朝寝坊Ⅰ
「――――こんな時間までどこいってたの! 」
家に着いた途端、母さんの怒鳴り声が飛んできた。ずいぶんと怒っているようだ。それもそうか。なんせ辺りはすっかり日が沈み真っ暗で、他所の家の灯りがちらほら見える時間だ。
「ご、ごめんよ、母さん。でも茸はちゃんと拾ってきたから……」
結局、あの後ジェニファーの協力のおかげで籠いっぱいとはいかないもののそれなりの量を拾うことができた。
茸の入った籠を母さんに渡す。
「なんだい、これっぽっちしか拾ってこなかったのかい! これじゃ夕餉に使ったら無くなっちまうよ! まったく、お前はたったこれだけの茸を拾いに行くのに何時間かかるんだ! 畑仕事だって残ってるっていうのに……。」
これっぽっちって……。集めるの大変だったのに。
母さんは「こんなことならジルエットに頼むんだったわ! 」とプンプンと怒りながら家の奥に入っていった。
ジルエットというのは今年14になる僕の妹で、最近母さんに似て口うるさくなってきた。頼むから、母さんにだけは似ないでくれ……。
靴についた泥を軽く落とし、自分の部屋へと向かう。
「とりあえず夕餉は食べられそうだな」
最悪の事態は回避できた。これもジェニファーが手伝ってくれたおかげだな。いつもジェニファーには助けられてばっかりだ・・・。
そうだ!今度何かお礼にプレゼントしよう。たまには機嫌をとってやないとな。
でも、何をプレゼントしたらいいのか……。ジェニファーは普通の女の子が欲しがる物をあげても喜ばないだろう。一体どうしたものか……。
「そうだ。明日、レックスに聞いてみようっと」
レックスはトゥーラの村の領主の跡継ぎで、ジェニファーの婚約者だ。彼なら彼女の好みもわかるだろう。
「しかしレックスもモノ好きだよなあ……。よりにもよってあのジェニファーを選ぶなんて。まあ、レックスもあんな性格だし、ジェニファーしかいなかったのかもな」
レックスは権力者の息子らしくいつも威張っていて自己中心的なため、あまり評判はよくなかった。
小さい頃は歳が近いこともあってジェニファーとボブと僕の三人で遊んでいたが、レックスが僕を虐めてそれをジェニファーが庇うといったことがいつものことで、僕はレックスが苦手だった。