vol.3
都心からホンの少し離れた中層階のマンション。
その前で私はバイクを止めた。
この距離ならタクシーで帰ってもそんなにお財布は痛まないだろう。
私の後ろから降りた彼は、今度こそきちんとヘルメットを手渡してくる。
いつもの定位置にそれを戻すと、私はもう一度バイクに跨った。
「今日は重ね重ねありがとう、このお礼は近いうちにするから」
「いいですよ、気にしなくて。私も気まぐれだったんだし」
「いや、その気まぐれで助かったのは事実だから」
あんまり真剣に言ってくるので、適当に話を合わせておくことにする。
こういうのはほぼ社交辞令だし。
「わかりました、そのうち時間が合えば。」
バイクのキーを回すといつも通りの音。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ありがとう、気をつけて。おやすみ」
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「「・・・・・」」
「何で入らないんですか?」「何で動かさないの?」
声が同時に重なる。
「「だってそりゃそうでしょ」」
また。
「明日、早いんじゃなかったんですか?早く入ってください」
「いやいや、女の子に送らせて入れないでしょ。
せめて見送りくらいはさせてもらわないと。」
2人の意見が交差する。
しばらくお互いの顔を見つめ合ってたけれど、
根負けしたのは私のほうだった。
「じゃあ帰ります、だからすぐ中に入ってくださいね」
「女の子じゃないんだから大丈夫だよ」
その言葉にそりゃそーだと思い、アクセルに手を伸ばした。
「・・・今度こそおやすみなさい」
「うん、ありがとう。また店にも寄らせてもらうよ」
「高い物頼んでくださいね」
私がそう言うと槇原さんはきょとんとした後、吹き出した。
「了解、店思いなんだね」
「まぁ長いこと勤めてますから・・・じゃあ」
今度こそアクセルを回し、バイクを動かす。
角にさしかかり、ふとサイドミラーで見ると
まだマンションの前で私を見送ってるようだった。
人がいいんだねぇ・・と思いながら私は自宅へとバイクを向けた
*
基本私の生活はバイトと学校の往復。
家へは寝に帰る&課題をする為くらい。
車庫にバイクを止めると、そのままお風呂場へ直行する。
髪の毛をタオルでごしごし拭きながら、リビングのTVのスイッチを入れ
冷蔵庫からミネラルウォーターをだし、ラッパ飲み。
ふと、聞き覚えがあるような声がした気がして振り返ると
TVは次のCMに変わっており、やさしい女性の声が流れてくる。
そもそもTVから声が出てくる知り合いなんていなかったと思い直し、
電源を落とすと、ペットボトル片手に自室へとむかった。
髪の毛がほぼ乾く頃には課題も終了。
もう一度櫛を通し、明日の授業を確認すると
ベッドサイドの携帯にアラームをセットし、部屋の電気を消した。