vol.1
初めまして 深緋と申します。
今までROM専&自サイトでひっそり運営だったのですが
新しいお客様とふれあいたい!という下心のもと
今回転載投稿させていただくことになりました。
噛みついたりしませんので、一つよろしくお願いいたします。
あと、登場人物その他は架空の物です。
現実と混同されないようお願いいたします。
うちの家族、特に両親は基本放任だ。
私が学校に行こうが行かないでいようがおかまいなし。
高校だって自分で決めた。
今のってるバイクを買うときも、免許を取ったときもそう。
「気をつけて」の一言だけ。
両親より母の妹である美佐子姉さん(叔母さんって言ったら怒られる)の方が
よほど心配してくれたくらいだ。
でもまぁバイクは人で溢れかえっているバスや電車から私を救ってくれたし
風もなかなか気持ちいい。貯めていたお年玉を放出した甲斐もあるもんだと
気分良く走っていたら、前方にハザードランプをつけて止まっている車がいた。
普段はスルーしてそのまま走り去るんだけど、今日は特に差し迫った予定もなかったので
なんとなくその車の前にバイクを滑り込ませて停車した。
「大丈夫ですかー?」
私の言葉に携帯をいじっていた人が顔を上げる。
まぁ普通の顔だな。
「え?ああ、僕のこと?」
どきっ
声を聞いた瞬間、鼓動が少し早くなる。
すいません、普通だって言って。
顔は確かに普通だけど声は中々素敵でいらっしゃいました。
「車ー、平気ですか?」
私の声に少し訝しげな表情になる。
いきなり聞かれたらそりゃ誰だってそんな顔になるだろう。
でも私は何故かこの時、会話を終わらせたらいけない
そんな気がしていたのだった。
「ちょっと拗ねちゃったみたいでね。知り合いが今こっちに向かってくれてるんだ」
「じゃあ車は大丈夫ですね、で、お兄さんは?」
「僕?・・・・・うーん大丈夫・・・じゃないかも
君さ、この辺のタクシー会社の電話番号しらない?」
「104で調べたらどうなんです?」
「それがどこも話し中なんだよ・・・」
ありゃりゃ珍しいこともあるもんだ。
そうこうしてるうちに車屋さん?が来て、お兄さんの車はさらわれていった。
もう一度携帯をいじってタクシー会社に電話したのだろう
ちいさく「またかよっ」って声が聞こえる。
「まだダメ?」
私の言葉に小さく肩をすくめ苦笑する。
その姿に思わず言葉がぽろっと口から飛び出した。
「さっきの車に同乗させてもらえばよかったんじゃ・・・」
私の言葉にハッとした顔をして「しまったぁぁああ」と叫ぶその姿。
思わず笑ってしまう。
私はバイクの荷物入れを開けてもう1つのヘルメットを取り出した。
「お兄さん、これも何かの縁でしょう
私のバイクでよければ送ってってあげる」
そう言ってヘルメットを投げると、慌てて受け取る彼。
「どうする?」と首をかしげて問いかけてみると
彼は少し悩んだ後「お願いします」と言った。
*
背中に人のぬくもりがあるのは久しぶりだ。
念のためヘルメットはもう1つ乗せてるけど
あくまでも予備のつもりだったので色も女の子カラーのピンクだ。
それをかぶって、女の子の後ろに乗ってる男の人。
周りにはどう見えてんだろ?そう思うと少し楽しい。
彼は仕事先(若く見えたけど社会人だそうな)に向かう途中で
その仕事場は私のバイト先に近かったからそのまま向かう事になった。
どんな仕事をしてるのか気になったけど
他人の事情に首をつっこんでも良いことはあまりない。
なのでまぁてきとーに名前を聞いて、そのまま後ろに乗ってもらった。
彼が自分の名前を言うときに何故か緊張していた気がするのは何故だろう。
でも私が彼の名前に特に反応を示さないのを見ると
安堵と少しの自尊心の破壊みたいなのを感じた。
彼は槇原さんと言うらしい。
なんかどっかの歌手の名字みたいと言ったら本名だって憤慨された。
何で怒るんだ?褒めたのに。
*
軽快な音をならしながら走るバイクをあるビルの前に止めた。
槇原さんはヘルメットをはずすと「うわ時間押してる!」と慌て始める。
「ごめん、ありがとう、このお礼はまた今度!」
そう言ってビルに駆け込んでった。
忙しい人だ・・・そう思ってバイクのキーを
「あああ!私のヘルメット!!」
慌てて振り返るも彼の姿はすでになく・・・
まぁ会社がここならまた今度でもいっかと結論づけ
私はバイト先のカフェへと向かった。