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ベルベルのもとへ

 こんにちは。

 今週もよろしくお願いします。

 しばらくシリアスシーン…。

 「『何を言っているんだ、ジャクスター。わしは最初からそのつもりだったのだ。ゼヴァローダを”雷帝”にする助言など、そのついでに過ぎん』」

 それはいつか聞いた、男女が混じった不思議な声だった。

 ブライアス王子はますます笑みを深くする。

 「『15年待ったのだ。あの男が裏切らなければ、もう数年早く手に入っていたものの』」

 そしてゆっくり私たちのほうを見た。

 右手を差し出す。

 「『さぁ、おいで。お前を引き換えにあの男はわしから知識を聞いた。代償は払われなくてはならん』」

 びくっと私は恐怖で震えた。

 でもそんな私を杖を持っていない左手で庇いながら、キラス様は言った。

 「何が代償だよ。あんたが男の呟きに戯れに語りかけただけじゃないか。いつの間に契約になったのさ。どこの世界に子どもを犠牲に研究する親がいるもんか」

 「『確かに始めは男の戯れと思っていたが、その娘をわしのところへ連れてきた時は本当に驚いた。これでわしの積年の思いが果たせるとな』」

 「偉大なる賢樹が聞いて呆れるね。ただの自己中心的な老木じゃないか」

 「『何とでも言え。わしはその娘を貰い受けに来たまでだ。用が済めばこの王子もすぐ解放する』」

 こつっと1歩前に踏み出した。

 キラス様の持つ杖の宝玉が光りだす。

 「そこの精霊、援護しな」

 ジャクスターさんが動いた。

 ひざまずいた姿勢のまま、がっと片足で床を蹴り、ブライアス王子の背中から腕を回して体を拘束する。それと同時に彼の体から何本ものツルが伸びてきて、あっという間にブライアス王子の体をぐるぐる巻きにしてしまう。

 が、次の瞬間緑の若々しい色をしたツルが全て茶色くなり、ぼろりと崩れ落ちた。

 そしてジャクスターさんもずるりとその場に崩れ落ちた。

 「え?」

 「吸い取ったんだよ。あの玉厄介だね」

 キラス様の杖の輝きが増し、そこか緑の光る矢が何本も放たれる。

 ブライアス王子はさっと”ベルベルの玉”を前に突き出し、見えない壁でそれらの矢を防いだ。

 弾かれた矢は部屋のあちこちに飛び散り、そこかしこで爆発し、家具や壁を壊した。

 その一部がドアを壊し、一時的に視界の間に壁ができた。

 「今のうちぃ」

 キラス様が私をしっかり抱いた。

 足元に緑の光り輝く魔方陣が現れ、私たちの視界から部屋が消えた。


 と、思ったらどさっとどこかへ落ちた。

 「何で!?」

 驚いた声を上げたのはキラス様だった。

 周りを見ればそこは外だった。夜空と、地面と、そして光り輝く御神木。

 私達は御神木のすぐ前に落ちていた。 

 「き、キラス様?」

 「ごめん、引っ張られたみたい」

 悔しそうに顔を歪ませる。

 「属性が同じだってだけでここまで干渉されるのは嫌だね。ストーカー男は大っ嫌いだよ」

 立ち上がり、もう1度転移しようとキラス様は足元に魔法陣を展開するが、なぜかふっと掻き消えてしまう。

 「あぁっ、もぉっ!ムカツク、この老木がっ。火ぃつけて燃やしてやりたい」

 悠然と佇む御神木を睨みつつ悪態をつく。

 「この辺一体の大地の属性の魔力が暴れてて、うまく転移できないんだよねぇ。この老木の仕業だろうけどさ」

 「暴れてるんですか?」

 「そうだよ。まるで地震の最中に真っ直ぐな線書けって言われてるくらい転移するのは難しい。かといって逃げるにしても、森の木々は老木の手下だし、あたしの命令なんて聞いちゃくれない。ムカツクわぁ」

 私はとっさにキラス様の素肌の見える腕をつかんだ。

 「……エレンちゃん、ナイス」

 「いえ、こういうことしかできませんので」

 とにかくキラス様の魔力回復をと、思ってのことだった。

 どうやら暴れる魔力とやらも、私を通して上手にキラス様の中に取り込まれているみたいだ。

 属性が同じだから問題ないのかな。

 「『あぁ、いたいた』」

 ひゅっと数メートル先に現れたのはブライアス王子。

 「派手な事するとこの辺全部の魔法使いを敵に回すことになるよ」

 杖を構え、キラス様が警告する。

 「『だから魔力を乱しているんじゃないか。魔力の乱れは天候と同じ。よくある通り雨みたいなもんだ。誰も気にするものか』」

 くつりと笑うブライアス王子だったが、随分顔色が悪い。

 「キラス様、王子様の顔色が……」

 「乗っ取られてるからね。精神的に結構きついんだよ」

 杖の先端が光りだす。

 「いくよ」

 バシュッと杖の先から次々に緑の光りの矢が放たれる。

 ブライアス王子は先程と同じように、”ベルベルの玉”を前に突き出し、見えない壁を作ってそれらを防いだ。

 弾かれた矢があちこちに被弾し、土煙を上げる。

 キラス様は休むことなく矢を打ち続ける。

 「あの障壁さえ壊せばっ!」

 どんどん矢を放つタイミングを狭めていく。

 「あっ!」

 キラス様が何かに気づいて、私を抱きしめ、何かから庇った。

 どすっとキラス様の背中に何かが当たり、反動で上に放り投げられた。

 「ぐっ」

 苦しげに息を漏らすキラス様の背中には、太い木の根っこのようなものがあった。

 「キラス様!」

 私は悲鳴を上げた。

 でもキラス様は私を抱いた手を緩めなかった。

 更に後方から落ちるキラス様の背中目掛けて、もう1本の根っこが伸びてきた。

 貫くつもりなのだろうか。

 「エレンッ!」

 シリウスの声と同時に、キラス様の背後にあった2本の根っこが炎に包まれ、燃え尽きた。

 同時に、もう一箇所に雷が落ちた。

 (シリウス!ゼヴァローダ様!?)

 落ちてきた私とキラス様を受け止めてくれたのは、シリウスだった。

 「シリウス!」

 「良かった、無事で」

 「ぐっ、すまないね。少々予想外だよ」

 「相手は人より上位の存在だ。しかたないさ」

 ふらつきながらもキラス様は杖を地面に刺して立った。

 私はまだシリウスに抱きかかえられていた。

 そのまま土煙のおさまった辺りを見れば、そこにはやや衣服が焼け焦げたブライアス王子が立っていた。その後ろにゼヴァローダ様も見えた。

 「『面倒なのが来たな』」

 「化け物が」

 シリウスが忌々しげに言うと、ブライアス王子はふふんと見下した。

 「『何とでも言え、人の子。お前達にとっても、わしが力を得るのは害ではないぞ』」

 どういうことだ、と皆が(いぶか)しげな顔をする。

 「『魔力を”祝福の大樹”から貰っているお前達の中には、もっと魔力が欲しいと思うものも多いはずだ。力を得たわしがその望みを叶えてやろうというのだ。つまり新たな魔力の供給者として』」

 にたりと笑った顔に、ぞっとした。

 「魔力の均衡は”祝福の大樹”が神より与えられた使命で、それを侵すのは神への冒涜ですよ。神樹と言われる木の神の一員であるとされるあなたが、こんな馬鹿げたことをするとは思ってもみませんでしたがね」

 ゼヴァローダ様の右手にばちっと火花が撒きつく。

 「『人の望みをかなえるのが神だろうに』」

 「いいえ、人を戒め、心の支えとなるのが神だと思いますよ」

 ばっと拳を繰り出すように、ゼヴァローダ様の右手から数本の雷がほとばしった。

 さっとブライアス王子はよけたが、細い雷の1つが首のあのふくらみに当たった。

 「『ぐぁっ!』」

 のけぞって弾け飛ぶ。

 今までブライアス王子が立っていた辺りに、キラキラとした細かいものが散った。

 近づいたゼヴァローダ様がそれを確認した。

 「これは、おそらくあの玉だ」

 父が持っていたというあの小さい玉のことらしい。

 キラス様は倒れて動かないブライアス王子の方へ近寄っていった。

 不敬ながら、つんっと杖で体をつつき、反応がないのを確かめて顔を覗きこんでいた。

 「ありゃりゃ、首元が赤くなってるね。ここに寄生されてたんだね」

 更に数回杖でつつき、やはり反応がないのを見て、キラス様はブライアン王子の頬をひっぱたいた。

 「起きなよ、王子様っ!」

 勢い良く叩くが、王子は気がつかない。

 「き、キラス様!王子様のお顔が腫れてしまいます。そのへんでおやめ下さい!」

 「え?そぉ?」

 全然気にしてなかったらしい。

 叩くのをやめたキラス様は、よいしょっとブライアン王子の右手を引張り上げ、おんぶするように背中に背負った。しかし足は地面についてひきずったままだ。

 その時、ころりと”ベルベルの玉”が転がった。

 「うわぁお」

 キラス様がおどけて、ブライアン王子を引きずってさっさと距離をとった。

 私はシリウスに支えられて、ゼヴァローダ様の方へ近寄った。

 シリウスも足元に散らばった破片をじっと見ていた。

 そしてふいに顔をあげ、転がった”ベルベルの玉”を見た。

 「あれも壊せるか?」

 「あれか。さすがに国宝認定されているからな」

 壊すのをためらうゼヴァローダ様。

 シリウスはそうか、とだけ言った。

 「じゃあ、俺がやる。あの玉はこの化け物の媒体だからな。王も息子が乗っ取られたなんて聞いたら壊す事に同意するだろう」

 「……緊急事態ということだな」

 ゼヴァローダ様も覚悟を決めたらしい。

 「エレン、ここにいて」

 「う、うん」

 地面に転がり、何の反応もない”ベルベルの玉”に2人は近寄って行った。

 2人の後ろ姿で”ベルベルの玉”が見えなくなると、彼らは揃って片腕を上げた。

 シリウスの右手には真っ赤に燃え盛る炎が宿り、ゼヴァローダ様の右手には雷の玉がバチバチと火花を散らしながら浮かび上がる。

 その2つのせいで、まばゆいくらいの光りと熱が周りを照らす。


 ほぼ同時に2人の手が振り下ろされた。


 ドォン!


 爆風と熱風が上がった。

 「きゃっ!」

 おもわず両腕で顔を覆った。

 たいした衝撃もなく、私はそっと腕を下ろして目を開けた。



 読んでいただきありがとうございます。

 またよろしくお願いします。

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