変わり者の青年Ⅰ
トゥーラの村近くの森を抜けた先にあるサルバの丘。ここは僕のお気に入りの場所だ。わざわざ広い森を抜けてこんな何もないとこにくる人間なんていないから1人になりたい時はいつもここにくる。
今日も1人になりたくてここにきた。
僕の周りではいつも不思議なことが起こる。
冬の花が夏に咲いたり、家族の怪我や病気が早く治ったり、家の物が失くなったりと良いこともあれば悪いこともある。ときにそれは僕自身に降りかかることも……。
そのせいで、いつからか村の人からは「トゥーラの変わり者」と呼ばれるようになってしまった。
不思議なことは僕が起こしているわけじゃない。だけど、村の人たちは僕が原因だと思っているから、いくら僕が違うと言っても信じてくれやしない。
村の人たちは僕のことを悪魔が取り付いているんじゃないかって噂しているみたいだけど、それはありえない。
なぜなら、僕はその不思議なことを起こす犯人を知っているからだ。
その犯人はなぜか僕以外の人には見えないらしい。だから悔しいけど、僕の無実を証明することはできない。
一体どうすればいいんだ……。
「おい、ルーカス!」
僕が解決できない問題に頭を抱えていると、どこからか僕を
呼ぶ大きな声がした。
声が聞こえた方向に目を遣ると一人の少女が立っていた。
「……なんだ、ジェニファーか」
「やっぱり、ここにいたか。ずいぶん探したんだぞ! 」
この少女はジェニファー=スペチュルナズンといって、村の唯一の医者の娘である。5人兄妹の末っ子で、男に囲まれて育ったせいかどうも女らしくするのが苦手らしい。
髪は肩の上で切りそろえ、肌は日に焼け浅黒く、口調は男そのもので、ぱっと見ただけでは女とは思わないだろう。
今も男物のシャツと農作業用のズボンに質素な帽子といった格好をしており、どこから見ても少年にしか見えない。
まじまじとジェニファーを見て、ため息をつく。
「少しは女らしくしたらどうだ? おばさんがみてたら女性が大声で叫ぶなんてみっともない、もっと女性らしい格好をしなさいってまた怒られるぞ」
この村では女性が大きな声を出すのはあまりよしとされていない。僕も女性はおしとやかで控えめであるべきだと思う。
「……母さんは考えが古いんだ。女が男の格好をしちゃいけないなんて誰が決めたんだ。女が男の格好をするのは悪いって言うのか? 」