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男爵令嬢ジャスティーナ・ホッパー

 馬に相乗りすることは、ジャスティーナにとっても緊張することだった。

 体を密着させて森の中を走る。 

 風が気持ち良く、涼しいはずなのに彼女は自分が汗ばんでいて、気づかれないことを祈った。

 湖に到着した時は、胸を撫で下ろし、イーサンに手伝ってもらって馬から降りる。


「しばらく湖の畔で休もう」


 彼は馬にくくりつけられていた袋から、まずは敷物を取り出し、地面に広げる。

 ジャスティーナも手伝い、果実酒やパンを敷物の上に並べていき、ピクニックの準備が整った。

 鳥の鳴き声が遠くから聞こえるだけの静かな森の中。

 二人はしばらく黙って敷物の上に座っていたが、先に沈黙を破ったのはイーサンだった。


「モリーを屋敷に戻したが、使用人達は大丈夫か?」

「ええ。みんな優しいわ。新しい人ばかりだけど。前の人たちには悪いことをしたと思っているの」


 前の使用人達の殆どは自主退職しており、ジャスティーナは少しばかり彼らに対して罪悪感を覚えていた。

 顔が変わる前、彼女は人に優しくすることを知らなかったし、ありがとうという言葉もあまり使ったことがなかった。

 彼達が自分の世話をするのは当然で、お礼など言う必要はなく、また立場をわきまえてもらう必要があると思っていた。

 なので常に高圧的な態度で、使用人と接しており、彼女の出生の秘密も重なり、使用人達のジャスティーナに対する態度は冷たくなっていた。


「モリーのことは悪いな。時期に、その、」


 イーサンが口ごもり、何やら顔を赤らめていた。

 ジャスティーナはそれが可愛らしく思えて、彼を見つめてしまう。


「そんなに見ないでくれないか。照れてしまう」


 彼は本当に耐えれないらしく、顔を背けてしまった。


「ごめんなさい。見つめすぎたわね。だって、すごく可愛いと思ってしまったの」

「可愛い?」


 ――男性に可愛いはなかったわね。


 そう思ったが、後の祭りでイーサンは至極複雑な表情をしていた。ジャスティーナやハンクなどの使用人にはそう見えているが、他の人がみればその表情の変化はわからない。

 眉が薄く、唇も膨らみがなくのっぺりしている彼の顔、だけどのその黒い瞳をみれば、ジャスティーナは彼の感情を知ることができた。


「さあ、イーサン様。お腹が減ったわ。食べましょう。ニコラス特製のサンドウィッチを食べるのは久々だわ」

「そうだな」


 あっさりとジャスティーナが話題をかえると、イーサンはほっとしたように笑い、手元の果実酒の入った瓶に手をかける。


「器を忘れてきたようだ。ジャスティーナ、これはあなたが飲むといい」

「でも、イーサン様も喉乾いているでしょ?」

「俺は大丈夫だ」

「こうやって口をつけなきゃ、大丈夫でしょ」


 ジャスティーナは瓶のコルクを引っ張って抜くと、唇から離して飲もうとした。


「きゃっ」


 が失敗して、彼女はドレスに果実酒をこぼしてしまった。

 イーサンはハンカチを取り出して、とっさに拭いてくれるが、濡れた部分が胸元で、ジャスティーナの頬が赤く染まる。


「すまない!」


 それでイーサンも気がつき、同じように、いやそれ以上に顔を真っ赤にして、顔を背けた。


「これ、ハンカチだ。悪いが自分で拭いてくれ。今日はもう戻ったほうがいいだろう」

「そんな少し濡れたくらいよ。せっかくきたのに」


 布越しに胸を触れられ、動揺してしまったがせっかくのピクニックだ。ジャスティーナは濡れた部分を借りたハンカチで拭きながら、顔を明後日に向けたままのイーサンに答える。


「……俺が困る」

「え?」

「母のドレスを貸す。屋敷にもどって着替えたほうがいい」

「そんな」


 濡れたといっても少しだけで、ジャスティーナは戻りたくないと思ったが、イーサンが敷物の上に広げた食べ物を片付け始めてしまい、彼女は諦めるしかなかった。


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