vol.4
朝、目が覚めると外は雨が降っていた。
雨の日はバイクが使えないので少し面倒になる。
電車も混むし、バスも混む。
それに湿気がうっとおしい。
バイト以外では降ろしている髪を今日は朝から上げる。
少しでも気分を憂鬱にしない&湿気対策。
お金が貯まったら次は車だよなぁと思い、
私はいつもより早く、家を後にした。
*
やはり雨はどこも混んでいる。
ぬれた傘や、湿気た服が電車の中で新たに雨雲を作りそうだ。
私はため息を1つつくと、人混みの中に突進した。
運良くドアの隅に場所がとれたので見るともなしに外を見る。
雨に濡れたドアの窓は湿気で少し曇って落書きができそう。
出かける予定がないのなら、雨はキライではないのになぁと
ぼんやり考えていると、電車が駅のホームに滑り込み乗客が入れ替わる。
「あれ?レナーズの子?」
覚えのある店名にふと顔をあげると
「あ、笑い病の人・・・」
私の言葉にその人はぽかんとしたかと思うと
電車の中にもかかわらず、大爆笑してくれた。
さすがにはずかしくなったので、次の停車駅で降りるとその人もついて降りてきた。
あのまま電車内で笑い続けていたら
駅の人か警察か、あるいは救急車呼ばれてただろうけど。
「昨日といい、今日といい、君ホント面白い」
そう言いながらまだ笑っている。
人生楽しそうで良いですねーと言いかけたら
やっと笑いが治まったのか普通の状態になっていた。
「ごめんね、俺、ツボると長いんだ」
「そうですか・・・」
私には関係ないし。
そう思っていると、その人はニッコリ笑顔になり
「昨日は自己紹介できなかったよね、俺、遠江誠
槇の先輩にあたります。」
急に真面目に挨拶されたので、ついつられて
「水口真澄です」と、挨拶してしまった。
「みなくちますみ、水口真澄・・・うん、覚えた」
しまった、覚えられてしまった。
「ね、真澄ちゃんって呼んでいい?」
「はぁ・・・別にいいですけど・・・」
「でさ、君って、槇の彼女だったりする?」
真面目な顔して聞いてきた遠江さんに
私は電車の中での彼に負けないくらいの大きな声で
「はぁ?」といってしまっていた。
*
「お待たせしました、ホットとカフェオレでございます」
さて、何故私は遠江さんとお茶しているのでしょう?
私の返答を聞いた遠江さんは「時間ある?」と
私を駅近くのカフェへと連れ込んだ。
「昨日さー、時間にすっごい厳しい槇がギリギリで飛び込んできて
ピンクのメットなんか持ってるじゃない?車が拗ねたってのは連絡もらってたから
遅刻に驚きもしなかったけど、あの色のメットは正直予想外でさ。
現場では時間押してたから聞けなかったし、お昼はああだったでしょ?
で、夜に飲みで聞いてもアイツ吐かないしさ~気になってたの」
ふむ・・・端からみたら昨日の槇原さんはそう見えるのか。
別に隠す事もないので、私は昨日の出来事を遠江さん話す。
話が進んでいくうちに、おっきな彼の目が更におっきくなっていく。
「ドライアイになりますよ?」と言おうとしたら
遠江さんの口から小さな声がポロリとこぼれた。
「槇が困ったからって女の子に家まで送ってもらった・・・?」
「はいそーですけど?」
注文したカフェオレが冷めてももったいないので
私は遠江さんにかまわず口をつける。
彼はフリーズしたままだ。
「あのー、冷めますよ?」
私が声をかけるとフリーズは一瞬にして溶け
「嘘でしょ!?」
と、店内に響く大声を発したあと、私を凝視した。
ホントこの人たち、声は良いのにいちいちでかすぎ。
私はそうため息をつくとカフェオレの残りを喉に流し込んだ。