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男爵令嬢、屋敷へ戻る。

 ホッパー家に到着し、玄関先で揉めたのだが、ジャスティーナが姿を現すと、すぐに屋敷に通される。

 ハンクが馬車と共に去っていく気配を背後で感じ、心細い気持ちになった。けれども、彼女は小さく息を吐くとイザベラと共に中に入った。


「ジャスティーナ!心配していたぞ」


 顔が変わってしまった時とは一転して、ホッパー男爵は両手を広げて彼女を迎えた。

 満面の笑みで、数日前に怒られたのが嘘のように思えるほどだった。

 実際、呪いがかかる前は、父はいつもジャスティーナには甘く、甘すぎるほどだった。

 父の隣には母のアビゲイルもいたが、無表情で何を考えているかわからない。


 沼の魔女イザベラより、数日間の失踪は、彼女の仕業と説明される。ルーベル公爵のお抱えの魔女ということで、父が非難などするわけもなく、ただ呪いを解いてくれたことに感謝を述べる。


 ――呪いを解いてくれたのは、イーサン様なのに。


 心でそう思ったが、口に出すわけにもいかず、ジャスティーナは終始無言だった。

 イザベラが屋敷を去り、彼女は部屋に戻る。

 使用人達の態度は相変らず冷たいもので、戻ってきた彼女に優しい言葉をかける者は一人もいなかった。


 ホッパー家の使用人の制服は誰の趣味がわからないが可愛らしいものだった。襟ぐりが大きく、ふわりと広がった袖、腰の部分はきゅっと絞られた赤茶色のワンピースに、レースを裾にあしらった白のエプロン。

 帽子などをかぶる必要もなく、大概髪を一つにまとめているものが多かった。


「ジャスティーナ様。お着替えをされますか?」


 茶色の髪を編みこんだ使用人の一人が、にこりと笑うこともなく淡々と尋ねる。


「ええ。お願いするわ」


 ジャスティーナが微笑んで答えると驚いたような顔をされる。


 ーー何か変だったかしら?


 彼女は首をかしげたが、答えはでなかった。

 ホッパー家では使用人達は必要最低限のことしか、ジャスティーナに話しかけない。だが、それに答える度に使用人に驚かれ、困惑する。

 そうして、夕食が始まり、彼女は悟った。


「ジャスティーナよ。どうしたのだ?お前らしくないな。いつも誇り高く、毅然としていて、使用人達に気など配ることはなかったのに。そんなへりくだった態度では公爵夫人としてやっていけないぞ」


 ――誇り高く、毅然として。そう。そういうことね。私は不遜で、いつも周りを省みなかった。だから、使用人達に気を配ることもなかったのだわ。


 父の言葉で彼女は使用人達の不可解な反応に納得がいった。

 

「お父様。婚約は破棄されたのでなかったの?」


 公爵夫人と言われ、彼女は確かめるためにも父に聞き返す。


「何を言っている。こうして、お前が元の美しい姿に戻ったのだ。婚約は続行だ。ルーベル公爵からも既に手紙が届いていて、明日シュリンプ様とわざわざ足をお運びくださるそうだ」

「わ、私は会いたくないわ。婚約破棄するって言ってたじゃないの。今さら、おかしいわ」

「ジャスティーナ。シュリンプ様のどこが不満なのだ。あのように身分が高くて、姿形も整っている方など、他にはいないぞ。お前も喜んでいたじゃないか」


 ――喜んでいた。そう。確かに、シュリンプは見目素晴らしい人で、とても優しかったわ。私が喜びそうなものを贈ってくださったり。だけど、顔が変わると手の平を返したように変わったわね。そうだわ。顔すら合わせようとしなかった。


「ジャスティーナ。どうしたのだ?」


 突然笑い出した彼女にホッパー男爵が声をかける。


 ――イーサン様も、私の顔が元に戻ったら会ってくれなくなったわね。シュリンプと同じ。おかしいけど。顔がそんなに重要なの?だって中身は全部一緒よ。外見だけの話なのに。


「ジャスティーナ。なぜ泣く?どうしたのだ?」


 今後は泣き出した彼女に、男爵はお手上げだとばかり、頭を抱え込んだ。

 母のアビゲイルがその時ばかりは、珍しく動いた。


「ジャスティーナ。戻ったばかりで疲れているでしょう。一晩ぐっすり寝たらきっと落ち着くわ。旦那様、早く彼女を休ませてあげましょう」

「そ、そうだな。明日はルーベル公爵も来る。そうしよう」


 そうして夕食は早めに切り上げられ、ジャスティーナは自室に返される。早々と寝間着の白いドレスに着替えるように促され、彼女はただ使用人にされるがまま、着替えを済ませる。

 明かりこそ、消されなかったが、使用人は用事がすんだとばかり、部屋を退出した。

 部屋の中は、見た目こそが豪華であったが、ごわごわしたシーツに硬い枕が置かれ、ジャスティーナはイーサンの屋敷を思い出す。

 シーツはやわらかく、枕には安眠用の草が仕込まれ、とても快適に眠れた部屋だった。


「こんな部屋で私は寝ていたのね」


 当時は気がつかず、ただ生地の色鮮やかさ、模様の絢爛さに満足していた。

 

「私は、何をしていたのかしら」


 ――私の態度が、使用人達を遠ざけていた。きっとお母様の態度が変わったのも私のせい。どうすれば私に優しくしてくれるかしら。


 昨日同様眠れない夜、朝方やっとベッドに横になったが、疲れがとれないまま、翌朝使用人に起こされた。

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