少年のこれまで【2】
母、カリス視点です。
セネとカルの母、カリス=デルフィはある夢を見た。
兄カル=デルフィが旅に出る夢。
カルは『ルピスカルス』を読んで、英雄になるという夢を持っていた。そのために毎日父と一緒に鍛えている様子を何度も見てきたし、応援することも出来た。
カルが誕生日を迎え、14歳になった次の日に村を旅立っていった。
旅立って行く様子を眺めるだけで、ただただ不安と心配出会ったが、家に帰って泣きそうになっていたら、弟のセネが「大丈夫。お兄様なら英雄にだってなれます」と言う。
「そうよね。ごめんね、こんな所見せちゃって」
「いえ、僕も気持ちは同じですから。少し寂しくなりますが、英雄となって帰ってきた時は笑顔で迎えましょう」
その日の夜、カリスはとてもいい夢と悪夢を見た。
次の日も、また次の日も悪夢を見続ける。
*****
カリスが気づいた時には、悪夢は正夢となりかけていた。
「……それは何?……」
見たことのある表紙、カルがこの家から出て行った原因となった本をセネが持っていた。
兄カル=デルフィにしか与えていなかった本が。
カリスはその本を奪い取り、震えが止まらなかった。
涙が止まらなかった。
セネも、カルと同じように旅立っていくのかと思うと……
怒ることも出来ず、ただその本を持って部屋をあとにした。
誰にも見られないようにして泣いた。ただひたすらに泣いた。
それからは『ルピスカルス』を隠すようにした。
*****
セネが部屋にこもってしまったことだけ気がかりになっていた。
夫のロコ=デルフィがセネの部屋を少し覗いてくると言ってダイニングテーブルを離れた。
(あの本を読んでいる時のセネの顔、楽しそうだった)
そう思って『ルピスカルス』を隠していた自室に戻って本を取り出そうとする。
「ない……?!」
探しても探しても見当たらない。別の部屋に持って行った覚えはない。
まさかと思って、とある別の部屋に行った。
(……あった……)
セネの部屋に行ったロコの手の中にその本はあった。
*****
「こんな時、英雄ならこう言うと思うぞ。夢は諦めるものでは無い。叶えるものだってね」
父がそう言って母に取られていた『ルピスカルス』を渡してきた。
「……でも、僕は……」
身体が弱い。そのため、外に出たことも無い。力もなく、英雄のように誰かの力になれることも無い。それに……
「これをやるよ」
思い詰めていた僕にくれたのは16冊の分厚い本。
「魔法について書かれた本だ。剣にしか目がなかったカルには見せていなかったがな。身体が弱いセネでもこれなら英雄になれるかもしれないぞ?」
うっすらと輝いた一筋の光。その本を手に取る時、夢をその手で掴むような、そんな感情だった。
「それに、これならそこにある勉強の本に紛れててもバレないしな」
父は笑いながらそう言った。
「ありがとうございます、お父様!ありがとうございます…」
心臓が動く音が聞こえる。ドクドクと、早くなっていく音が聞こえる。
喜びに浸っていると、とても冷たい声が聞こえた。
「その本を渡しなさい。セネには必要ないわ」
母が部屋にいた。本に手を伸ばしてきたが、今回は何かが後押しするように、初めて自分の気持ちを放った。
「お母様……僕は、英雄になりたいです……!勉強だけでなく、『ルピスカルス』のような英雄になりたいです……!」
とても震えた声だった。母が悲しそうにしているのも見えた。
何を言われようが、これが本心だった。
「子供の夢を壊すような親にはなりたくない。セネが初めて自分の言葉でこう言ったんだ。どうかもう少し考えてみてはくれないか?」
横で父が頭を下げた。
その様子を見た母は、無言でその場を立ち去った。
それから3日間コミュニケーションはなく、まるで家族がバラバラになったかのようだった。
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次回投稿は11月10日です。