第6話
【視点:水無月篝】
「それでは、私はこれで失礼しますね。」
「篝ちゃん、誘わないの?」
「なっ!相坂ちゃん何言ってるの!?」
動揺する私。
「べ、別にそんなんじゃ……。」
「篝ちゃん、屋上行こう?」
「なんで?」
「屋上って言ったらフラグでしょ!?乙女の当然の嗜みよ?」
初めて聞いたんだけど。
「でも、お行儀が悪いと言われそうだし。」
「篝ちゃん、普通の学生は普通に屋上でお昼食べるから普通。」
そんなに“普通”を連呼しないでよ。
「フユトくんに会えるかもよ?」
「は!?」
自分でも顔が紅くなっていくのが分かる。
「会いたくないの?」
意地悪そうに顔を覗き込む相坂ちゃん。
「な、なんでそうなるのよ。」
「……篝ちゃんも、大変な御家に生まれて大変ね。」
!!
「相坂ちゃん、私は平気。きっと御家の期待に応えてみせるわ。」
「そんな人生でいいの?」
「……仕方ないなじゃない。それが運命なんだから。」
きっと私は政略結婚をして、御家の為に生涯を費やすんだろう。
「篝ちゃん、私はずっとあなたと共にあるわ。」
真面目に、そして力強く言い放つ。
「ありがとう。」
「あれ?篝ちゃん、あれ見て。」
「えっ?」
フユトさんと女生徒がぶつかっていた。
そこまでは普通なんだけど、それから女生徒がフユトさんの手を握っている。
「彼女かな?」
相坂ちゃんが意地悪そうにそう囁いた。
「なっ!?」
「冗談よ冗談。あはっ。」
楽しんでるの、バレてるからね。
それにしてもあの人は誰なんだろう?まさか、本当にフユトさんの彼女?
私は御家のせいで、男の子から告白なんてされたこともないし、誰かと交際したこともない。
政略結婚を迎える前に、一度で良いから自分が好きになった人と幸せを分かち合いたい。
「行こう、相坂ちゃん。」
「え?いいの?」
これでいいんだ。
これで。
これでいいの?
「篝ちゃん。」
「ん?」
「屋上…行こう?」
相坂ちゃんがさっきとは思えないほど切ない顔をしていた。
「うん。」
素直に返事が出た。
……前言撤回。
見えない角度でニヤリと微笑んだ相坂ちゃんを私は見逃さなかった。
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