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「そんなこと言ったら、波多野さんだって私に隠し事してるじゃん!」
「してない。」
「してるもん!」
「何を?」
とぼける波多野さんに、私は叫ぶように言った。
「ちなみさんと会ってたんでしょ!」
ずっと私の頭の片隅でモヤモヤと住み続けている存在。
聞きたくても口に出すことがはばかられていた存在。
キッと睨むと、波多野さんは口ごもった。
ほら!
ほらほらほら!
木村さんの言ってたことは本当だったんだ。
「…そんなに忘れられないなら私出てくし。」
私に優しくしないで。
勘違いしちゃうじゃん。
波多野さんに愛されてるって。
傷が深くなる前に、自分から去った方がいい。
波多野さんにフラれる前に自分からフッてやるんだから。
「待てよ、なんで花緒が出ていくんだ。」
「だって波多野さんはちなみさんが忘れられないんでしょ!」
元カノの名前を言うだけで胸がズキリと痛む。
こんなに好きなのにこんなに暴言吐いて。
ああ、嫌われちゃうよ。
でも嫌われた方が好都合なのかもしれない。
「待てって、花緒。落ち着けよ。」
「うわーん!」
肩をガシッと掴まれるが、もう私は止まらない。
ずっと抑えていた感情をどうすることもできなくて、私は子供みたいに声を上げて泣いた。
二人でギャーギャー騒いでいると、おもむろにインターホンがなった。
反射的にモニターに視線を向けると、そこには見知らぬ女性が映っている。
「…誰?」
私のつぶやきに、波多野さんははぁと小さくため息をつき、そして言った。
「ちなみ。」
もう私、死ねる。
目の前真っ暗、倒れそうだ。




