vol.22
車は軽い振動と小さなブレーキ音をたててマンションの前に停まる。
ふと顔を上げるとマンションの前で待っていたのか
仁さんが運転手さんに直接お金を払っていた。
うっそ、もう来てた。
それとも待っててくれたの?
その対応の素早さに驚きながら荷物を持ち直して、タクシーから降りる。
お金を払い終えた仁さんが、私の手から荷物を受け取ってくれた。
「いらっしゃい 真澄ちゃん」
「こんばんは 仁さん」
「お土産ありがとうね、気をつかわなくてもよかったのに」
「いつも仁さんにはお世話になってますから」
「そんなにお世話した記憶ないんだけどな」
そう言って仁さんは笑う。
その笑顔がちょっとまぶしい。
「とりあえず買い物に行く前に、先にこれ置きにいこうか」
と、発泡スチロールのBOXを持ち上げた。
こんなの持って買い物に行けないから異存はない。
「はい」
マンションに入っていく仁さんの後についていく。
エレベーターを降り、玄関へ。
仁さんは鍵をあけると私を招き入れてくれた。
「一応中身冷蔵庫に入れちゃうから。あがってあがって」
「お邪魔しまーす」
意識があるときにお邪魔するのは初めて。
前回はほぼ逃げるようにこの家を後にしたから。
好きな人の家だと思うと少しだけドキドキする
「適当に座ってて。あ、お茶飲む?」
「すぐ買い物に出るんですよね?じゃあ大丈夫です」
「そう?じゃあすぐ片づけちゃうから」
そう言うと仁さんはキッチンへ姿を消す。
私はリビングを軽く見回し、座卓と座布団を避け、部屋の隅のソファーに腰を下ろした。
座卓の上を見ると電気鍋が用意されている。
もしかして仁さん少し早く帰ってきて用意してくれたのかな・・・。
そう思うと、この鍋を楽しみにしていたのが私だけじゃないと感じ
胸の中がポカポカしてくる。
なんか自覚してからこんな感情が時々浮かんできては私を翻弄するけれど
それがイヤじゃないのは、やっぱり仁さんの事が好きなんだろうなぁ。
「そういえば真澄ちゃん食べられないものある?」
急にかけられた言葉に心臓がドキっと跳ねる。
「セ、セロリが苦手なくらいで、後は平気です」
「ま、鍋にはセロリ入れないけど覚えておくよ」
キッチンから聞こえてくる声。
ふと、今この場所に二人っきりだということに気がつき顔が赤くなる。
落ち着け、落ち着くんだ私ー!!
「お待たせー、って・・・どうしたの顔赤いよ?」
ぎゃー、ば、ばれた。
「な、なんでもないです、冷えのぼせかなぁ」
「少し寒い?上着貸そうか?」
「いえ、大丈夫です」
「そう?寒かったらちゃんと言うんだよ?」
「はい」
「じゃあ行こうか」
「はい」
鍵を手に玄関に向かう仁さんの後を追い、
私も玄関へとその後をついていった。
*
「鍋ってやっぱり白菜と長ネギ、しらたきに菊菜?
焼き豆腐もいるよね。で、椎茸と舞茸どっちがいい?」
仁さん家から徒歩5分のスーパーに二人で買い出し。
籠はもちろん仁さんの手の中。
メインはかになので買うのは野菜。
協議の結果、かに鍋にすることに。
「舞茸って美味しいですけどバラバラになりそうですよね」
「そうだね、じゃあ椎茸にしとくか」
そういうと棚から椎茸が籠に移動。
長ネギは白い部分が長いのをチョイス。
「仁さん、白菜半分のサイズしかないです」
二人で半分はちょっと多い。
どうしようか抱えたまま悩んでいると
「残ったら適当に料理しちゃうからそれ買っちゃおう。
白菜の無い鍋なんて美味しくないし」
「はい」
返事をして籠に白菜を入れる。
残った白菜をお料理って言葉がするっと出てくるってことは
仁さんお料理するのかな・・・おうちに電気鍋もあったし
少なくともお鍋する回数多いって事よね。
今日のお鍋で残った白菜がどうなるのか
聞いてみたい衝動にかられたけれど
聞いて良いのかわからないので我慢する。
今度機会があれば聞いてみてもいいかな?
店内を先導してくれる仁さんの背中をみながらそんな事をかんがえてたら
豆腐コーナーに到着。
しらたきも発見し、一緒に籠に入れる。
「もう買い忘れないかな?」
籠の中を確認しながら仁さんが考えてる。
「大丈夫・・・かと」
「あ、しめはどうする?雑炊?うどん?」
「あー、好みはうどんです」
「じゃあうどんも買って帰ろう」
店内を移動してお鍋用のうどんを買う。
途中、ハムの試食販売のおばさんに
「旦那さん、奥さん味見してって」と言われ、思わず顔を見合わせる。
え?仁さんが旦那さんで、私が奥さん!?
おばさんの言葉が脳内で理解できた瞬間、頬が赤くなるのを感じた。
どうしよう、変に思われてなければいいけど。
そう思うとますます頬に熱が集まってくるのを止められなかった。
*
スーパーの買い物代は仁さんのお財布から出た。
一緒に食べるんだから半分はだそうとしたら、
「かには真澄ちゃんが買ってくれたから」の一言。
マンションまでの帰り道を仁さんの横につき、ゆっくり歩く。
今年は野菜が高いだの生活臭のする会話に心がぽかぽかする。
この人の生活の中に私の居場所があることが素直に嬉しかった。
「かには俺がさばくから、真澄ちゃんには野菜頼んでもいい?」
仁さんちのキッチン、二人でお鍋の準備。
出汁はちょっとズルしてできあいのを買ってきた。
仁さんがかにをさばいてるあいだに野菜を食べやすい大きさに切ろうとして
ハタと我に返った。大きさ普段家で切ってる大きさでいいのかなぁ?
「仁さん、お野菜の大きさなんですけど希望ありますか?」
「それは真澄ちゃんに任せてもいい?」
「あ、はい。じゃあ適当に切っておきますね」
まな板の上に白菜を置くと、菜切り包丁でざっくり切れ目を入れる。
半分に切った片方をビニール袋にもどして、残りもまた半分に。
それを普段家でしているように芯の部分はそぎ切りにし、
葉の部分はざっくり包丁をいれ、野菜用の大皿に盛りつけていった。
椎茸もちょっと考えて飾り包丁を入れる。
うん、綺麗に十字が入ったかも。
「真澄ちゃん、そっちの準備はどう?」
「もうすぐ終わります」
かにをさばき終わった仁さんは電気鍋を出してきて
私から野菜のお皿を受け取ると煮えにくい野菜から順番に鍋にならべ、最後に出汁をはる。
蓋をし、野菜が軽く煮えるのを待つ間、二人でお皿なんかをテーブルに。
「仁さん、カニさばくの慣れてたみたいですけど」
「ああ、あれ?見よう見まね。冬の打ち上げで鍋って結構多いんだ。
後、家でも結構鍋すること多いからかな」
出汁が煮える間、座卓を挟んでそんな会話。
時々おこる沈黙も嫌な物じゃなくて、なんだかほっこり暖かい沈黙で・・・。
やがて鍋がくつくつと音を立て出す。
それに合わせるようにふわりとお出汁の香りが漂う。
「お、そろそろ良い感じかな。かに入れるよ」
「そうですね」
蓋からこぼれた湯気のしずくを台ふきでぬぐい、仁さんがカニを入れるのを見つめる。
仁さんがかにを入れ、再度蓋をした瞬間、玄関のチャイムがかわいい音をたてた。




