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母娘と”雷帝”誕生

 こんにちは、今週もありがとうございました。

 ほんの1時間と少しの再会だった。

 4人でいる時、最後に私は聞いた。

 どうしてあの町に残ったのかを。

 やはり村に居辛いということもあったが、私が戻ってくるようにと願って留まっていたらしい。

 「お母さん、町に引っ越すの?」

 「そうね。そのほうが良いかもしれないわ」

 最後は母娘で、と2人きりになった部屋であることをいいことに、私はずっと考えていたことを言ってみた。

 「あのね、あのドレス売って引っ越そうよ」

 「え!?」

 「だって、まずはお金がいるじゃない。まとまったお金があるなら住むとこも決まるかもしれないわ」

 「でも、あなたはファラムに行くんでしょう。持って行かないと」

 「大丈夫。あんなドレスなんて着ないわ」

 そう言って手短にファラムでの話をした。

 「あのお店で働いてるんでしょ?」

 「えぇ、親切にしてもらってるわ」

 「ウィルさんっていい人だもんね。私のこと聞いて穏便になかったことにするって言ってくれたし、子どもがいるって言ってた。お父さんってあぁいう感じなのかな」

 ウィルさんに記憶のない父を重ねるが、さっきの話から私の父はしっかり者ではなかったようだ。でも正義感溢れるところは似ているのかもしれない。

 「彼はしっかり者で、エディはどちらかといえ子どもだったわ。年上なのに感情を隠すこともなく喜怒哀楽をしっかり出してたわ。怒る事は少なかったけどね」

 ふふっと笑った母に、私は思い切って聞いてみることにした。

 「ねぇ、お母さん」

 「何?」

 「……ウィルさんってどう思う?」

 「え?あなたシリウス様とファラムに行くんでしょう!?」

 完全に勘違いした母に咎められ、私は首を振った。

 「違う違うっ!お母さんよ!だって聞いたんだもの。ウィルさんがお母さんと庇ってたって。自分とお見合いする為に来てもらってるんだって言ったって聞いたの」

 わずかに目を見開いた母に、私は微笑む。

 「ウィルさん、お母さんのこと好きなんじゃないの?」

 「……そんな」

 「だって初めて会った時、今思えばじっとお母さん見てたし」

 どうなの?と期待を込めて見つめていると、母はふいに目線をそらして言いにくそうに口を開いた。

 「……確かに、それとなく言われているのはわかるわ」

 「やっぱり!」

 「でもこの年で再婚して、しかも小さなお子さんがいるのよ?今は懐いてはくれているけど、母親としては納得しないと思うの。あの子達にとっては2年前までいたお母さんが母親なの。死んだ人間のかわりになんてなれないわ。それに」

 ふぅっと短く息を吐くと、目を細めて私を見た。

 「嫁に行く娘がいるのよ?孫もいつできるかわからない状態で、あんな小さな子たちの母親なんてできないわ」

 「だったら私の妹か弟を生めばいいじゃない」

 さらりと言った私の言葉に、母は真っ赤になって反応した。

 「な、何言ってるのよあなたっ!」

 「いいじゃない。30半ばで出産する人だっていないわけじゃないし」

 「だからって、母親に向かってなんです!?」

 「もうお母さん自由にしていいって言ってるの!!」 

 ひときわ大きな声で言えば、母はしんっと黙った。

 「もう私のことで逃げなくていいの。私はシリウスが守ってくれるし、お母さんは幸せになって良いんだよ?今までいっぱい苦労して、周囲を警戒して過ごしてきたんだもん。もう、解放されていいと思うの」

 「……エレン?あなた、何を?」

 私は呆然とする母に抱きついた。

 「お母さん大好きよ。お父さんがいなくてもお母さんがいたから、ずっと私は笑ってこれたの。だからお母さんにも幸せになって、もっとたくさん笑って欲しいの」

 「……エレン」

 「ねぇ、お母さん。私がファラムに行ったらお母さんは1人で暮らすの?もしそうならファラムに一緒に行こうよ、ね?」

 しばらく私のかを見ていた母は、ゆっくりと首を振った。

 「私はエラダーナを出て行かないわ。だってここはエディが守った国ですもの。あなたはあなたの人生を歩みなさい。それが私達の願いなの」

 そっと私の背中に手をまわすと、そのままぎゅっと抱きしめてくれた。

 「私は私の幸せを考える。あなたはあなたの幸せを歩むの。でもどうしてもつらい時は、息抜きに帰ってきていいわ。でも必ずシリウス様の元へ戻るの。これがお母さんとの約束よ」

 「……うん」


 やがて時間が来た。

 ゼヴァローダ様は儀式の参加で、本来なら朝から魔法協会へ行かなくてはならなかったが、いろいろ理由をつけて無理やり時間をもぎ取っていたらしい。

 母はいったんブライアン王子の別邸に戻るが、後のことはゼヴァローダ様が必ず責任持って町へ送ると約束していた。

 「シリウス様、エレンをよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる母に、シリウスは大いに動揺を見せた。

 「あの、どうか頭を上げてください。それにその様っていうのもとっていただければ…」

 「まぁ、でもまだ他人(・・)ですし」

 最後の最後で、母は笑顔でトドメをさした。

 ショックをうけ固まるシリウスに、母はふふっと笑って言った。

 「でも、せっかくですから、次回からは呼ばせていただきますわ」

 「……あ、はい。……ぜひお願いします」

 「くっ」

 やはりその様子がツボにはまったゼヴァローダ様は、ちょっと離れたところで背を向け肩を震わせていた。


 母を見送った後、私もシリウスとともに魔法協会へ戻った。

 すでに戻っていたコーランさんにシリウスは、とりあえず母に会えたことを伝えた。

 「純粋な魔力を封じ込めた玉、か。王子め、よほどゼヴァローダに”雷帝”になってほしいのだな」

 くくくっとコーランさんは笑い、顔を上げた。

 「ゼヴァローダはこの国では実質”雷帝”扱いだからな。これで名実ともに、堂々と”雷帝”として諸外国へ発表できるというわけだ。研究熱心な若造かと思っていたら、とんだ愛国主義者だったというわけか」

 「その玉ももう砕けた。出所もわからないまま、おそらくなかったものとして最終的には処理されると思う」

 「あぁ、そのほうがいい。つまらぬ妄想は時にとんでもない悪意を引っ張ってくる。”祝福の大樹”が”粛清(しゅくせい)の大樹”と言われぬよう、我々魔法使いは常に世の中に目を向けていかねばならないのだ」

 シリウスはコーランさんに私のことを隠したまま、父とあの不思議な玉の話をした。すでに母がこちらに来ていることは承知だったようで、なんとも複雑そうに「再会できて良かった」と言った。

 シンシアさんは素直に喜んでくれた。

 「良かったですね、許してもらえて」

 そう言われて素直にうなずけないシリウスに、シンシアさんは首を傾げた。

 「どうかなさいまして?」

 「いえ、ちょっとだけ母に怒られまして」

 「まぁ、そのくらいなんです。これから挽回すればいいんですよ」

 ほほほっと励ますシンシアさん。

 まさかトドメに「他人」と言われたなんて言えなかった。



 午後に儀式は行われた。

 すでにゼヴァローダ様への儀式として通達されており、期待の大きさは先日の儀式の時とは比べ物にならなかった。

 メイドの仕事をこなしていても、みんなそわそわと窓からみえる外ばかりを気にしているし、暇な人は御神木のある方向の窓から身を乗り出すようにして見てたり、ずっとそこに居座っている。


 やがて、まばゆい光りが辺りを包んだ。


 カッと白い光りはこの間と同じように、空に一筋の光りを残して消えた。


 その瞬間、悲鳴のような歓声が上がった。

 おそらくこの魔法協会だけではなく、通達された王都や城でも上がっているだろう。

 「”雷帝”万歳!」

 誰かが叫んだ。

 「ゼヴァローダ様おめでとうございます!!」

 誰かが口々に叫んだ。


 ドーン!ドドーン!


 外から爆音が聞こえた。

 昼間の空に白い煙をあげ、花火が打ち上げられている。

 国をあげての慶事。

 ゼヴァローダ様は認定されても微妙だ。それに今と何も変わることも変えることもないと言っていた。

 それでいいと思う。これだけ人々が喜んでくれているのは人望の賜物だと思う。

 ジャクスターさんもそう言っていた。

 「どこもかしこもお祭り騒ぎね」

 シンシアさんが笑った。

 「成功してよかったです」

 これでファラムに帰れる。


 この時私はそう信じて疑わなかった。


 また月曜日に更新したいと思っています。

 ゼヴァローダ様の儀式簡単でゴメンサナイ(笑)

 ちなみに介添え人は青の位の誰かです。特に追記なし。

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