2. 男
最終兵器なんてものがあったら。今すぐにでも人類を滅ぼして欲しい。
未来への希望なんて夢のまた夢だとツバを吐きながら、荒れた街並みを歩き続けている。人類なんて滅びてしまえと考えているが、それでもこの腹は空高く鳴り、また日が暮れる。
昔の話だが、『人工知能』とやらが『自動人形』を作り旧人類を滅ぼしたんだとか。いや滅ぼしたらしいのだが、なにがどうなってか人類はしぶとく生き残ってしまったようで、この俺を含め現人類は生きている。
「人工知能だか自動人形ってのも、やっつけ仕事だったのかね?」
自分達で作った物に滅ぼされるとか、昔の人類はなにがしたかったのだろうか、全く理解できない。
今の人類は残った古い文献を掘り起こして文明の再建をするんだとかで、人をこき使って街を再建し、国を作った。
それらしい国が出来てきたかと思えば、こぞって平和だの安全だの安心だのと、体の良い言葉を掲げている。
結局のところは、他国を罵り、古い文献やら資源やらの奪い合いで殺し合いまでしているくらいだから、兵士集め…労働力…みたいなものだろう。
『人工知能』ってのが何を見聞きして考えたのかなんて分かりゃしないが、そんな人類は滅びた方がいい。この決断には偉く共感が持てる。
「本当、俺を含め人間なんてロクなもんじゃね〜。あ〜腹減った…。」
ここ3日ほどか、まともな飯にありつけていない。それもこの夜が明ければ4日目になるのだが、もうどこかの国に属して死んだように生きる国民のようになりたくない。かと言って金がなけりゃ食い物も手に入れるのが一苦労だ。
昔は野生の植物がそこら中に生息していて、それを食べたって命に問題がなかったって嘘みたいな話があるくらいだ。
旧人類が憎らしくてしょうがない。やはり滅んで当然か…。
「今日はこの街にするかな…。」
ここは、中立国の街で比較的居心地は良いのだが、国としての法律とやらがないから治安は悪い。街へ入るとすぐに胸元を見せびらかした女が声をかけてくる。
「いい男ね〜ちょっと遊びましょうよ〜。」
「…。金も食料もねぇよ。」
「あら、残念。さよならね〜。」
こんなやり取りを何度しただろうか。いい男だの、面がいいだの、強そうだの。男の喜びそうな言葉を並べるが、結局のところ、金か食料だ。口車にのって遊んだこともあるが、大概は懐が空っぽになるだけで、面白くもなんともなかった。それに俺のことなんて見ちゃいない、金か食料だ。
「やれやれだ…。金か…。なんでもかんでも金金金…。まぁ…。金だよな…。」
なにが自分の幸せなのか。そんなことを考えるが、後にも先にも『金』で躓く。とりあえず雨風しのげる場所を探して歩きまわりながらそんなことをまた考えていた。
荒れ果てた街並みとは違い、比較的建物も綺麗になっていてあちこちで家庭の明かりが灯り初めた。そんな暖かい光を見ながら人を避ける。
女は裁縫、料理なんかの仕事を任されることが多いが金が安い。男は力仕事がほとんどで、頭の出来の良い奴らは国側の仕事をする。当然だが貧富の差は大きい。女が手っ取り早く稼ぐには、体を売った方が稼ぎがいいんだとか。
「まぁ、そんなもんだよな。」
なにを今更考えてるんだ、と可笑しくなって変に笑えた。腹の虫も可笑しかったのかヤケに主張している。
「いや勘弁してくれ…金も食料もまじでねぇんだわ…。」
自分の腹を撫でながら慰めるように言葉を投げるが、腹は当然満たされちゃくれない。
「お前も俺の言う事を聞いちゃくれねぇのか…。ははは。」
飯と寝床がありゃとりあえず安泰なのだが、今はなにもない。
「なんだかんだ死にたくないのな…。俺…。」
自分の腹と会話をしてどのくらいか、街の外れまで歩いて来てしまっていた。 雨風を凌ぐには丁度いい廃墟を吟味し、中へと入る。
「お邪魔しますよっと…。」
毎度恒例となっている廃墟内探索。探索と言ってもあれだ、棚やら保管庫のような物を探し、旧人類が生み出した食料を探す。
これだけ派手に世界の旧文明が破壊されたというのに、人類もそうだが、廃墟にはまだ食料になるものが残っていたりする。
「そのあたりだけは、感謝するけど・・・・なっ!っと。」
空腹状態で食料を探すのは、なかなかにしんどい。瓦礫をどかすのは重労働だ。
「ん?これは。なんだ?」