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vol.23

ピンポーン

お鍋の煮える音とは違う電子音に、仁さんの眉が寄せられる。



「誰だ?ちょっと待ってて」


「はい」



仁さんは私に断ると玄関へ向かう。

くつくつ煮える音をBGMに待っていると玄関から聞き慣れた声が聞こえてきた。



「槇ー、来ちゃった」


「誠さん!?」



え?遠江さん!?

予想外の人の名前にちょっと驚く。



「あ、なんか良い匂いしてんじゃん

今から夕飯?差し入れ持ってきたから俺にもわけてー」


「え、いや、ちょっ」



困った声の仁さんにかまわず、声の主は上がり込んできたようで

迷う様子のない足音がリビングに近づいてきた。



「え?真澄ちゃん?」


「こ、こんばんは」



思いも寄らないひとの来襲に慌てて挨拶したけれど

笑顔・・・引きつってなかったかな・・・



「あれ?俺・・・うわー、タイミング最悪?」



遠江さんは私の顔をみた瞬間、「ヤバい」と言いたげな表情になり、

遠江さんの言葉に何故か仁さんのため息が重なる。


私もちょっとため息をつきそうになって、慌ててそれを飲み込んだ。

遠江さんは仁さんのお友達なんだから、遊びに来てもおかしくない。

二人っきりではなくなったけれど知らない人じゃないんだし・・・。

うん、私がため息をつくのは筋違い・・・・でもちょっとだけ残念な気分。


微妙な空気がリビングを覆う。

そんな中、先に動いたのは仁さんだった。



「誠さんいっしょに食べてってください。真澄ちゃんの北海道土産のかに鍋です」



そういうと誠さんの分の取り皿と箸を用意する。

遠江さんもなんだか困った顔をしていたけれど

だされたお皿とお箸をみて、「お邪魔します」と座布団の1つに座り込んだ。



「あ、槇。これ土産」


「? 何ですか?」


「イベントで地方行ってたから地酒買ってきた。

お前さん、家でしかあんまり飲まないだろ?」


「あ、すいません」



仁さんはお酒を受け取るとキッチンへと持って行く。

冷蔵庫の開く音がして、戻ってきた手にはビールとグラス。



「誠さん、ビールでいいですよね」


「あれ?槇飲まないの?」


「彼女後で送って行かなきゃなので・・・」


「そっか、真澄ちゃん行ける口?」



かけられた言葉に先ほどの気まずさを払拭したくて

つい、「少しだけなら」と返事をしてしまう。

お酒、苦手だけどそうは言えない雰囲気で・・・。



「じゃあ槇ほっといてちょっと飲も!」



グラスに注がれたビール。

少しだけなら平気かな・・・ちゃんと食べてたら酔わないかな。


煮えた野菜を取り皿へ。

かにを取ろうとしたら仁さんに制される。



「真澄ちゃん、かにちょっと待って」



そう言うと仁さんはかにを鍋からとると

かにばさみを使って食べやすいように切ってくれる。



「はい、熱いから気をつけて」



お皿にのせられたかには、すぐ食べられるようになっていた。



「何、お前えっらい優しいじゃん!」


「何言ってんですが、俺はいつでも優しいです」



はい、優しいです。

それが「知り合いの女の子」に対する物だとしても。

今日の格好はどうなのかな・・・少しは「異性」として認識してくれたのかな・・・

仁さんは顔に出ないから、察するしかないけれど

気に入ってくれたと少しは信じたい・・・。



「そう・・・か・・・・でもなんか違う気がする」


「誠さんの気のせいですよ」


「じゃあ俺のカニも剥いて!」


「自分で剥いてください」



仁さんは遠江さんの言葉をばっさり切り捨てる。



「えー、ずっるいー」


「男に優しくする感情は生憎持ち合わせてません」


「真澄ちゃん聞いたー!?」


よよよと鳴き真似をする遠江さん。

仲良しだからこその掛け合いなんだろう。

そう思うと、この二人の会話がとってもほほえましく思えてきた。











「槇はいいよなぁ 真澄ちゃん良い子でさー、それに比べて真琴ちゃん俺に冷たい・・・」


「何言ってんですか、駿河さんもいい人じゃないですか」



2人で多いかな?と思ってたかにと野菜は

遠江さんが加わったことでちょうどいい感じでなくなっていた。

途中白菜を足した方がいいのかも?と思わなくもなかったけれど

終わってみればそうでもなかった。

よかった、カニ2杯あって。


お鍋途中の遠江さんの会話はもっぱら真琴さんの事。

真琴さんがああしただの、こうしただの、冷たいだの、ちょっと優しかっただのを

私たちに報告みたいな形で言ってくる。


けれど仁さんは遠江さんの言葉にちゃんと意見を述べている。

まぁお二人とも私より真琴さんとのつきあいは長いだろうから

私のしらない真琴さんを知っているのだろう。


私の知らない真琴さんの事は興味津々ではある。


でも私はどう口を挟んでいいのかわからなかったので

もっぱら相づちをうつ程度しかできない。


遠江さん本気で真琴さんの事、好きなんだろうか?

でも真琴さん、そんな感じまったくないよね・・・。

今度真琴さんに遠江さんの事どう思ってるのか聞いてみようか・・・

でもなんか一刀両断されそうな気もしなくもないしなぁ。

少なくともこの前の飲み会では脈はまったくなさそうだったし。

遠江さんを応援したら真琴さん怒るかな?


仁さんと遠江さんの会話を聞きながら

しめのおうどんを食べていてそんな事を考える。


誠さんは進め上手で気がつけばビールを3杯も飲んでしまっていた。

良い感じに回ったビールでちょっと身体がふわふわしてる。

ヤバイな、ちょっと眠くなってきちゃったかも。

でも寝ちゃだめとスカートの上から気がつかれないように

軽く太ももをつねったりしてみる。


仁さんはこまめにキッチンとリビングを往復して

使ってないお皿とかを手早く片づけはじめた。



「仁さん、お手伝いします」



動いてたら眠気もさめるかもしれないそう考え

立ち上がり、キッチンへ向かおうとすると



「いや、ここは俺がしちゃうから悪いけど誠さんの相手をお願いしてもいい?」



そう言われお手伝いは却下されてしまった。

仕方ないのでもう一度同じ場所に腰をおろす。

遠江さんの相手・・・・普通に会話してたらいいのかな?


そうこうしているうちにおうどんも終了。

電気鍋もキッチンへ連れて行かれ、

代わりに冷たいカフェオレの入ったマグカップが目の前に。



「これゆっくり飲んで待ってて」


「ありがとうございます」



目の前におかれたカフェオレ。

私が好きなのを覚えててくれた?

私の勝手な思いこみかもしれないのに胸が熱くなる。

お酒とはまた違った熱が頬に集まるのを感じていた。











顔を赤くした私にかまわず遠江さんは残ったビールを消費中。

あ、そうだ今お土産渡せるじゃない。



「遠江さん、これ北海道のおみやげです」



紙袋から小袋に小分けしたビールを渡す。



「え?俺に?あ、ビールじゃんありがとー」


「誠さん、今飲まないでくださいよ?」



洗い物を終えた仁さんもカップを手にリビングへ戻り、遠江さんにクギを刺している。

冷えてないビールなんて美味しいのかなぁ?

ビールあんまり好きじゃないからよくわかんないけど・・・・



「わかってるって」


「仁さん、残りをこの間のお二人に渡していただけますか?

結局奢っていただいちゃったのでお礼代わりに」


「立野さんと下村さんの事かな?OK渡しておくよ」


「お願いします」



お二人の分が入った小袋を手渡し、お願いできたことで少し安心する。

仁さんと遠江さんがお仕事の話しをしはじめる。

まだ先の放映のアニメらしいけど私聞いてていいのかなぁ・・・

あんまり聞かない方がいいよね。

そう思い、なるべく会話を頭に入れないようにぼーっとしていると

またすこし目がしょぼしょぼしてきた。

身体が少し重くなってきて、意識がふわっとする。


あー、ちょっと眠い・・・

でも寝ちゃだめ、前の二の舞になっちゃう・・・



「あれ?真澄ちゃん?」



遠江さんの声は聞こえているのに目が開かない。

ダメだよ、起きなくちゃいけないのに



「誠さん、どれだけ飲ませたんですか」


「コップに2杯?いや3杯くらい・・・かな?」


「彼女、酒弱いんですよ」


「ありゃそうだったんだ、悪いことしたなぁ」


「少し待っててください」


「槇?」


「このままじゃ風邪ひきますからちょっと寝かせてきます」



膝下に手を差し込まれ、身体がふわりと浮く。

頭はぼんやり起きているのに身体は動かず仁さんの腕の中へ。

なんか暖かくて気持ちいい・・・


少し冷えた廊下を通り、部屋を移動し、ベッドに寝かされる感触。


あー、また迷惑かけちゃった・・・


最後に意識した言葉はただ後悔だった。


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