vol.25
え?
今、仁さんの言った言葉が頭の中をぐるぐる回る。
仁さんは今「私を」好きだと言ってくれた・・・よね?
涙でぼやけているけど、仁さんは私の瞳をしっかり見つめているようで
少なくとも空気からは冗談だとか、嘘だとかは感じられない。
心はぐるぐる回る。
「・・・真澄ちゃん」
気がつけば仁さんがすぐ目の前に。
呼ばれた自分の名前がこんなにもうれしい。
さっきまでの悲しみの涙ではなく、うれしさで涙が湧いてくるのが止められない。
「仁さん・・・」
「泣かないで、真澄ちゃんに泣かれるとどうしていいのかわからない」
そっと壊れ物を扱うかのように抱きしめられる。
その優しさがとっても嬉しかった。
「・・・・・私も」
「え?」
「私も仁さんが、好き・・・です」
仁さんの胸に顔をうずめたまま小さくつぶやくと
その体がビクっと大きく反応する。
「・・・・・真澄ちゃん・・・本当・・・に?」
「はい」
「じゃあその涙は・・・嫌じゃないの?」
「嫌なわけ・・・ないじゃないですか」
小さな声で抗議した瞬間、今までで一番強い力で抱きしめられた。
「真澄ちゃん、真澄ちゃん」
仁さんがそれしか言えないというように私の名前を呼び続ける。
私は仁さんの体から腕を引き抜くと、その背中にそっと腕を回し
自分の気持ちをあらわすかのように少しだけ力を込めた。
*
どのくらい時間がたったのか、私の涙もすっかり乾いていた。
鼓動も早いものからゆっくりしたものに変わっている。
私の体に伝わる仁さんの鼓動もゆっくりしたものに。
くちゃくちゃになった顔を見せたくないけど、仁さんの腕は私を放してくれない。
少しだけ身じろぎすると体の間に隙間ができ、仁さんが私をやさしく見下ろしている。
「キス、していい?」
その言葉に私は瞳を閉じることで無言の返事を返した。
お互いの意識がはっきりしている中でのキス。
触れるだけのそれに収まっていた鼓動がまた駆け足になっていく。
それは彼も同じで、今、お互いのことは何もわからないことがないと
思えるような、そんな空気が私たちの間に流れていた。
「真澄ちゃん、俺と付き合ってくれる?」
「・・・・・はい」
耳元で小さくささやかれた言葉に私は小さな言葉で
でもしっかりと返事を返した。
*
「コーヒー入れるからその間に顔洗ってくる?」
名残惜しそうに離された腕になぜか急に寒さを感じる。
実際寒いわけじゃないけど、少し寂しい気分。
でも泣きはらした顔を仁さんに見せ続けるのも嫌だったので
お言葉に甘えて洗面所を借りることにした。
「なんでも好きに使って」
案内された洗面所でタオルを手渡される。
男の人ってこんなに綺麗にしてるのかな
それとも仁さんの性格なのかな
使って良いっていわれたけど借りるのもなんだし・・・
洗顔フォームや化粧水なんかが棚に整然と並んでいるのを見て
しばらく考えた後、元々お化粧もそんなにしっかりしていたわけでもないし
一晩寝て、泣いて、残ってたお化粧も落ちてしまったと判断して
ぬるま湯で顔を洗うだけにしておいた。
何度も顔を洗い、さっぱりしたのでタオルを使い水気を拭う。
ほっと一息ついて、鏡で自分の顔を見つめてみる。
ああ、泣いたから顔少し浮腫んで、目なんか真っ赤になっちゃってるよ。
今は少しでもかわいくなりたいのに・・・・。
冷たい水で目の周りを冷やしたり、冷たくなった手でほほを押さえたりしてみる。
そんな努力をしていたら、ずいぶん時間がたっていたようで
心配した仁さんが洗面所を覗きに来てしまった。




