初めての街と出会い【2】
目が覚めた時、唖然とした。
「空が赤い……」
空全体に綺麗なオレンジ色が広がっている。脳が、もう夕方だと教えている。そしてすぐに考えは、やってしまった。急がなければ……という焦りに変わる。
基本的に夜は危険だ。昼にも居ないことは無いのだが、夜には恐ろしい魔物が多く出る。一般常識として、このことは誰でも知っている。人間は魔物の被害を最小限に抑えるため、安全な場所に街や村を作り、安全な昼に活動をする。
だけど今の状況、夜に街や村じゃないところに一人でいる。これはもう自殺しに来たのと同じ。
まだ村から1時間のところだ。引き返してからまた明日出発するということも出来る。
だが、その時は焦っていて考えが単純だった。
「早く、リュタロスに行かなきゃ……」
街に早く行かないと行けない。村に引き返すという考えは全くなかった。
走る。走る。今までにないスピードで、ペース配分も考えずひたすら走る。
日が落ちてきて、次第に暗くなっているのを見ると、余計に焦りが生じる。
(まだ、まだ夜にならないで……お願いだから……)
叶わない願いだとは分かっている。夜は当たり前のようにやってくる。
草原に明かりなどなく、暗くなってくる一方だ。
走りたい。走りたいが、足が動かなくなってくる。自分の体力のことを考えずに思い切り走ったからだ。足が震える、体が震える、全体が、心が震える。
背後から横から、正面から死が襲ってくるようにも思えてくる。
呼吸が荒くなる。脳が走れ、走れ、と命令するが体がそれに追いつかない。
つまずいたり、コケたりしながらも走ろうとする。生きるため、必死に足を動かす。
それでも、限界が来てしまう。何回もコケた。もう奇跡的に何も起こらず朝が来ることを祈る。それだけだと思って座りこんだ。
決して泣かなかった。その音で魔物が気づいてはいけないから。涙目にはなったが、絶対に音は立てなかった。
街に行くことを諦めきれない。ゆっくり深呼吸をしながら地を這って前に進んで行った。少しずつ少しずつ前に進んでいった。
その時に初めて希望が見えた。街の光がうっすらとだったがほんのり光って見えた。
絶望で座り込んでいた時に見えた光、すぐにでも見たい。この目でそこに街があることを確認したい。立ち上がってその光を見直した。
……希望が絶望に変わった……
魔物がそこにいた。街ではなく、魔物の光。
街の光だと思っていたその光はその魔物から出る雷の光だと分かった。
バレないように音を殺す。地面にへばりついて魔物が過ぎ去るのを待つ。片目だけ開いて光が弱くなるのを待つのだが、明らかに光が強くなってくる。
心臓の音が聞こえる。周りまで聞こえるくらいの大きな音で心臓が動いている。
(落ち着け……落ち着いてどうするかを考えなければ……)
状況を把握するために先程の魔物の動きを見た。先程の魔物の動きを見るはずだった……
違う色の魔物の光がそこら一帯を照らしていた。白く光っていたため、魔物が何をしているのかは容易に分かった。
赤い液体が口のあたりから垂れている。さっきの雷の魔物は跡形もなくなっており、代わりに狼のような、人間の3倍以上もある魔物がそこに立って、食事をしていた。
その口についている赤い色を舌で拭き取ったあと、その魔物の首がこちらに向いた。
とっさに隠れては見たものの、1度魔物の青い目と目が合ったように思える。
(魔法での攻撃はどうだろうか……位置を教える上、避けられたら喰われる。魔法を打つ前に魔物がこちらに来て喰われてしまうかもしれない。逃げても追いつかれるだろうし……死んだフリは……喰われるな……何かないのか……?)
さまざまな状況を考えたが、どれも喰われる、という結果に終わりそうだ。
(相手をしっかり見なければ……魔法は使えない。逃げようとしても追いつかれる。飛び込んだらそれこそ自殺行為だろう)
「今から死ぬのか……痛いのは嫌だな」
死ぬ覚悟を決めた。どうせこちらに気づいて、今頃向かってきているだろう。思い出した1つの魔法。持ってきたある1冊の本の126ページ目に書かれてある魔法。本来なら相手に使うものなのだろうが……
寝転がり、魔法を使おうとした。
《魔力精製》
どれくらいの魔力がいるのか分からない。今までにない魔力を精製していく。
どうせこの光で居場所はバレている。あの狼が来るギリギリまで魔力を貯め続ける。
グシャ、グシャと足音が聞こえてきた。草を踏みしめている音が聞こえる。
(もうそろそろか)
溜めた魔力を胸に押し当てる。
《無感覚》
寝転がっていても、力がどんどん抜けていっているのが分かる。いや、感覚が無くなっていくだけで力は抜けてないのか。
少し悔しいのが、初めての挑戦で魔法が成功したこと。
(もっと色々練習しておけば、他にも……)
今から狼に喰われるのだ。余計なことを考えるのはやめておこう。
感覚がないといえど、自分が食べられているのを見るのは嫌なので、静かに目を閉じた。
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次回投稿は11月28日です。