外に出て刀を構える。仁、凛音も後に続いた。
凛音:あれは…、獣?
違う!妖怪だわ!!
妖怪A:ヒャハハハハ!!人間、食ウ。俺、強クナル。
強イ人間食ウ、俺、モットモット強クナル!!
仁:低級妖怪か。雑魚がこんな事して、生きて帰れるとでも思ってやがんのか?!
妖怪A:俺、雑魚ジャナイ。俺、頭イイ!!
カカレ!!
仁:来るぞ!!
凛音:―――炎舞・翔狐斬!!
仁:うわっ!!熱っ!!
青い炎…?はっ!凛音か?!
志弦:舞ってる。綺麗だ。
凛音:…片付いたわね。
仁:…相っ変わらずおっかねぇなぁ、その技。
妖怪さん達、なんも言えねぇまま消し炭じゃねぇか。俺達まで焼くなよ?
凛音:私がそんなヘマすると思う?全く…私との付き合い何年目?
仁:まぁ、そうだけどよぉ…。
村人A:ありがとうございます!ありがとうございます!
村人B:見て…化け狐よ…。
村人C:おお…くわばらくわばら…。
凛音:……行きましょ。
志弦:気にする事はない。
凛音:…分かってる。
志弦:凛音が半妖でも、俺達は何とも思わない。寧ろ感謝してる。
凛音が居てくれるから、もっと強くなろうと思える。
仁:そうだぜ?
それに、お前がいなかったら、この街は平和もクソもありゃしねぇんだからよぉ!
凛音:……うん。
仁:複雑そうな顔して頷いてんなよ。
…たまには泣いてもいいんだからな。
凛音:…慣れてるわよ、こんなの。だから、…大丈夫。
仁:強がってんの見え見えなんだっつーの!
一人で背負い込むな。もっと頼れ。俺達はその為にお前の隣にいんだからよ。
凛音:…ありがとう、仁さん。志弦も。
志弦:ああ。
仁:さぁてと、店変えて飲み直そうぜ!!
景気づけにまた俺の腹踊り見せてやっからよぉ!!
志弦:その後全裸になるのだけはやめて欲しいけど、やるなら顔書くの手伝うよ。
仁:なるかよ!!
お、志弦くんいいねぇ~!でもお前、確か…絵心なかったんじゃ…。
志弦:その方が笑えないか?
仁:あっさり認めんなよ!
失礼な!、とか、こう…、なんかあんだろ!
志弦:俺が絵が下手なのは本当の事だろう?
仁:いや、だから、そうじゃなくてだなぁ!!
凛音:…ふ、ふふっ。
はぁっ、もー、あんた達のやり取り見てると、
なにもかもが馬鹿らしくなっちゃった。
仁:お!やっと笑ったじゃねぇか。こりゃあ明日は雨確定だな!
志弦:言えてる。
凛音:…何よ。私が笑っちゃいけないわけ?
二人とも減点するわよ。
志弦:私情を挟んだ減点もどうかと思うけど、
もし減点されたところで俺と仁なら幾らでも取り返せるから、別にいい。
仁:ははっ、言えてらぁ。
凛音:っ、もうっ!!
【参】
N:古の森ーーー最深部にある祠にて、絲と故が水晶玉を覗いていた。
水晶玉に映っていたのは、茶屋で談笑している人間の姿だった。
故:人間とは呑気なもんじゃのぅ。
絲:えー?ボクはそうは思わないかなー。
故:絲、おぬし人間に興味があるのか?
絲:え?あ…、うん。
故:ふむ…。興味を持つ事はいい事と言えるじゃろうが…、相手は人間じゃ。
お主の立場は弁えぬとな。
絲:…うん。
縁:人間なんぞ腐った桃同然よ。
絲:縁様…!
故:これはこれは縁様。
して…腐った桃、とは…?
縁:桃花街などと云う桃源郷に住むは幻か…、あちらこちらで争い、諍いを起こし、
そのようなごみ共なぞ、生かす価値もない。
故:…相も変わらず手厳しいお方よの。じゃが…、縁様は昔―――
縁:殺されたいのか?
故:ひっ!!
絲:え、縁様…?
縁:絲、お前もこのようなもので遊ぶでない。
絲:あっ!
N:縁は水晶玉を絲の手から奪うと壁に叩きつけた。
水晶玉は呆気なく割れ、辺りに飛散した。
故:ワ、ワシの家宝がぁ!!
縁:家宝?馬鹿を申すな。不要なものだから捨てたまでよ。
絲:けど、縁様。要らないものなんてこの世にはない、って母様がーーー
縁:燦か。人間なんぞに現を抜かし、忌み子であるお前をこの世に産み落とした
大うつけの言葉を真に受けるのか?
絲:…っ。
縁:絲。ああ、絲!可哀想な、可愛い子よ…。お前が此処に居られるのは誰のお陰か?
絲:…縁様の、お陰です…。
縁:それが分かっておるのなら良い。
さぁ、今宵は宴よ!故、酒を持って参れ。
故:宴、ですと…?
縁:なぁに、少しばかり面白い事があったまでよ…。お前達が気にすることではない。
ふふふ…、ははははは!
N:祠の中に、縁の笑い声がこだました。
―続く―
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。