雪の広場
雪がうんと積もった日のことです。
寒くなって誰も来なくなった広場に、ぞうの子がやって来ました。
「うわぁ、すごい!」
広場にやってくるなり歓声をあげ、真新しい雪に大きな足跡をつけて走ります。
「パオくん、待ってよ!」
後からネズミの子が、はぁはぁと息を切らせながらやって来ました。
「ごめん、ごめん。雪が積もるとこんなになるなんて、ボク、びっくりだよ」
「こんなに積もるのは、ぼくも初めてだけどね」
「ねぇねぇ、ちゅう太くん、約束通り雪遊びを教えてよ」
「――そうだな、パオくんでもできそうな遊びは……」
ちゅう太くんは、広場をぐるりと見回します。氷の上を歩いたり、ソリで滑ったり、つららを振り回したりするのは、ちゅう太くんにできても、パオくんには難しそうです。
ちゅう太くんは、雪を両手いっぱい取り、合わせてみました。すると雪玉ができ、ちゅう太くんはほっとしました。だって、さらさらの雪だと上手に作れませんから。
「わっ、すごい! 雪がおにぎりみたいになった。ボクも作ってみる」
パオくんは、さっそく作りました。
「パオくんが作ると大きいね。これを投げて当てっこして遊ぶのだけど、この大きさだと、ぼく、あっという間に埋もれてしまうね」
と、その時、ちゅう太くんのお母さんがやって来て、ちゅう太くんを呼びました。
「あ、いけない! パオくん、またね」
広場はパオくんだけになってしまいましたが、パオくんは夢中で雪玉を作り続けます。
「パオくん、何をしているの?」
ウサギの子が、手さげバックをゆらゆらさせながらやって来ました。
「ミミちゃん、雪玉作っているんだ。ちゅう太くんに教えてもらったんだ」
「まぁ、なんて大きな雪玉かしら。
――ねぇ、パオくん、その雪玉ちょっと貸してね。可愛らしくしてあげるわ」
ミミちゃんは雪玉を受けとると、レモンの形に変え、植え込みから葉っぱと赤い実を二つずつもぎ取り、それを左右につけました。
「あ、ミミちゃんだ」
「うふふ、雪ウサギの出来上がりよ」
「ボクも作ってみる!」
パオくんは、ミミちゃんが作った雪ウサギを見ながら作ります。
「パオくんが作ると大きいね。耳も目も小さくなっちゃうけど、それはそれで何だか可愛いわ」
ミミちゃんは嬉しくて、ぴょんぴょん跳ねます。持っているバックもぴょんぴょん跳ねます。
「あら、ピアノのお稽古に行く途中だったんだわ。パオくん、またね」
またパオくんだけになってしまいましたが、パオくんは雪玉に雪ウサギを作るのが楽しくて仕方ありません。
「パオ、何しているん?」
犬の子が広場前を走り抜けようとして、パオくんに気が付き、声をかけました。
「コロくん、雪玉と雪ウサギ作っているんだ。ちゅう太くんとミミちゃんに、作り方を教えてもらったんだ」
「うわぁ、これはでかいな。この雪ウサギなんか、ちょっとした雪だるまやないか」
「雪だるま?」
「パオは雪初めてなんやな。
――雪だるまってのは……」
コロくんが作った雪玉の上に、作ったばかりの雪玉を乗せました。
「こんなのをそう言うんや。大きいものは雪玉を転がして作るんや。
――まあ、見ててや」
コロくんは雪玉を転がして、二つの雪玉を作りました。
「後は小さい方を上に乗せるだけやけど、――しもた、大きくしすぎたわ」
「これを上に乗せるんだね」
「さすがパオや。仕上げに目とかつけるんや。
――あ、葉っぱとか実やと小さいさかい、石とか枝の方がええで」
パオくんとコロくんは、手分けして石と枝を探しだし、それをつけました。
と、赤いバイクが、ノロノロと通りすぎました。
「あ、手紙出さなあかんかった!」
コロくんは、バタバタと広場から走り去って行きました。パオはまた一人だけになってしまいました。ですが、パオくんは雪だるまを作りたい。と思いましたが、一面まっ白だった広場は、今はたくさんの足跡と、雪玉を転がした所から、地面がのぞいています。
「――雪、なくなっちゃった……」
パオくんはがっかりして、広場を出ましたが、広場を囲む歩道には、まだたくさんの雪があることに気が付きました。
パオくんはにっこり笑うと、歩道で雪玉を転がしました。ちょうど一周したところで雪玉は、パオくんの背丈程になりました。
「パオ、すごいの作っているな。この大きさだとかまくら作れるで」
「コロくん、かまくらって?」
「雪に穴を開けて、その中で遊ぶ雪遊びのことや。
とにかく、それ、運ぼか」
パオくんとコロくんが力を合わせて広場に運び、穴を開けますがうまくできません。
「ダメダメ、雪をうんと固めて作らないとかまくらは作れないわよ」
キツネの子が大きな雪玉を見て、慌てて駆け寄って来ました。
「ノノそうなん?」
「じゃあ、かまくら作ろうとしたら、もっと、雪がいるのだね。
――あ~ぁ、残念」
「町の方はまだ雪があるわ」
ミミちゃんが帰って来ました。
「ピアノのお稽古、お休みになっちゃったわ。みんな雪で困っていたわ」
「――その雪を集めたら……」
「かまくら作れるやん!」
「運ぶのはどうするのよ」
「ソリ使ったらどうやろ?」
みんなうなずき、走り出しました。
広場は誰もいなくなりました。
しばらくすると、小さな足音が近づいて来ました。
「――パオくん、帰っちゃったのかな?」
ちゅう太くんです。
と、そこにソリに雪を乗せたみんなが次々やって来ました。
「わわ、みんな何をしているの?」
「「「「かまくら作り!」」」」
「ぼくも!」
こうしてみんなは、町中から雪を集めます。
すると、他の友達が、兄さん姉さんが、弟や妹が、さらには大人達も、雪集めを手伝ってくれました。
町中から雪がなくなり、広場に立派なかまくらが出来上がりました。
夜になりました。パオくんは、広場が明るいのに気が付き、お父さんと一緒に広場にやって来ました。
明かりに照らされて、キツネ火を出すお稽古をしているノノちゃんと、そのお母さんがいました。
「ノノちゃん、すごい。これはさすがに真似できないよ」
「――まだまだだけどね」
ノノちゃんがはみかみました。
あれ、いくつかの足音が広場に近づいています。どうやら、みんなも明かりに気がついてやって来たようです。
ノノちゃんとお母さんは、次々のキツネ火を出します。
広場は昼間のように明るくなり、その美しさにみんな歓声をあげました。
――それは、雪がうんと積もった日のことです。