少年のこれまで【1】
今回から数回、セネ=デルフィの昔の話となります。
セネ=デルフィはもともと体が弱かった。
生まれた時からそのことはしっかりと分かっており、外に出るということは出来ず、ただ家で勉強をさせられる日々が続いた。
とある日、兄であるカル=デルフィがこっそりとセネの部屋に入り、一冊の本を渡した。そして兄は、
「俺は、この物語の主人公みたいになる」
と言って、部屋を出ていった。
その本の題は『ルピスカルス』。この国に伝わる英雄を元に作られた物語だった。
セネはその本の題は知っていた。読むことは勉強には不必要だという理由で、親から禁止されていた。
しかし、セネはその本を父と母に隠れて何度も何度も読み返した。そしていつの日か、セネも英雄みたいになりたいと思っていた。
*****
カル=デルフィが旅立った後日、部屋で兄から貰った『ルピスカルス』を読んでいるところが母に見つかった。
母は、セネが勉強以外のことをしている。ましてや、兄、カル=デルフィが英雄に憧れる原因となった本を読んでいることに腹を立て、ボロボロになっていたその本を取り上げた。
それから数日間、セネは部屋から出てこず、一体音も聞こえなくなった。
母から事情を知らされていなかった父が心配をしてセネの部屋を覗きに行った。
セネは部屋に備えられていた勉強机でただ黙々と勉強をしていた。
父はセネの部屋をぐるりと見渡すと、あるものが目に付いて、つい声を出した。
「セネ、『ルピスカルス』を読んだ事があるのか…?」
壁に貼られた1枚の絵。決して上手な絵とは言えないが、その絵が表しているものは、黒く押し寄せる闇に立ち向かうたった1人の青年の絵。
それは『ルピスカルス』のラストシーン、魔王に立ち向かう英雄そのものだった。
父の声に気づいたセネは、「ごめんなさい…」と言って、その絵を壁から剥がしてしまう。
「1度注意されたにも関わらず、このようなことを…本当にごめんなさい」
セネは泣くのを我慢しながら、震えた声で謝った。
「なんで謝る?いいじゃないか、それ。よく描けてる。この絵の英雄、カルに似てるな」
「そうです。お兄様をイメージして描きました」
涙目だったセネはその話をすると、たちまち笑顔になっていた。
「それで、セネはどこにいるんだ?あの物語を読んだのなら英雄には憧れるものだろう?」
「僕はなれません…身体が弱いですから…お兄様みたいな強い力も持っていません。なので、大きくなるまで勉強をして、頭だけは誰にも負けないようにしなくては…」
セネが思い詰めたようにそう言った。
「英雄にはなりたくないのか?」
セネは、無言で震えていた。そんな叶わない夢を言って親を苦しめたくない。そんな気持ちでいっぱいだった。
そんなセネに父はこんな言葉を放った。
「こんなものを見てしまったら、親としては本心で語って欲しいな」
母に取り上げられたはずの『ルピスカルス』が父の手の中にあった。
「こんな時、英雄ならこう言うと思うぞ。夢は諦めるものでは無い。叶えるものだってね」
父がカッコをつけたように言うと、その本を勉強机に置いた。
その話を聞いた時、謝る時以外、横顔しか見せていなかったセネは、持っていたペンを机に置き、父と顔を見合わせた。
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次回投稿は11月7日です。