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vol,2

「真澄ちゃん、これ2卓にお願い」


「はーい」



遅刻することもなく間に合ったバイト先でいつものようにホールをくるくる回る。

注文を聞き、厨房に通し、もらって給仕。

単調に見えてもその日のお客様の加減で中々楽しい。


たまーに別れ話とかしてるお客様もいるけどまぁそれはそれ。

相手に水をかけたとかは都市伝説じゃないかと思う。

だってみたことないし。



「真澄ちゃーん」


「はぁーい」



厨房から呼ばれたのでそちらに足を向けた瞬間

入り口のドアチャイムがかわいらしい音を鳴らす。

反射的に「いらっしゃいませ~」と振り返ると・・・



「ああ!メット泥棒!」



思わず、叫んでしまっていた。











「先ほどは失礼しました。ご注文のクラブハウスサンドとカフェオレ、

 ベーグルサンドにホットコーヒでございます。

 ご注文のお品は以上でお揃いですか?」



私が注文の品を持って言ったとき

槇原さんは少し苦虫を噛み潰したような顔。


お連れ様は私の最初の叫びを聞いてから今までずっと笑っていたようだ。

あの程度でよくこれだけ笑い続けられる。

笑い病かもしれないので病院に行った方が良いよ?と言いたいくらい。

「槇が、槇が」と言った後、また思い出し笑い。

相手にしてらんないやと他のテーブルへ。

片づけをし、ご案内をし、お給仕する。

その繰り返しを30分ほどしてると食べ終わったのか伝票をもってレジへやってきた。



「お会計はご一緒ですか?それともお別けしますか?」


「別々で、後領収書もください」


「かしこまりました。こちらのメモに領収書の宛名をお願いします。

 ベーグルサンドセットの方が1280円、

 クラブハウサンドセットの方が1420円でございます。」



いろいろ言いたい事はある。

ヘルメットの事とか事とか!

でもそれは後だ。彼らはまだお客様なのだ。


指定通りの宛名で領収書をきり、各自におつりを渡す。



「ありがとうございます、またどうぞお越しくださいませ」



マニュアル通りに台詞を口に乗せると

槇原さんが「お仕事終わったら電話くださいヘルメットの件で」とメモを手渡してきた。

「22時すぎますよ?」と言ったらその方が都合がいいと言われた。

よくわからない人だ。

「わかりました」というとほっとしたように店を出て行く後ろ姿をしばし眺める。


今まで私がバイトしてる時は来たことないよなぁ・・・

偶然?それともストーカーか!?

自分の考えに大笑いしたいのをかみ殺して私は厨房へと足を向けた。











予定より少し遅れた22時半

メモに書かれた電話番号に電話をかける。

少しして周りがざわめいた中で相手が電話にでた。



『はい』


「槇原さんの携帯でよろしいですか?」


『・・・そうですけど・・・誰?』


「あのー 水口ですけど」


『水口・・・水口・・・ああ、ごめんごめん

 すぐに思い出せなくて。今日はありがとう』


「いえ、こちらも店では失礼しました」


『いや、君に送ってもらったから仕事も間に合ったんだ。

 本当にありがとう』


「いえいえ、で、ですね早速なんですが私のヘルメットをですね・・・」


『槇ー、誰と話してんのー!あー昼間のカフェの子だろー』



ざわざわの中に別な声が聞こえてくる。

この声はあの時のお連れ様か?それにしては・・・もしかして酔ってる?



『誠さん、もう少し静かにしてください。ああ、ごめん周りがうるさくて』


「いや、それはいいんですが・・・どちらにいらっしゃるんですか」


『くまくま亭』



店の近くの居酒屋じゃん。

いいよなー 飲んでるのか!

そういや壊れなかったら車だったのに何してんだ、この人は。


それを察したかのような声が電話の向こうから聞こえてくる。



『あ、僕は飲んでないよ?明日も朝一から撮りがあるから』



とり?なんだそりゃ。

社会人ともなると学生バイトにはわからない仕事もあるんだろうか



『今からそっちに向いたいんだけどお店の所でいいのかな?』


「抜けて大丈夫なんですか?」


『ああ、ここまでできあがってたらもうわかんないだろうし』


「じゃあお待ちしてます」


『もしまだお店に入れるなら入っておいて?

 女の子がこんな時間に外にいたら危ないから。

 お店についたら電話いれるよ』



そう言って電話は切れた。

女の子扱いも、心配されたのも久しぶりだ。

学校の悪友達には完璧に男扱いされている気がする。

やっぱバイク通学がダメなんだろうか

でも今更女の子扱いされても背中がこそばゆい気もするし・・・ま、いっか。


しかしどうしたものか。

店はもう閉まってて入れない。

しかたなしに私は自分のバイクに身を預けるようにもたれて、

槇原さんが来るのを空を眺めながら待つことにした。











「ごめん、待たせた」


「いえ、大丈夫です」



槇原さんは私の姿を見つけると少し小走りに駆け寄ってくる。

うん、昼間も思ったけどいいお声です。



「ヘルメット持ってっちゃってごめん、あの時慌てて」


「いえいえ私も失礼な発言をしたのでおあいこだと思っていただければ」



道の端でお互いに謝り合う

いつしかほぼ同時にプっと吹き出していた。



「いや、本当に昼間はありがとう。あそこで乗せてくれなかったら

今日の仕事に穴をあけちゃうちとこだった」


「間に合ってよかったですね」


「そう言えば、水口さんってあの店でずっとバイトしてるの?」


「もっぱら夕方からが多いですけど」


「そっかーそれで今まで見なかったんだ」


「?」


「あそこのサンドイッチ結構好きでね、昼間は良く行くんだ」


「それはそれはご贔屓いただきありがとうございます」


「いえいえどういたしまして」



なんとなくバイクを押しながら大通りへ向かう。

足がない槇原さんはタクシーを拾って帰宅するそうだ。

もったいないと思うけれど、それぞれの生活圏があるので口にはしない。

先に帰ってもよかったんだけど、タクシーを拾うまで見届けなきゃいけない気がした。

そういう雰囲気?なんていうかわかんないけど。



「なんでー!?今日はタクシーに呪われてんのか!?」



通算35台目のタクシーが目の前を通り過ぎる。

最初のうちは笑っていた槇原さんも段々真剣を通り越して怖くなってきている。

普段は5~6台もしたら捕まるらしいんだけど・・・


これは今日はとことん面倒見ろってことかなぁ・・・



「槇原さん!」


「何!?」



おおう!その勢いはないでしょ

ひるんだ私に槇原さんが慌てて謝ってくる。



「乗りかかった船です、お送りしますよ

 この時間からだと更に捕まりにくいでしょう?」


「~~~~~~~~~~~~~~~」



彼の中でどんな葛藤があったのかはしらない。

でも行きと同じくらい、いやそれより小さいかもしれない声で

「お願いします」の言葉を聞いたとき、何故か勝った気がした。




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