少年のこれまで【6】
初めて氷のつぶてが飛んだのが4年前。
セネはカルが旅立った時と同じ歳になっていた。
「セネ、おはよう。今日も頑張ってるねぇ」
「あ、おはようございます。まだ5時ですよ?朝早いんですね」
「昔から早起きは三文の徳って言うからね。いいことがあるんじゃないかって早起きしてるんだよ。セネもいいことがあるといいねぇ」
「じゃあ、ちょっと期待してみますね?それでは!」
朝のランニング。魔法の練習を初めてから体の調子が良くなってきたので、2年前から無理を言ってやらせてもらっている。
実は後ろから父が着いてきているのだが、気づかないフリをしている。
ランニングを初めた最初の頃は5分間走っただけで体力が持っていかれたけれども、今となっては村の周辺、1週は走れるようになっている。
そのため、村の人とコミュニケーションを取れるようになってきた。家は村の端でちょっと遠いところにあるのだけど、村の人は気軽に接してくれる。
同年代の子はいなかったから、友達と呼べるような子は出来なかったけども、親以外の人と触れ合える。そのことがとても嬉しかった。
ランニングを終えて少し休憩。それから朝食を食べて朝の学習。とはいっても、毎日同じ本を同じように読み返すだけだ。みっちりと頭に入っているが、一応、確認のため。
それから魔法の練習をする……のだが……
《氷槍》
ポトポトッ……
4年前と変わらない。氷のつぶてが5メートルほど先まで飛んで落ちる。変わったことといえば、魔力精製が無詠唱でできるようになったこと。ただそれだけ。
進歩は何も無い。ほかの魔法も試して見たけども、何故かどれも成功しない。
母が言うには絶対にできるようになるとのことだが、これでは何年経つか分からない。
それでも魔法の練習を辞めない理由があった。
「……水色か。やっぱりこれ、壊れてるんじゃないか?」
あの透明の石。使える魔法がどうたらこうたらいうあれだ。魔法は何も使えないのに、どんどん光る色が強くなっていく。これがあるために頑張っているようなものだ。……魔法は使えないけども……
母が操作しているのか?色でいえば母と同じ色だし……俺が手をかざす前に光っている……ようにも見えるし、ぴったり半年毎に色が変わっていくし……母を疑う他なかったのだ。
「お母様、お気遣いはありがたいのですが、自分は本当の力を知りたいというか、現実を見たいと言いますか……」
「え……?それって、英雄になる夢を?」
「そうじゃなくて……この石のことなんですけど……」
手に持っているので、当然水色に光っている。
「……凄じゃない。頑張ったわね。今日の晩ご飯は張り切って……」
「お母様、本当のことを言ってください!僕は……僕は才能がないのでしょう?魔法が使えないのでしょう?そうならそうとはっきり言ってください!」
あの時以来、あの夢を追いかけたいと言ったあの時以来、大きな声を出した。母を苦しませてしまう、そんなことは分かっている。気を使って細工をされてあるものを渡してくれた。その優しさも受け止めたい。でも、それでも本当のことを知りたい。叶わない夢なら……叶わない夢なら……
なぜだか涙が流れる。本を取られた時も、夢をあきめろと言われた時も、魔法の練習中も。苦しい時はいつでもあった。それなのに、今、初めて泣いてしまう。
「セネ、よく聞いて。人間である以上、得意不得意はあるわ。セネが今まで一生懸命やってきて、魔法がほんの一部しか使えないから、魔法を使うことはセネにとって不得意なことなのかもしれない。だけど、一生懸命頑張ってきたことは事実で、この石が示していることも事実。細工なんてしてないわ」
そう言って笑う。
「報われない、とは言わせない。なんでも力になる。たとえなんと言われようとも、どんなことをされてしまっても、私たちは必ず味方だから。セネに嘘はつかない。いつまでも応援する。だから、もう少し頑張ってみない?私も一緒にセネの夢を叶えさせて?」
笑っていてくれた。一緒に頑張ろうと言ってくれた。その事が本当に、本当に嬉しかった。一番近くで一番寄り添っていてくれた人を疑った自分が惨めだった。
*****
その日から母は毎日魔法の練習に付き合ってくれた。「私と一緒の色ならば、センスはあるのよ。コツを知ればもう、無双よ無双!!」とは言ってくれるものの、自分にはその実感はなかった。
「持っとこうグワッとバババ!!っと出来ないの?!」
「はい、すみません!!」
「謝る暇があるならもう一度!」
「はい……」
正直に言って、感情と擬音だけで教えてくる為何を言っているのかは分からなかったが、それでも魔法を使えるようになってほしいという気持ちだけは伝わってくるので、絶対にできるようになる、という気持ちだけは前よりも強まった。
そして、なんと1年後……
「昨日は惜しかったわね。コツはもう覚えたかな?こう、グッとやってパパパッとして、ドーンだよ!」
「わ、分かりました……」
右腕を前に出して魔法を使う。
《魔力精製》
じっくりと長時間の魔力精製を行う。試行錯誤の結果より長い時間、精製をすることで魔法の質も上がることがわかった。
いい感じに魔力が溜まってきた。1年前の約3倍といったところか。ここから魔法陣を展開する。
《氷槍》
丁寧に素早く展開する。濃く、強くなるように、全体に魔力を注ぎ込む。
そしていよいよ魔法を使う。
広げていた右手を勢いよくにぎりしめる。魔法を使うときの合図を考えると魔法を効率よく使えると教わった。腕を動かすのは良くないが、手のひらでなにかするのは問題ないらしいので、右手を握ったら魔法を使う。そういうことにした。
魔法陣が光って、先のとがった氷の塊が現れた。
「行けぇぇぇぇ!!!」
思わず声が出てしまう。魔法を練習し始めてから約5年間、初めて魔法が成功しようとしている。
期待通り氷の塊は真っ直ぐに飛ぶ。閃光の如く飛んでいった氷の槍は1秒も満たないうちに50メートル程先の木に刺さっていた。
(やった……初めて、初めて魔法が成功した。夢にまで見た……これで本当の夢への第一歩が踏み出せる……)
今にも泣きそうな涙目で、それでも今は泣いてはいけないと踏ん張った。
「よく頑張ったね。セネは自慢の息子だよ……」
しみじみと言う母に今まで見せた中で1番の笑顔を見せた。
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次回投稿は11月22日です。