vol.8
「ところで私のせいでお話の腰が折れてしまいましたよね?
本当にごめんなさい。・・・水口さん、あなたゲームとかする?」
「多少は。あ、でもRPGとかが多いです」
「このゲームご存知かしら?」
駿河さんが鞄の中から小さなパッケージを取りだす。
渡されたそれを見ると・・・あ、知ってる このゲーム。
「これね、友達が勤めてるゲーム制作会社のソフトなの。
結構話題になったんだけど、聞いたことないかしら?」
「知ってます!たしかヒロインが一流法律家を目指すんですよね」
「ええ、そう、でも主旨は育成よりも男性同僚や先輩、
依頼者との恋愛にあるんだけど・・・」
「ええ、友達にファンがいて薦められたことありますよ」
「パッケージの裏を見て」
「裏ですか?」
裏?裏に何があるんだろう。
疑問に思いながらも素直にひっくりかえしてみると・・・
「あれ!?この名前」
なんと!目の前の方々のお名前があるじゃありませんか!
うわー こんな有名なゲームに出てる人たちなんだ。
すっごーい。
「驚いたな、真琴ちゃん、まさか君が俺の出てるゲーム持ち歩いてるなんて」
遠江さんの言葉を軽くスルーして、駿河さんは私の方を向いている。
・・・いいのかなぁ
「ハードをお持ちならそれ上げるわ。私はもう大方コンプリートしてしまったし」
「へぇ・・・こんな有名なゲームのお仕事をされている方たちだったんですね」
そうらしいわね、と駿河さんが肩をすくめる。
「でもいいんですか?」
「ええ。だって私も申し訳ないけど頂きものだし、気に入ったら次回作を買ってあげて」
「ありがとうございます・・へぇ・・・これが」
手の中にある小さな重み
さっき駿河さんにもらった槇原さんたちが出ているゲーム
知らない事とはいえ、かなり失礼な事を言ったっぽい
遠江さんは駿河さんとお話されるのに夢中だけど
槇原さんはなんか機嫌が悪いような気がする。
謝っておいたほうがいいよね…
「あの…槇原さん…」
呼びかけた私に槇原さんの視線が向けられる。
ひぇぇぇぇ…ちょっと怖いかも でもきちんと謝らなくちゃ。
「知らなかったとはいえ、失礼な発言ばかりすみませんでした…」
軽く頭も下げておく。
「いや…知らなかったんだし仕方ないよ」
と。言ってはくれるものの笑顔には程遠い
よほどプライドをこわしちゃったんだなぁと考えてると
「知らなかったのは仕方ないけど正直、ちょっと悲しかったからね。
だから真澄ちゃんにはペナルティーってことで1つお願い聞いてもらっちゃおっかな」
遠江さんが発言する。
お願い?なんだろ?
とにかくこの空気をなんとかしたくて頷く。
視界の端で駿河さんがなんか慌ててたけど
ごめんなさい、スルーさせてもらう。
「お願いってなんですか?」
「んとね、槇の事これから名前で呼ぶこと!」
にこやかな笑顔で宣言されたお願い。
私はびっくり
駿河さんは唖然
槇原さん本人は「は!?」っと
各自遠江さんを見つめていた。
*
遠江さんの発言に私以外の二人がほぼ同時に反応した。
駿河さんは氷のように冷たい視線を遠江さんに投げ 、心底呆れたって顔をしている。
槇原さんは「誠さん!?」と遠江さんが言い出したことが信じられないと言いたげに。
私はどうしていいのかわからずに こそっと槇原さんの様子を伺う。
遠江さんは何故いきなりこんなこと言い出したんだろう。
私と槇原さんは出会ってまだたった2日だ。
たった2日前に偶然出会った女にいきなり名前を呼ばれても槇原さんだって良い迷惑だ
だからこんなに戸惑ってるんだろうし
第一私…槇原さんの下の名前忘れちゃったよ…
って、この状況で言えません!
槇原さんに問い詰められてる遠江さんは
「だって俺の名前呼んでもらっても真琴ちゃんか俺かわかんないじゃない」
なんて訳のわからない持論を展開している。
てか、駿河さんの事勝手にお名前で呼べません。
ご本人の許可もないのに
なんて言ったら火に油っぽいのでひたすら沈黙
この隙に槇原さんのお名前なんとしても思い出しておかなくちゃ…
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あ!駿河さんにもらったゲームの裏にあったじゃん!
一筋の光明を見いだし、そっと裏返してお名前確認。
槇原 仁さん
槇原 仁さん…おし、覚えた。
遠江さんは誠さん、駿河さんは…どんな字を書くんだろ?
でも、まことさん…よしこれで大丈夫。
そっとゲームをもとに戻し、どうするのかなぁと
私は半ば他人事のようにお三方を眺めていた。