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解けない魔法5

 ニコラスと二人がけで馬にのり、デイビス家に到着してから、モリーはイーサンの部屋に突撃しようとした。しかしハンクがそれを阻止し、緊急家族会議が休憩所で開かれる。


「お父さん、どういうことか説明してちょうだい!」


 口火を切ったのはモリーだ。


「それは、旦那様がジャスティーナ様を観劇に誘ったことか?」

「ええ、それも。それよりも昨日ジャスティーナ様に会わなかった理由よ!ニコラスから聞いたけど、元の顔では会いたくないとおっしゃったって?」

「そうだ」

「なんてこと!」


 怒れるモリーに対して、ハンクは冷静。ニコラスはただ二人の会話を聞いている。マデリーンは余計な口を挟まず、見守っていた。


「モリー。落ち着くのだ。沼の魔女の薬、まあ、飴玉なのだが、あれは旦那様に夢を見せてくれるのだ。旦那様はずっと「普通」の顔になりたかった。そして、普通の男性と同じように、好きな女性と出掛けたかったのだ。あの薬――飴玉は少し甘いようだが、気分が悪くなったり、体調を崩す要因はない。なので、しばらく旦那様の気が済むまで見守ろうと思っているのだ」

「な、でも、変身した旦那様は、ちょっとおかしいわ!妙に軽い感じがするし!」

「それぐらい、いいじゃないかな。もともとイーサン様は奥手すぎる」

「ニコラス!」


 おどけた調子で口を挟んだ夫にモリーは噛み付く勢いだ。

 ニコラスはそれを笑いで返して、ハンクはそんな若夫婦に対してため息をつく。


「モリー。しばらく旦那様の好きなように。わかったな」

「……わかったわ」


 モリーは内心納得してなかったが、イーサンがどれほど普通の顔に焦がれているか、小さい時から見ていたので、自身の気持ちを押さえ頷いた。


「さあ、話は終わったね。さあ、今日はあんたの久々の休みだろう?部屋でゆっくりしておいで。後で旦那様にもご挨拶するんだよ」


 マデリーンが手を軽く叩き、湿った空気を霧散させる。

 

「さあ、今夜は俺、はりきっちゃおうかな」

「ニコラス!」


 ニコラスがニヤリと笑ってそう言うとモリーが顔を赤らめる。

 ハンクは怒りよりも呆れが先で、大きなため息をついた。



 休暇をもらってきたというモリーが、イーサンに挨拶にきたのは、昼食が終わった後だった。


「何かあったのか?」


 自身の行動のせいだと少しも思っていない彼は、急なモリーの休暇に思わずそう尋ねる。


「ご心配なく、何も問題はございません。ジャスティーナ様も元気です。ただ、昨日お会いできなかったことが残念だったようですけど」

「モリー!」


 主人の前で簡単に嫌味を放つモリーにハンクは注意する。

 しかし、イーサンはモリーの態度に慣れているので、その言葉の通り受け取り、ジャスティーナの様子を再度聞く。


「落ち込んでいたか?」

「はい」

「そうか。そうであればやはり歌劇場に行くべきだな」


 イーサンは観劇が自身のためだけではなく、ジャスティーナの機嫌もなおる行為だと信じていた。

 彼女はもともと劇を観るのが好きであり、シュリンプと婚約していた頃、何度か彼が歌劇場へ彼女を連れて行っていたようなのだ。対抗意識ではないのだが、彼女を喜ばせたいと、イーサンも歌劇場の入場券を手にいれた。

 昨日は、この醜い顔で美しい彼女に会いたくないという気持ちが強かった。彼女はイーサンの容姿をまったく気にしていないことは知っている。けれども彼のほうがやはり顔が整っているほうが、彼女にはふさわしいなどと、いじけてしまっていたのだ。

 なので、またあの薬――甘い飴玉を食べて姿を変え彼女に会いたいと思っていた。


「イーサン様。明日の朝にはジャスティーナ様の元へ戻るつもりです。今夜はこのお屋敷で過ごさせてくださいますか」


 他人行儀にモリーに問われ、イーサンは考え事から目を覚ます。

 


「もちろんだ。この屋敷はお前の家でもある。そうだ。ハンク、今日は夕食が終わったら、早々に自室に戻るといい。マデリーンにもニコラスにもそう伝えてくれ。久々に夫婦の時間も必要だろう」

「イーサン様」


 イーサンはそういう意味で言ったわけではないのだが、モリーが頬をほんのり赤らめたことで、自分の失言に気がつく。


「そんな意味ではないからな」


 男女のことに不慣れな彼も照れてしまい、そっぽを向いて付け加える。

 モリーは苦笑しながら、退室の許可を求め、イーサンは視線を逸らしたまま、返事をした。



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